#8知らないんだって!
扉を突き破るのってどれぐらいの力が必要なんでしょうか…?
突如現れた男に驚いたあたしはその大柄な体にすくみ上がった。
兜で顔は見えないが明らかな敵意を持ってこちらを見つめる男と目が合う。
後ろでババアのため息をつく声がどこか遠く聞こえた。
「……抵抗の意思はないようだな。奴隷はどこにいる?」
男が静かにあたしに尋ねる。
えっなんであたしに聞くわけ!?
あたしも奴隷なんですけど!!
「……なぜ答えない?まさかとぼけようとでもするつもりか?」
男が腰に構えた剣の柄に手をかける。
違う違う!!知らないんだって!!
あたしがガタガタ震えていると、
「ここにはあたしとそいつしかいないよ。奴隷なんかとっくに逃げてるさ。」
ババアがそういった。
え、逃げた?
確かにあたしがここにいる間ほかの奴隷みたいな人には会わなかったけど……
会わないどころかいなかったの??どういうこと?
あたしが混乱している横で二人は会話を続ける。
「虚偽の申告をしたところで罪が重くなるだけだぞ。」
「嘘なもんかい。あんたが吹っ飛ばした扉の横から奴隷小屋に行けるよ。今はこいつしか使っていないさびれた小屋さ。」
「……。調べろ。」
男が部下らしき人にそう告げると、数人を置いてあたしが普段使っている奴隷小屋を調べに向かった。
「それで、お前は何者だ?先ほどから何も話さないが……。それなりにいい服を着ているようだがこの店の主人ではないのか?」
急に話しかけられコクコクとうなずく。
「では、名は何という。」
……これは…記憶喪失のふりをした方がいいのかしら…
正直このババアには会ってすぐ見破られてるから怖いんだけど……
そう思いながらババアの方を振り向くとババアはフードを目深くかぶって顔を隠していた。
……このババア!!!
何自分だけ素顔隠してんのよ!
もういいわ!自分で切り抜けるわよ!!
「…わからないわ。」
「わからない…だと?」
「森で倒れているところを拾われてここに売られたの。それからはここの奴隷として過ごしてる。その前からの記憶はないから名前もわからないわ。」
あたしがそう答えると男のすぐ後ろに立っていた部下らしき人がババアに向かって声を荒げた。
「っな…!記憶がないものの奴隷化は重罪だぞっ!貴様っ!そこになおれ!!」
「待て。」
男が静かにそういうと部下らしき人は口をつぐんだ。
そして、ババアに問いかける。
「お前はそれを知っていたのか?」
対してババアはというと……
大きくため息をついていた。
「モルディ、アンタ体は成長したのに中身はまるで成長してないねぇ…。短気なのはいくらか治ったみたいだが、目の前のことしか見えてないんじゃまだまだだよ。」
「…なに?」
「物事の本質を見ろって教えただろう。」
「貴様ァッ!!団長にそんな口をきいてただで済むと…」
「黙れッ!!」
また声を荒げた部下を叫ぶように黙らせたあと、大男は振るえる声で尋ねた。
「まさかお前は…いや、あなたは………バーバラ、様…ですか…?」
えっこの人ババアの知り合いなの?
ってか様付け!?
「全く、ばれないように顔を隠してたとはいえお前の短絡さにはあきれるねぇ、モルディエント。」