セピア色の花
今と成っては 幻だったのかもしれない
それはもう ずっとずっと昔に 抱いていた
淡い「花」の記憶
✻ ✻ ✻
本当は 少しずつ少しずつ
ゆっくりと育てていくものだった はずなのに
ある時 周りが面白半分に囃し立てて
きちんと咲く前に 蕾の中を知りたがり
――結果 「花」は無残に暴かれた
優しかったあの人は 其れでも良いと 言ってくれたけれど
好きだと 囁き 想いに応えてくれたけれど
暴かれた「花」は 形はおろか
まだ少しも 色付いてさえいなくて
私は只々 無言で立ち尽くすしかなかった
✻ ✻ ✻
もしも 今だったなら
其処からでも
多少は歪ながらにでも
もっと 如何にか仕様も 有ったかもしれない
「花」をそっと鉢植えに戻し
優しく陽に当て 水を遣って
時間をかけて
新しい「花」として 育て直せたかもしれない
あの人だって きっときっと そう望んでいたはずなのに
あの頃の自分は
兎に角頭がまっ白で
襲い来るであろう 苦しみの波から逃れたくて
全てを なかったことにしたくて
「花」も「彼」も 自分から無理やり遠ざけてしまった
其の内 「花」は儚く 枯れた
だって未だ 根も張れていなかったのだから
全ては 此れから だったのだから
✻ ✻ ✻
あの儘咲いていたなら どんな「花」が咲いたのだろう?
赤い小華?
ピンクや黄色の大輪?
それとも あの人の彩に染まったろうか?
手元に残った セピア色の残骸を抱きながら
今でも時々 あの頃を思い出す――
お読み下さってありがとうございました。