11. 明かされし過去
これまでとこれから
色々な事があった、本当に色々と……。
村に戻る道を歩きながら頭を整理すると、多くの疑問が浮かんでくる。
命を対価にできるのは、マナ適性が高い人だけと精霊さんは言っていた。それなのに、おじいちゃんが魔法を使っているのを見たことがない。
実は使えたのか、使えない理由があったのか……。
(村の人なら何か知ってるかな? 戻ったら訊いてみよう)
それから、精霊さんの夢についても詳しく分からない。聖女の目指した世界とは何なのか?
確認しなかった自分が悪いのだが、あの時そこまで気にする余裕は無かった。
それに次はどうやって会えば良いのか……。
気になることばかりだが、今の自分に出来るのは早く村に戻ることだけだった。
* *
村に戻ると数人の狩人が待っていた。
魔物を追うのは無謀だと判断したが、自分達だけ逃げるのは罪悪感があり、動けないでいたらしい。
自ら囮になったのだから気にしないで逃げてほしかった。そう思ったが、これは優しさとして受け取ることにした。
「心配してくれてありがとう」
狩人たちは申し訳なさそうな表情で何度も謝り、周囲には重い空気が漂う……。
そんな状況に耐えられなくなり、話を本題に進めた。魔物を誘き寄せた後、何があったのかについて……。
もう駄目だと思った所を魔法の精霊に救われ、一度限りの魔法で魔物を倒したこと。そして、命を対価にした魔法でおじいちゃんに助けてもらったことを話した。
狩人たちは理解が追い付かず困惑していたが、実際に見ていないのだから仕方ないと思う。でも、証拠になりそうなのは魔物の亡骸だけで、魔法はもう使えないのだから、それで納得してもらうしかなかった。
「精霊さんは、魔法の才能がある人しか命を対価にできないって話してたけど、おじいちゃんは魔法を使えたの?」
狩人仲間なら知っているかもしれない。そう期待して訊いてみると、村で最年長の狩人が教えてくれた。
おじいちゃんが魔法を使えなかった理由と、この場所が村になった頃の話を。
おじいちゃんは若い頃、王都で暮らす魔法使いだった。
当時の王様は、自分の強さを示すことに固執していて、マルアス王国は他国と争いばかりの日々。
おじいちゃんは争いを避けるべきだと考え、同じ意見を持つ魔法使いや騎士と協力して王様を説得しようと考えた。けれど、王様は聞く耳を持たず、意見が合わなかった人たちを揃って森に追放した。
家族は森から出たら処刑される人質として王都に残され、おじいちゃんたちは森の中で暮らすことになった。
そして、数人の魔法使いで魔法を最大限に活用することで生活する環境を整え、その場所は次第に村と呼べるほど立派になった。
しかし魔物に襲われ、追い払うことには成功したが建物に被害が出てしまい、対策として考えられたのが村を囲う壁だった。
木で壁を作り、その壁を魔法の力で強化する。こうして完成した壁の強度は十分だった。
だが魔法の力は時間が経過すると弱くなり、強度を維持できなくなる。だから毎日のように魔法の力を加え続け、壁の強度を維持してきた。
そして壁の強化に魔法を使うことで、他の魔法を使う余裕がなくなり、魔法の無い生活を送るしかなかった。
それが魔法を使っていなかった理由。
自分は知らない間もずっと守られていた。そして、それを知った今、ありがとうを言うこともできない……。
明るく振る舞おうと思っていたのに笑顔は消えていた。
そんな様子を見ていた狩人たちは、自分の力が及ばなかったことに責任を感じ、己の無力さを悔やんでいた。
だが、数十年守られてきた壁を破るほどの強い魔物を相手にして、勝てるはずもないのだから誰も悪くない。
(泣いちゃいたい。それに、誰かのせいにすればきっと楽になる。けれど……私は強くなるって決めたから)
いきなりは変われない。だから少しずつでも強くなっていく。
魔法の強さだけじゃなくて、人としての心も強くなりたい。おじいちゃんのような優しい人になれるように。
「おじいちゃんなら、いつまでも悔しんでるより、頑張ってる姿の方が喜ぶんじゃないかな……?」
狩人にそう伝えた。そして、半分は自分に向けた決意の言葉だった。
前を進まなければいけない。だって、未来を託されたのだから。
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