表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/14

3. 孤独からの救い


 トキカは北の森を目指して走った。

 両親を失い、自分だけで生きていけると思えないが、他に良い選択肢を思いつかなかった。


 中立都市に向かうのは論外だが、襲撃された王都や村なら既にネプシャの軍勢が去っている可能性もある。だが、もしも兵士に出合ってしまったら……それだけは避けたい。


 兵士と魔物、どちらも見つかれば逃げられない。それなら酷い殺され方のしない魔物の方を選ぶ。

 トキカには人間より恐ろしい敵はいないと思えるほど、あの惨状は恐怖だった。だから森を目指すしかなかった。

 急いで移動したのは、あの場所に別の兵士が来る可能性があったからだ。

 全力で走り続け、ある程度離れた位置まで来たがまだ油断はできない。


 途中に何ヵ所か不自然に焼けた場所があったが、おそらく他の逃げた人が見つかり、焼き殺されたのだろう。

 やはり兵士が近くにいる。予想はしていたが恐怖で身体が震えた。

 そして、人の死には何も感じなかったことに遅れて気が付き、死に慣れてきている自分が恐ろしくなる。


 ショックで気分が悪くなったので木陰で少し休み、心を落ち着かせてから再び歩き始める。

 長時間休める状況では無い。早く森まで逃げなければ……。


 焦りと疲れを感じながらも黙々と道を進んだ。

 誰かの叫び声どころか物音すらしない。誰も居ない。

 静かな空気がより強い孤独を感じさせた。



「やっと着いた!

 ここまで来ればもう追われないかな?」


 森の手前までやって来た。

 静けさを紛らわすように、徐々に独り言が増えていったが自分では意識していない。


 周囲を確認するが人の姿は見えなかった。

 兵士が居ないことに安心すると、無事にたどり着いた達成感で力が抜けていく。ここまで本当に長かった。


(もう動けないや……このまま休もう)


 気の抜けた体はもう動かず、横になると眠気が一気に襲ってきた。



     *     *



「あれ、もう明るい……?」


 日は完全に昇っている。軽く休むつもりが、どうやらぐっすり眠っていたらしい。

 安全とは言えない状況で無防備に寝ていたことを反省して、まだ気を抜いてはいけないと自分に言い聞かせた。


「ガサッ」


(えっ……!?)


 何か音が聞こえた気がした。

 気のせいかもしれないが、慌てて木の後ろに隠れる。

 耳を澄ますと間違いなく足音が森の奥からこちらに向かってきている。


 人間ならネプシャ兵か森に逃げてきた人。

 それ以外なら動物か魔物である可能性が高い。


 もし人間だった場合、森の奥に逃げた人なら入口に戻ってくるだろうか?

 逃げた人を追いかけて森に入り、殺し終えた兵士が戻ってきたのでは? そう思えてしまう。

 不安で泣きそうになる気持ちを抑え、冷静になる。


 いよいよ足音の正体が視界に入った。

 老兵だろうか。鎧などは身に付けていないが、槍を持っている老いた男が一人歩いてくる。

 ……確実に森まで逃げてきた人ではない。


 鋭い眼光で周囲を警戒しながら歩く様は、昨夜の兵士とは違う恐ろしさがあった。慎重かつ確実に目的を達成するような、そんな恐ろしさが……


(足音の方向から見えてないよね?)

見つかることなく通り過ぎるのを祈った。


「誰だ? 何をやっている?」


 心臓が跳び跳ねそうになり、鼓動が早くなる。

 間違いなく気づかれた。足音はこちらにゆっくりと近づいてくる


(もう逃げ切れない……)


 無残に殺される光景がよみがえ り手足が震えた。

 死の恐怖と両親への約束を守れなかった後悔で胸が苦しくなり、涙が溢れて視界が歪む。


「なっ……」


 男は一瞬だけ戸惑い、そして早足で近づいてきた。


「どうして子どもがこんな場所に……大丈夫か? 何があった?」


 その言葉が自分への問い掛けだと気が付くのに時間がかかった。


「……どうして殺さないの?」


 自分が生かされている意味を理解できなくて、思わず疑問が口から出ていた。

 その人は驚く表情を見せると「何か悪い事をしたのかい?」と尋ねてきた。


 突然の王都襲撃。村から逃げたのに追われて殺される人たち。

 そして、両親の死。

 思い出すと更に涙が溢れてくる。


「悪い事…してない……私、悪い事してないのに……」

 それ以上は言葉にならなかった。

「そうか……なら安心しなさい」


 そう言って優しく支えてくれた。その温かさは、恐怖と孤独から自分を救ってくれたような気がして再び涙が溢れた。


次→3日以内

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ