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神代少女

作者: モフきのこ

 おれは冴えない、どこにでもいる男子高校生。

 勉強面もいたってふつー、運動だってできなくはないけど得意でもない。

 日々窓から見える空を見上げる毎日だ。

 でもこんな凡人なおれでも気になる人がいる。


 それは一列挟んで隣の席の空泣神火さんだ。


 一列挟んでいるから顔はよく見えないが、ふと彼女のちょっとした動きに反応してしまう。

 ばかばかしいかもしれないけど、想ってしまうんだ。

 これが恋なのかは分からないけれども。

 みんなは空泣さんから『氣』のようなものを感じていて、おれはそれにあてられたのかもしれない。うんうん。


「なあ、三橋。女子のみんながさ。空泣さんって巫女さんなんじゃないか説が流行ってるんだ」


「・・・・・・いきなりなんだってんだよ。それは」


「だってお前、空泣さんのことが好きだろ?」


「ブッ!」


 思いっきり吹き出した。

 下手にクラスメイトからじろじろ見られるのが心に痛い。


「そっ・・・・・・そんなことないだろ!!」


「いやいや、理解力のあるお友達の俺だからこそ分かるんだ」


「どこを証拠に!!」


「俺との会話中じろじろ空泣さんの事を見ていたから」


 バレバレだったのかよ!

 というか言ってくれよ!


「何で見えていたのに行ったからなかったのかな?マイブラザー」


「あまりに熱視線だったから止めるに止めづらかったのさマイブラザー」


 ・・・・・・可哀想に、俺。


「まあ、そんなこんなで気にした俺はお前さんの為に女子の噂ごとのあれこれを聞き耳たてながら情報を集めたってわけさ」


「それ日頃中聞き耳立ててたまたま聞いたって説はないよな?」


「ーーーーーーそんな事は放っておいて、このメモに残した神社に行ってこいよ」


「やだよ!なんか空泣さんの事つけてるみたいじゃんか!」


 ーーーーーー結局、来てしまった。


 おれはその噂をほんとかどうか確かめることにした。別に好きだからというわけではない。ただ気になるからだ。

 おれはその神社に向かうことにした。いつも行く本屋を通り過ぎて・・・・・・。


 それが自分の人生をいっぺんさせる事とは知らず。


 @@@@@


 メモに書かれた神社をスマホで調べて見ると、山の麓の近くにある神社の事だった。


『天子神社』


 駅を三つ挟んだ距離の山にある神社の事で、そこに行く前にある程度マップで調べてみた。

 実はその神社は3年前から参拝者が少なくなり、毎年初日の出のついでに訪れられていた神社だった。

 参拝者が少なくなれば、もらえるお布施が少なくなり、お布施が少なくなれば修繕する費用がなくなる。


 実際そこは廃墟に等しかった。


 だけど彼女はそこに立っていた。


「・・・・・・・・・・・・っ」


 おれは思わず彼女に見惚れていた。


 みんなが噂した通りに巫女衣装を纏った彼女が、ふわふわと浮く水滴と共に舞っていたからだ。


 雨のように縦横無尽に動き、雪の様にゆっくりと動き、雷のようにズバッと動いたら、今度は雲のようにピタっと止まった。


 そんな型の無いようで型のある動きにおれの目は釘付けになってしまった。


「・・・・・・・・・・・・あ」


 彼女はふと声を漏らして踊りを止めた。


 おれに気づいたのだろうが、おれは演者のパフォーマンスが終わった時と同様に拍手をしていた。いや、本物の演者にだってこんなに拍手はしないだろう。


「すっ凄いよ空泣さん!こんな踊りを!」


「待って!来ないで!!」


 え?と言うハズおれの喉はヒュッと音を漏らしただけだった。

 おれが思わず声をだして拍手し、前に進んだ先は鳥居だった。


 鳥居をくぐることは、神様のいる神域に入ることを知らずに。


 巨大な獣が宙に浮いていて、人のようにも見える姿は無頓着なおれでも分かるほど『氣』を放っていた。


 そう・・・・・・全員神様だった。


「空、泣さん・・・・・・これは・・・・・・?」


 おれはようやく出た声で彼女に聞いた。

 しかし彼女は冷たい目でこちらを見つめ、質問の返しではない言葉を発した。


「あなたは地球を愛してますか?」


 @@@@@


「地球?地球・・・・・・かあ。普通かな?」


「そんな事はありません。人の感情は『好き』か『嫌い』かそれだけ。・・・・・・少し話しましょう」


 すると空泣さんは半ば強引におれの腕を引っ張って、社の奥へと向かわせた。


「ちょっ、ちょっと!空泣さん⁉︎空泣さん!!」


 ピタッと止まっておれは思わずのけぞりながら止まった。

 何がどうした?と思ったおれの目に映った彼女は、泣いていた。


「どうして?何故あなたがここに?ここは誰にも来れないハズなのに⁉︎」


「空泣さん落ち着いて!いやおれも全然落ち着いてないけど落ち着いて!」


 おれは彼女の肩を押さえて、落ち着かせようとした。

 こう言う時に缶コーヒーの一本持っておけばよかったと思ったのはこれが初だった。


 落ち着いた彼女曰く。


「ここは神様が集まりやすい場所で、廃墟になりかけていたこの場所をかってに借りたんです。最初は半信半疑だったんだけど、君の言うような『氣』を感じてさ、これは本物なんだなって思った。それで私は神様に願いを祈った」


「その願いは?」


「女の子にそう言うの聞くのはデリカシーがないよ。・・・・・・まあ、ありがちな恋の魔法とでも言っておく」


 うっ、とおれは喉を詰まらせた。空泣さんは恋の魔法に頼るほどの好きな人がいたのか。


「すると神様はそれの交換条件として神様が独自に作ったらしい神楽を1週間に一度。神様たちの前で踊る事を約束としたの。だけど気まぐれかどうか分からないけど守って貰えなくて。取り敢えず、仕方なしに踊ってたら君が来たの」


「な、なるほど」


「それでさ、さっき私が言った。人の感情は『好き』か『嫌い』かそれだけってのは神様が思ってる事らしく。『普通』って言うなぁなぁな感情は嫌いらしいです」


「それって、ただ『普通』が嫌いって事じゃ無いのか?」


「そうともいいます」


「ところでおれたちはどうして山の中を歩いているんかな?」


「それは・・・・・・ラッ、いや!あなたがもっと好きになって貰いたいからです!」


「どう言う事だ?」


 それよりも接続がおかしい。わざとか?


「あなたがもっと地球を好きになって欲しいんです」


 おれは、「そっか・・・・・・」とだけ呟いた。

 彼女の笑顔に、目が吸い込まれてしまったから。


 @@@@@


 山をもっと進んで、進んで、進んだ先で彼女は止まった。


「時間は・・・・・・もう少しですね。そこから先を覗いてください」


「ここから、覗く・・・・・・っ!これはッ・・・・・」


 赤い赤い太陽が山に吸い込まれていく、その景色だった。

 その上にはもう夜が重なって、幻想的な風景だった。


「『薄暮』って言うんですよ。夕方と宵の間の一瞬だけ訪れる景色。私はこれを見るのが好きなんです。君はそう思いませんですか?」


「うん。とても綺麗だと思う」


「他にも黄昏時とか、雪に積もる山とか、天気が見せる景色とか。環境とか場所とかで楽しいと思えるんですよ。だから頭ごなしに否定したって、なんか・・・・・・もったいないじゃないですか?」


「・・・・・・それは、たしかに」


「それに・・・・・・隠したい感情をこの時間は隠してくれますし」


「えっ、それはーーーーーー」


「内緒です!内緒です!それは・・・・・・そう!神楽の事です!」


「な、なるほど?」


「それに・・・・・・おっと、もう時間ですね。そろそろ帰りましょう。裏口から抜けると簡単ですよ」


「でも、空泣さんは?」


「私にこの格好で帰れと?私の服は社内に置いてるんですよ!」


「ご、ごめん。先に帰るね」


「はい。あ、えと。忘れてました。もう一度聞きますね?『あなたは地球を愛してますか?』」


「・・・・・・多分、好きになれるよ」


「そっか・・・・・・なら良かった」


 こうしておれは空泣さんとまた会う約束をしてこの山を降りていった。


 @@@@@


「いいのかい?」


「なにが?」


 私の後ろには黒子のマスクのような神が立っていた。


「君の願いはあの子を自分だけのものにすること。本来、人間だけが持つエゴに近い感情だよ。それなのに、あの場で言わなくて良かったのかい?空亡」


「そりゃあ、今は別にいいよ。だってさ」


「?」


「恋する女の子は無敵なんだから!」


 @@@@@


「おはよう。空泣さん」


「おはよう」


 ちゃんと言えた気がする。彼女に。

 ほんのりでも顔が赤くなってたらおれは勝手ながらに思う。


 だって、


 おれは隠し切れないほど顔が赤くなってたから。


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