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#29 トラウマ


モルディエントさんが叫ぶと同時に周りに漂っていた気配が彼から吹き出るように強くなった。

襲い掛かってきた彼の手が届くよりも早く、あたしはその気配に飲み込まれた。


一瞬視界が暗く染まった後、走馬灯のように映像が頭に流れ込んでくる。

それはモルディエントさんの記憶だとなぜかすぐにわかった。


『卑しい獣人の仔!』


『このバケモノ!!』


小さなモルディエントさんの周りを囲んで口々に罵詈雑言をぶつけてくる同年代の少年たち。

それを遠巻きに見守るだけで何も注意することのない大人たち。

小さな体でそんな悪意に耐えるその姿を見るだけで胸が張り裂けそうになった。


しばらくそんな光景の映像が流れていたけど突然場面が切り替わってモルディエントさんが大人の女性と彼より少し年下の少年と三人で勉強をしている光景だった。

なぜかモルディエントさん以外の二人には黒いもやがかかっていて顔がわからないけれど、あの髪色は昔のババアと王太子かしら。

仲良く勉強をしたり、時には王太子とふざけて遊んで二人そろってババアに叱られたり、さっきいじめられていたあの光景が嘘の様に楽しそうなモルディエントさんをみてほっとする。

カクサレのことをキラキラした顔で教わる姿は自分が当事者になってしまっただけに少し気恥ずかしかったけど…。

そんな風にババアに色々教わりながら生活するうちにモルディエントさんと王太子は城下街へお忍びで出かける様になった。

お忍びと言ってもこっそりと王城を抜け出すのではなく、ババアの授業の一環で民の様子を見に行くというものだけど。

姿を変える魔術をババアにかけてもらうことで身分を隠し、いろいろな所を見学しに行っていた。

そんな風に城下街を散策していたある日、突然モルディエントさんにかけられていた魔術が解け始めた。


『モルディ!姿が…!』


王太子の声で事態を把握した彼はとっさに裏路地に駆け込む。

その瞬間、モルディエントさんの目の前がものすごい光に包まれだした。

なんだか前に神様が来た時の光に似てるなと思いながら見ているうちに徐々に光が収まってきた。

完全に光が収まった後、その場所には一人の女性が座り込んでいた。

その服装や顔立ちはどう見てもあたしが暮らしていた世界のもので、この世界の人とは思えなかった。

きっと彼女もあたしと同じカクサレなのね。


『カクサレ…様?』


モルディエントさんもすぐに気が付いたようで、いまだ座り込む彼女に手を差し伸べていた。

けれどその女性はおびえた表情になって叫んだ。


『バ…バケモノ!!』


その声を聞いたモルディエントさんは固まってしまった。

ちょうど後ろにいたあたしには彼の顔は見えなかったけど彼が深く傷ついたのは何となく理解できた。

声が届くことはないと知りつつも話しかけようとしその瞬間、足元の地面がガラガラと音を立てて崩れ始めた。


「うわっ…!」


突然消えた足元にバランスを崩してそのまま奈落へと落ちていく。

落ちていく中で最後に見えたモルディエントさんの姿はまるで泣いているようで、あたしは気付く。


――ああ、そうか。

モルディエントさんのトラウマってこのことだったのね。



読んでいただきありがとうございます。

書いていて思いましたがこれ完全にモルディエント視点を二回書いただけですね…。

ま、まあ主人公への説明ということでお許しください…。

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