表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
須臾、瞬息、弾指  作者: 宇佐見レー
3/6

第二話『悩み』

なんかクオリティは最初から低いけど、さらに徐々に下がってる気がしますね。


次回更新は本当なら今日、五月十四日の筈ですたが、間に合わないので明日五月十五日になります。

 考えごとのオンパレードとなり、昨夜はあまり寝れず気付けば朝日が見えていた。

 まあ、考えごともそうだが、昨日は彼女から話しかけてくれた事ももちろん、バカなことをしていて執筆がまるでできていない状態だった。そのせいで途中からパソコン開いての作業になってしまった。

 すっかり太陽が地平線から顔を出してから仮眠を挟み、数時間後。

 昼前となった時間帯、朝食もとっていないので腹はぺこぺこ、だがあのカフェへ行くので問題はない。

 いつもより金額は高くなるだろうが、致し方なし。

 いろいろと身支度を終え、パソコンを抱えカフェ向かう。

 今日は天気がよく、スマホを見れば土曜日という文字が見えた。どうやら休日ということもあって通りには多くの人が行き交っている。

 俺もその群体の中に入り込み、流れに任せてそう遠くないカフェへ入り、

「こんにちは」

「いらっしゃ……あら、いつものお席は空けてるのでどうぞ」

 店主とそんな挨拶を交わすが、店内を見渡すと混雑してる様子だ。流石に両手に様々な物を持っていては注文は取れない。

 老若男女問わず、カップルから夫婦までさまざまな形で空間を共有する人たち、流石観光地、避暑地と言われるだけある場所だ。

 店の出入口も、休憩を終えた人、今から休憩する人で出入りが頻繁に起きている。ここで待つわけにはいかない。

 恐らく、後で注文は取りに来てくれるんだろうが、流石に俺も混雑してる時まで同じ席を確保してくれる必要はないと思ってる。

 後で話さないと……そんな事を思いながらオープンテラスへ出るが、いつもの場所に彼女の姿はない。

「そりゃそうか」

 当然か、平日と違って今日は休み、女子高生となれば友達もいるだろうしこれだけ混雑してるからいる訳がない。そう勝手に納得し、でもそれだと辻褄は合わない、と疑問を漂わせていつもの席へ視線を向けた時だ。

「え」

思いもしない光景が、そこにあったのだ。

 俺がいつも座る席、そこはいちおう二人用の席なのだが、その向かいに、母なる湖へ背を向けて座る女性がいた。

 短めで左耳にかけられた髪、女性に好かれるようなイケメンな目元、けれど服装はいつも見ていた物とはガラリと変わった純白のワンピース。

 そろそろ真夏に差し掛かるであろう時期、吹き抜ける風は裾を揺らし、火照った体を冷ましてくれて、コーヒーカップ片手の優雅な女性――――葉牡谷命は俺の心を突き破るのに、十分であった。

「――――あぶねっ」

 写真や絵では物足りない。文字として彼女を閉じ込めたくなるような、そんな美しさに脇に抱えていたパソコンを落としかけ、みっともない声を出してしまう。

 おかげさまで、それがあったから彼女は俺に気付いてくれた。それだけはありがたかったが……

「待ってました」

 優雅な彼女は、周囲の視線も集めている。

 太陽も顔を出し、白さがそれを反射するがまるで彼女自身が煌びやかのように幻視する。

 普段なら街中でこんな人をみかけたとて、話しかける勇気など持ち合わせていないし湧くこともない。

 けれど彼女と俺は知り合いだ。顔見知りと言えるぐらいには――――周囲の視線が痛い気がするが、俺はいつもの席に座る。

「今日は……絵は?」

 最初に彼女を見かけた時のように、言葉が出てこない。なんとか声帯を震わせ、絞る。表情は飄々とさせ、動揺を隠す。

 質問は正直、隠し切れなかったが。

「ここが混んでる時は家で描いてたりするんですけどね。両親に部屋にこもるなって言われちゃって」

 憂いを帯びた表情に、自身の心境を悟られまいとしたたかに笑う彼女……俺は、昨夜から気になっていた彼女の謎に対して前置きをしつつ、質問をする。

「もし迷惑でしたら答えなくていいんですが、ご両親とはあまり仲が良く……?」

 一瞬、彼女の目が見開く。流石に踏み込みすぎか……? と撤回しようとしたが。

「……ない、です」

 そんな必要はなく、彼女は一瞬間をあけるが、俯きながら答えてくれた。俺はもう一度問いかけてみる。

「昨日の話になるんですけど、こう、帰り支度してる時、親にバレたくない、みたいな感じで気になってたんです」

 素直にそう伝えると、葉牡谷さんは昨日も幾度か見た暗い表情を浮かべ、俺の顔を恐る恐る覗き込んだ。

「お聞きしたいんですが、宇佐見さんのご両親は作家になると決めた時に、なんて言いましたか?」

 ふむ、と腕を組む。確か前職を辞めたのは……恥ずかしいとは思わないが、入社から半年も経たずに辞めている。

 その業界では大手という事もあって両親は大層喜んでくれていたが……なんせ何年も前の話だ。しかも忘れたいと思える程、両親にはずいぶん申し訳なく思っていたから、時間は多少必要になる。

 何者でもなかった当時の事を、微かに懐かしく思いながら記憶をさかのぼること数秒、思い出す事ができ、口を開く。

「確か……お前の好きなようにすればいい、と言われた気がします。ただ送り出すとか見送る、とかじゃありません。呆れたような物言いだった気がしますね」

「そう、なんです、ね……」

 露骨な態度は、隠す気力も無いのかもしれない。何か期待をしていたのだろうが、聞かずともわかる。

 彼女の両親は安泰が正義なのだ。俺の両親も半ばそんな感じであったが、お金を稼げば文句なし、そんなスタンスだ。

 特に俺のような才能など皆無の人間は、大人しく引いた方が身のためなのだろう。

 だが、言わせてもらえば彼女の才能は……ずば抜けている。俺の作品をきっかけにしているなら逆算して、二年ほど前から目指していることになるが、たったそれだけでこのクオリティは、なかなかいない。

 何かかける言葉はないか、そうやって探すものの、彼女もこの空気を嫌ってか、明るく振る舞いながら申し訳なさそうに言った。

「ごめんなさい、こんな暗い話をしちゃって。そうだ!実は聞きたいことがあるんです!」

「ぜんぜん気にしないでください。俺で答えられることならなんでも!」

 嫌な事から逃げるのは決して悪い事じゃない。事実俺は仕事を辞めた。

 気にならない訳ではなかったが、本人が嫌がる話をする理由がない。俺は彼女の、強気そうでミステリアスな雰囲気が戻り、安心した。

 なぜなら彼女の表情が曇ったりしているのは、青天霹靂という矛盾が如く似合わないからだ。

 途中、店主が注文を取りに来てくれ、

「ご注文は?……って予想通り仲良くやってますね!」

「叔母さん!私が知らないことを教えてくれるんです!」

「いや俺が知ってるのは小説くらいなもんです。他の事はてんでダメで、勉強になるくらいです」

 先程までの表情はどこへやら、本当に楽しんでくれてるのがわかるほど、その目をキラキラさせている。

 大した事は話していない。例えばれんさみうの話であったり、小説の書き方、俺からの質問であったりなど。

 店主はそれを聞くとどこか安心したように微笑む、昨日の帰り際にみた顔と同じ、我が子を見る母親だ。

 店主は注文票を片手に、厨房へ戻っていく。

「そうだ宇佐見さん、宇佐見さんは小説を書く時ってなにか気を付けることありますか?」

「気を付けること、ですか」

 思わず聞き返してしまう。もちろん俺がれんさみうであるからで、一度名義を隠した以上は辻褄が合うように話を合わすしかない。と最初は思っていた。

 けれどよくよく考えてみれば、俺自身がれんさみうのファンにすれば、その考え方に共感したと言いやすい。

「そうですね。昨日は驚き過ぎて言えませんでしたが、実は俺もれんさみう、先生のファンなんです」

「あ、だから昨日はあんな様子だったんですね」

「すごい失礼になるんですが、言えばマイナーじゃないですか」

「あー、えー……まぁ確かに」

 拳を唇に当て、深く思考しながら認めたくない、そんな気持ちが勝っていたが、言葉の後半は頷き納得していた……まあ本人が言ってる訳だから。

「だからその、写真とか絵とか、文字に閉じ込めるというのは意識してますね。やっぱり自分が考えたものをきちんと伝えたいので」

「なるほどです。私は文字じゃないですけど、今書いてるあの絵は先生から学んだことを意識して描いてます」

 今更ながらこの話は長く続けない方がよさそうだ。

 なんというか自画自賛をしてる気分になる。が、いい考えが浮かんだ。れんさみうとして話せばいいんだ。

 俺が実際に憧れた作家の事を話せば、ぼろは出ないはず。作家としての原点がそこなのだ。

「初めて読んだ時、衝撃的でした。こんな書き方があるんだ、こんな緻密に文字として描写していいんだって」

「わかります!」

 彼女は興奮気味に、けれどそれをどうにか抑えようとコーヒーを含みながら。

「ん、なんて言うんでしょうねぇ……絵とも写真とも言えない、あの文字たち。一文字読み進めるだけで頭を、脳みそを刺激するあの感覚」

 恍惚とした表情の彼女は、やはり次は悲し気に言う。

「新作を出してほしいものです」

「あはは、がんば……いや、そうだねぇ」

 唐突に出かけた言葉をなんとか押し戻し、共感したようにうんうんと頷いてどうにか意識を逸らす。

……港運なことに、聞こえていなかったみたいだ。彼女はパァっと明るい笑顔を俺に向け、こんなお願いをしてきた。

「宇佐見さんの小説!読ませてください!」

 なんとも太陽よりも眩しい笑顔だ。拒否するのにも大分力が必要で、たじろいでしまう。

「い、いやそれはなぁ……」

「いいじゃないですかっ!れんさみう先生の事が好きなら、きっといい作品の筈ですから!」

「うーん……やっぱりダメですね」

 考える素振りを見せて、彼女はようやく引いてくれた。だが「代わりに」と小さく呟き一拍、


「好きなことを話せる人っていなかったので、これからも話し相手になってください」


 自然な笑顔で彼女は言った。

 誰もが惚れ惚れとしてしまう、整った顔で。

 それを断る理由などない、肯定する。彼女の言葉の、違和感にも気づかずに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ