第7話 自由
え?
あるじ?
どういう事?
俺はその色男の事を見返す。
色男は、明らかに俺の事を見ている。
そして、気さくな感じで微笑む。
いや、イケメンだなおい。
二次元のキャラみてぇだなおい。
俺は言った。
「助けていただいて、ありがとうございます」
まずは、お礼だよな。
その色男は、俺の言葉に執事みたいなお辞儀をして、
「とんでもございません、我が主どの。また私の事はどうぞ、ニコルとお呼び下さい」
うわぁ……、すげぇ……超キャラ仕上がってるよこいつ……。
ニコルは爽やかに微笑みつつ横にいるアトに、
「お嬢さんも、いきなり手荒い真似をしてしまい、申し訳ありませんでしたね」
「いえ……こちらこそありがとうございます……」
アトは前髪を触り、少し赤面した様子で返していた。
なんだ、こいつ、実はイケメン好きか?
しかし、アトが素直に受け答えをするって事は、この男が危害を加えない奴だと判断したって事か。
そして、アトはどこかうわの空な感じで、足元のフェニックスの羽毛を触って遊んでいた。
わー、確かにふわふわで楽しそうー。
って、そんな冗談はさておき俺は、単刀直入にニコルに聞いた。
「あのー、すいません……その主ってのはなんですか……?」
「主どのは私を解放してくださったのですよ。長きに渡る眷属としての契約を」
眷属……?
「ごめんなさい……僕、何かしましたっけ?」
「サイファー様……いやもう敬う必要もありませんね。彼……サイファーを殺したのはそう、主どのですよね」
ニコルが微笑みながらも少しだけ目を細めて、俺の表情を捉えようとする。
「いや……」
え……?
何でばれてんの……?
正直、死返しがいまいちどういう原理か分かってないから、すげぇ怖いんだけど……。
俺の顔色を読んだのか、ニコルは言う。
「私はサイファーと血の契りを結んでおりました。でしたから生まれてからこのかた、私はずっと自由を奪われていたのです」
「それは、不憫ですね……」
いきなり、自分語りか。
アトといい、結構大変な環境のキャラが多いな。
ニコル……。ニコル……。
俺はSS9の記憶を必死で辿る。
ニコルは俺の言葉に苦笑しつつ、
「過去には、この血の契り……眷属としての契約を反故にしようと企てた事もありましたが」
ニコルはその綺麗な長い両手を広げて、
「ダメでした。殺されかけてしまいました。血の契りがある以上、サイファーは私の心臓を簡単に潰せるのです」
ニコルはニコニコとした様子でそんな話をする。
俺はなんて言えば良いのか分からない。
ニコルは続ける。
「私はサイファーが憎かったのですが、彼は私の魔法の才能をかってくれました。さすがにあの大魔法に魔力を込めたのは骨が折れましたがね」
「大魔法に魔力を込めたのは、貴方だったんですね……」
ニコルは笑いながら、
「はい、申し訳ありませんでした。あの時はそうするしかなかったものですから」
いや、全然反省してねぇじゃんこいつ。
マジで、普通に死にかけてるからねこっちは。
頭から血流れてたからね。
とは、思いつつも俺は、
「まぁ、従うしか出来ないですもんね」
と、苦笑いで返した。
ニコルは、俺のぎこちない引きつり顔をにこやかに見つめつつ言う。
「しかし今宵、サイファーは死にました。あなたの手によって」
「…………」
「てっきり最初は異行の魔法かとも思いましたが、あれはどうやら魔法でもない……」
「何故、僕だと……?」
「簡単です。血の契りで私とサイファーは繋がっておりましたから、彼が死ぬ寸前……まるで味わった事のない異様な気の流れが私にも流れて来たのです」
そうニコルは表情を崩さず言いさらに、
「そして、あの時私の中に流れ込んできた異様な気と同質のものを貴方から感じるのです、そう……今も……」
はは……。
ここまで裏取ってんのかよ。
これは隠せそうもないな。
俺は白状した。
「バレちゃってますか……ははは……」
やや冷たい夜風が俺とニコルの間を抜ける。
月明かりが俺たちの間を温かく取り持つ。
「お兄ちゃん、案外強いんだね」
「って、アト……聞いてたんか」
アトが、フェニックスの羽毛をポンポンしながら横から入る。
「こんな狭い所で話してるんだもん、そりゃ聞こえるし」
「そう言ってアト、実はお前ニコルさんにアピールしてんじゃないのかー? デキる女アピールだろそれ」
「ニコルさん、こんな風にお兄ちゃんは大体気持ち悪くて、意味の分からない返しをするんで気を付けて下さいね」
アトの言葉にニコルは苦笑する。
「仲が良いですね、お二人とも。しかしアト様も先程まで主どのを守る為に、頑張っておられたではありませんか」
「なっ……!」
ニコルのほうが一枚上手か。
アトは子どもだからな。
俺の事大好きっ子だからな、こいつ。
なんて、和やかな雰囲気が包む中で俺は改めて、
「で、ニコルさん」
「どうぞ、呼び捨てで」
「じゃあ、ニコル。話を最初に戻すが、なんで俺の事を主って呼ぶんだ?」
「私の新たなる主人とさせていただきましたので」
「は? いやいや、もう血の契りはないだろう?」
「はい、ありません」
「心臓、鷲掴みされる心配はないだろう?」
「はい、ありません」
「ならもう自由に生きれば良いだろう、お前の待ちかねていた自由だぞ」
ニコルは俺の言葉に爽やかに微笑み、
「簡単です。感謝ですよ。私を眷属という絶望からすくい上げてくれた感謝です」
「いや、気を使い過ぎだって」
「違います。それと同時に私は、私の意思で主どのの側でお仕えしたいと思ったのですよ。これはまごうことなき私の自由意思です」
ニコルはどこか楽しそうだった。
本当によく笑う奴だな、なんて思いつつ俺は、
「なんで、また急にそうなるんだよ……」
「単純です。胸騒ぎがするのですよ。主どのといれば、何かが起きると。いずれ世界を変えてしまうような、そんな場面に立ちあえるかも……と。その異様な気配と力にも知的好奇心が湧いてきますし」
「はぁ……」
「そしてなにより……」
ニコルは、微笑みひとつ崩さずに言った。
「私は主どのの、人柄に惹かれたのです」
「…………」
よくわかんねぇ……こいつ。
ほぼ今、会ったばっかじゃねぇか。
まぁでも、なんか楽しそうだからいっか。
あと強いしなこいつ。
そうだ、もう一点。
「なぁ、ニコル。俺ってそんなに異様な気配出てんの?」
「はい、とてつもなく」
なんで笑ってんだよ。
これのせいで、こちとらアリスに殺されかけたんだからな。
「マジで?」
「ご心配なさらず、普通の人では分かりませんから、私も一度その異質な気を体に受けてから見える様になりましたので」
「自由意思に誓って言ってるそれ?」
「はい、私の自由意思に誓って、です」
じゃあ、仕方ないか。
ニコルの自由は誰にも奪われないからな。
俺は上を見上げる。
半端に欠けた月が俺を見下ろす。
疲れたなぁ、今日は。
いろんな事があって。
俺は聞いた。
「ニコル、ちなみにこれどこに向かってんの?」
「私の城です」
「えっ!?」
「主どのご心配なさらずに、私以外誰も住んではおりませんので、気遣い無用です」
マジかよっ!
城かよ!
テンション上がる!
ふかふかのベッド!
俺はアトに言った。
「聞いたかアト! ついに俺たち城デビューだぞ!」
アトは呆れた様子で、
「なんでお城にそんな執着してんの……? 気持ち悪いんだけど……、あと昔、仕えてた頃何度か入った事あるから」
うわ、なんか城マウント取ってきたよこいつ。
まぁ良いや。
ん? てか城? それにニコルって名前。
「…………」
SS9にニコルの手記っていう、アクセサリーがあったよな。
装備すると、MPが3割増になる奴。
なるほど、だからこいつ魔力が多いのかー。
しかも、そのアイテムって確か無人の城の中にあるんだよな。
繋がった。
そうして俺は、自分自身に小さく頷きつつ、勇ましいフェニックスに連れられニコルの城へと向かった。
ここまで読んで頂き誠にありがとうございます!
ブクマや評価や感想など貰えたら嬉しいです!
次回もお楽しみに!