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13. 旅立ちの志

遅くなりました。


 先日の出来事を全て話した。

 王子は、村人に説明した時よりも明らかに大きく驚いている。そして、驚きながらも何か呟いていた。


「精霊と会話ができる存在が実在したとは……とても信じられない。だが、それなら異常なマナにも説明が付く。

 やはり、もう一つの契約はこのお嬢さんに?

 しかし二年も使えないのは何故?」

「あ、あの?」


「あっ、すみません……。昔からマナや精霊様について調べるのが好きでして、つい夢中になってしまいました。

 ですが今のお話から考えますと、我々にはどうすることも出来ないですね……」


 王子は協力を期待していただけに、残念な気持ちを隠しきれていなかった。

 そんな姿を見ていると、本気でこの国を大切にしているように思えて、狩人から聞いていた王族の印象とは大きく違って見える。


「二年後でも大丈夫なら、私はお手伝いするけど……?」

「ご厚意に感謝いたします。二年後とはいえ、あれだけの力をお借りできればマルアスは今まで以上に豊かな土地となるでしょう。

 そして何よりも、精霊様に選ばれし『伝承の導き手』が新たに誕生することを嬉しく存じます」


 そう言って、ひざまずいた王子に驚いて言葉がでなかった。そして、狩人や王都の兵たちは信じられない光景に固まっている。

 王族が跪くはずがない。当たり前のことであり、どんなことがあっても絶対にない。だから王族を間近で見たことのある人間ほど驚いていた。


「ちょっと意味が理解できないんだけど……」

「マルアスを導かれる方にこの身を捧げるのは当然かと」


「それ説明になってないよね……。それで、その導き手ってなに?」

「過去を記した書物には、精霊様と意思疎通が可能であり、強大なマナによって国を導いた方であると残されています。

 実際に私が感じたマナの大きさや、王族しか知りえぬ情報をお持ちであることから、精霊様と会話をされたことは間違いないでしょう。ですから貴方様が導き手であると信じ、この身を捧げるのです」


 確かに精霊さんと話して、自分に魔法の才能があることを知った。だから過去に導き手と呼ばれた人に近いのかもしれない。


「でも私が導き手だとしても、そこまでされるのは……ちょっと嫌かも。

 それに、私は自分の力が誰かの助けになるなら頭を下げてもらわなくても使うから」

「恐れ入ります。では導き手様をどのようにお呼びすればよろしいでしょうか?」


「えっと、普通に名前で。トキカでいいよ! あと話し方も普通でお願いしたいかな」

「分かりました。今後はトキカ様とお呼びさせていただきます」


(本当に分かってる?)


 ……でも話し方は最初からこんな感じだった気もする。きっとこれが普通なんだろう。そう納得した。


「それじゃあ、お話は終わりでいい?」


 もう少し精霊さんについて聞いてみたかったけれど、村の修繕を急いでいる状況で長々と話している暇はない。だから、そろそろ切り上げようと思った。


「……トキカ様、よろしければ王都でマナや精霊様についての理解を深めるのは如何でしょうか?」

「えっ、私が王都に?」


「力を使う事に意欲的でしたので、ご興味があるかと思いまして。もちろん王都での暮らしに自由と安全をお約束します」


 精霊さんについて知れる。それは自分が一番知りたいことだ。それに、聖女について分かるかもしれない……。

 行きたい気持ちは強い、けれど自分だけ村から出ていくのは気が引ける。


「私は王都に行きたい。でも、その前に聞きたいんだけど……この村の人たちを解放できないかな?」

「解放ですか……? 申し訳ございませんが、詳しく聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」


 王子は、この村が出来た理由を知らなかった。だが、二つ前の王様は自分が気に入らないという理由で優秀な魔法使いを処刑して、それが王族内でも問題になり王を交代したことは知っていた。

 隣に居た狩人が全ての出来事を話し、その王で間違いないと肯定すると王子の顔色は悪くなっていた。


「――皆様から向けられていた殺気は、警戒ではなく怒りだったのですね……。私は王族でありながら、あまりにも無知でした」


 そう言って頭を下げる王子を責める者はいなかった。――そして狩人は口を開く。


「昔のことだ気にするな。それに恨んでいるのではなく、この村が襲われると思い、怒ったのだ。

 それと、家族を人質にされたと言っても脅しのようなもので、家族が牢に入れられた訳では無い。我々が森から出なかったのだから家族に不自由はなかっただろう」


「そうだとしても、皆様が罪も無く追放されたことに対するお詫びをさせていただきたい。王都に皆様が暮らせる家を用意しましょう。それから…」

「いや、森から出るつもりはない。そして、昔の家族に会う気も無い」


 王子の話を遮り、狩人は提案を否定した。


「あれから時が経ち過ぎた。もし家族が生きていたとしても、お互いに違う道を歩いているのだから、今更思い出すのは酷だろう。

 それに今となっては、この村で生まれ育った者もいる。その者たちにとって、ここは故郷だ。

 確かに危険な場所だが、故郷は簡単に棄てられない。だから我々は村から出ていかない」


「決意は固いようですね。分かりました、せめて森での生活が楽になるよう支援させていただきたい」


 こうして狩人と王子は手を取り合った。

 予定とは違う形になったけれど、これなら心置きなく王都に向かえる。



(精霊さんの力になれるように、少しでも強くならなきゃ)


 思い出の場所を離れることに多少の抵抗はあったけれど、それ以上に自分の知らないことが知れる好奇心が強かった。そして、改めて目標を意識すると覚悟を決めた。


次→

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