外国んの噂
どうやら、男たちの話は第一皇女に関する話題のようだ。ローグも気になって、食べながらも聞くのに集中する。
(皇帝陛下の病気の原因が毒によるもので、しかも、あのリオル様がその毒を盛ったなんてな……)
(それで反逆罪で捕らえるために昨日の騒ぎ……なんて話だ!)
(あんなにこの国のために貢献してきてくださったあのお方がそんな反逆行為なんて、やっぱり何かの間違いだ!)
(あのバカ皇子なら分かるが、リオル様がそんなことするはずがない!)
「…………!」
(でも、考えようにはあり得ない話じゃないんじゃないか?)
(どういうことだよ、リオル様が冤罪じゃないってのか?)
(毒を盛られて病気になったのはあの皇帝だろ。武闘派で戦が大好きな恐ろしい……)
(まあな。国外のことばかりで国内の政治を第二皇女に任せてばかりだったしな……)
(言っちゃ悪いが野蛮で傲慢っていうかさ、あの方がいつまでも皇帝だと、帝国はいつまでも争いが絶えない未来しかなかったんじゃないか?)
(……言われてみればそうかもな。皇帝が変われば国の方針も変わるよな)
(国のためを思って皇帝を毒殺しようと? ……あり得ない話じゃないかもな)
(国のために、無益な戦を好むj皇帝を毒殺か。リオル様がそんなことまで……!)
「…………」
男たちの話は、国の兵士に聞かれたら大変なことになりそうな内容だったが、酔った勢いで話ている様子もない。おそらく、彼らの第一皇女を慕う気持ちを察するに、彼女を擁護する言葉を口にせずにはいられなかったのかもしれない。
(帝国第一皇女リオル・ヒルディアか……)
ローグは男たちの話とこれまで集めてきた帝国の情報を頭の中でまとめる。そして、今後の活動の方針を確定するために行動に移すことに決めた。
(利用できるかもしれないな。どっちにしたってな……)
数分後。
「ごちそうさま!」
「ご馳走様」
「これから、すぐに外に行くの?」
「一度部屋で休んで、準備してから出る」
「分かった!」
二人は食事を食べ終わった。その後、部屋に戻っていく。その二人が食堂から出て行った後、このような声が聞こえてきた。
「ちっ……こんな時に外に出ていく? デートのつもりかよ……」
「けっ! 恋人がいる奴はいいよな全くよ!」
「能天気な奴らだよ、全く……今の帝国のことを知ってんのか?」
ローグとミーラ。……本人たちは気付いていないが、この二人は少し目立っていたのだ。特にミーラに関してはそこそこの美少女なので、男の中には注目するものもいたのだ。そんなミーラといつも一緒にいるローグは嫉妬の対象になっていた。
「…………」
ただし、ローグに注目していたのは嫉妬する男たちだけではなかった。
「…………」
それはフードを被り顔を見せないようにしている女性だった。黙々と食事をしながら、目線だけはローグとミーラを離していなかった。余程気になっているようだ。
(……あの二人、女のほうは『王国』と言いかけた。男のほうはそれで話をそらした。もしや、あの二人は……!)
女性は食事を終えるとすぐに食堂を後にした。早歩きで自身の部屋に向かっていったのだ。そして……。
少ししてから、ローグとミーラは出かける準備を整えていた。二人は食堂に来た時とは違う服装に着替えている。冒険者らしい武装が目に付く服装だ。ミーラはともかく、ローグは外に出るということが今どんなに危険か理解はしているのだ。帝国全体がピリピリしている中で、軽装で出会歩くのはあまりに軽率なのだ。
「さて、行くか」
「うん! ……あれ?」
「どうした?」
「部屋の外に誰かがいるみたい。それも……」
「それも?」
「……魔法持ちみたい」
「っ!?」
二人は部屋から出て、そのまま宿を出て外を出歩くはずだったが、ここで思わぬ事態が発生した。二人が出てくるのを待っている人物がいるようだ。
「ミーラ、騒ぐなよ。『奴ら』かもしれん」
「えっ、それって……!」
「騒ぐな」
「……うん」
ローグの言う『奴ら』とは、王国の人間のことを指す。ローグとミーラも元は王国の人間だが、この二人は王国の上層部に狙われる立場にいるのだ。
(魔法持ち……王国っ側の人間か? 遂に追手がきたか?)
魔法持ちとは、思春期の頃に魔法を発現した者のことを指す。ただし、そういう人間はほとんどが王国で生まれる。王国以外の他国で魔法を発現した人間はほとんどいないし、聞いたこともない。何故なら、魔法を発現する条件には大掛かりな魔術が必要なのだ。王国側はその真実を隠してきたが、一か月ほど前にローグ達の手によって王都全土に知れ渡ってしまった。そのため、王国はローグ達を捕らえようとしているのだ。
「待っているのは何人いる?」
「一人ね」
「一人?」
「うん、間違いない」
「?」
部屋の中で緊張する二人。だが、相手が一人と聞いてローグは少し動揺した。




