旅の決意と合体魔法
ローの前世の世界。つまり、『ナイトウ・ログ』の生きていた世界は、魔法と科学が存在し、その両方が両立していた。魔法が科学を支え、科学が魔法を支える。『ロー・ライト』の生きる世界と比べると、はるかに発展していた。
しかし、『ロー・ライト』の生きる今の世界は、『ナイトウ・ログ』の生きていた世界の未来の姿、つまり退化してしまった世界だったのだ。
なぜそんなことが分かったかというと、
(俺が攻略した迷宮は、『ナイトウ・ログ』の時代に作られたものだ。いや、そもそも、あの迷宮の制作者は『ナイトウ・ログ』! つまり俺本人じゃないか!)
本来迷宮は、軍人や傭兵といった戦闘のプロなどを鍛えたり育てたりするために作られたものだった。中に強力な合成生物(魔物)がいたり、攻略者に特典があるのもそのためだ。
そんなものが古びた形で今の世界にあるということは、両者の世界は同じ世界で、今は大幅に退化してしまっていることを意味する。
どうしてそんなことになってしまったのかはローでも分からない。前世では研究所の崩壊に巻き込まれて死亡したのだから。
「……はあ、何をどうすればこんな世界になるんだ?」
(天変地異? 異常気象? 巨大隕石? まさか戦争じゃないだろうな? 魔法関連の……)
様々な原因を考えたが、手掛かりが一切ないため、答えが出ない。だが、一番高い可能性があるとすれば……。
「やっぱり戦争だよな。魔法が発展したせいで犯罪が多発したし、そのせいで国同士の関係が悪かったしな。となると『ナイトウ・ログ』おれにも責任があるわけか」
『ナイトウ・ログ』にも責任があるというのは、『ナイトウ・ログ』は魔法の研究者として、数々の魔法の発展に貢献してきたのだ。特に危険な魔法や戦闘向けの魔法の発見についてだ。それが国際問題になったこともある(戦争が始まったり、テロ組織ができるほどに)。つまり、もし戦争が原因なら、責任が無くもないとも言える。
「……ここでそんなことを考えてもしょうがないな。でも、気になってしまうから手掛かりから探していくか、世界崩壊の謎を解き明かすために」
それこそが復讐以上の理由だった。この村は王国の中でも辺境に位置すると言われているため、ろくに外の情報が入ってこない。こんな村にいても仕方が無かった。
「そういうわけで父さん、母さん、改めて言うが俺はこれから旅に出ます。ここにはもう来ないので、どうか本当に天国で見守ってください」
両親の墓を振り返って、ローはその場を後にした。もうここに戻ってくることが無いことに寂しさを覚えながら。
墓参りを終えたローは最後の仕上げのために村の外に向かう途中、邪魔が入ってしまった。それは……。
「おいおい、なんだこれは……?」
ローは、あきれた口調でつぶやいた。
なぜなら、大勢の村人たちが手に剣や斧を持って、震えながら身構えていたのだ。中には復讐の対象としてローに攻撃されて、ボロボロの者もいる。親方たちや冒険者たちだ。
「何のようだ?」
「ひいっ! 来た!」
「ばっ化け物め!」
「悪魔め!」
「こっこれ以上、お前の好きにはさせないぞ!」
「ぶっ殺せ! これだけの数で攻めれば大丈夫だ!」
「…………なるほどねえ」
どうやら、村全体で立ち上がり、動ける者たちでローを仕留めるつもりのようだ。ローとしては村の外で最後の仕上げをするつもりだったのだが、ここで邪魔をしに来るとは予想外だった。それでも、ローにとっては誤差の範囲でしかないのだが。
「はあ、……雑魚が集まったぐらいで何ができるんだ?」
「舐めるなよ! このクソガキが!」
「お前が強力な【雷魔法】が使えるってのは分ってんだ!」
「こっちはもう対策が出来てんだよ!」
「そうだ! ここでお前を倒してやる!」
「……ほう。これは中々だな」
武器を持った者たちが鎧に包まれ、白く光りだした。【鉱物魔法】の鎧に別の魔法を組み込み、補助魔法で防御力を高めたようだ。よく見ると武器の形状が変化している。確かに一般的な【雷魔法】の対策はできているようだ。ローは素直に称賛する。
「よくできてるじゃないか。これならただの【雷魔法】は通じない。この短時間でよくこれだけの準備ができたものだ。だが、ざんねんだが相手が悪かったな」
「なんだと?」
「どういうことだ?」
「あんたたちは俺の魔法を見誤った」
「「「何っ!?」」」
ローの右手から赤紫色の光が発生し、体全体から金色の光が発生した。赤紫色の光は、ローが村人たちに見せた魔法だが、金色の光は初めて見せるものだった。
「何だあれは!?」
「二つの光!? 二つの魔法!?」
「馬鹿な! そんなことありえないぞ!」
「何が起こってんだ!?」
ビッビリビリビリビリビリビリビリ!! キイイイイイイイイイン!!
「あんたらのことは嫌いだったが、これほどの努力を示したのなら、こちらも少しだが本気を見せなきゃ失礼だろ? だから見せてやるよ、今の俺の力を!」
(本当は試し打ちだけど)
右手の光から、先のとがった大きな螺旋状の槍を形成し、それに金色の光が螺旋に沿って入り込んだ。まるで二つの力が一つになるように。
バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ!!
「名付けて! 合体魔法【昇華螺旋槍】!」
「来るぞ! みんな構えろお!」
「ひいい! 神様~!」
「うわああああああああ! 来るなあああああああああ!」
「駄目だね! 喰らえー!」
ローは『それ』を手にもって、本当の投げ槍のように投げた。それも、とてつもない速さで。まるで、ローの身体能力が大幅に上がったかのように。
バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ!! ドッカアアアアアアアアアン!!
「「「「「ぎゃああああああああああああああああああああああああああ!」」」」」
「もう聞こえてないだろうけど、俺の魔法は『ロー・ライト』の【外道魔法】と『ナイトウ・ログ』の【昇華魔法】だよ。悪いね、本当に相手が悪かったな」
村人たちの悲鳴が聞こえる中でローはそう呟いた。
今、ローには二つの魔法がある。なぜなら、迷宮で得た『前世の自分』の特典は、前世の記憶を思い出させるだけでなく、前世の魔法も使えるようにするものだったからだ。
【外道魔法】は、怒りや悲しみなどの負の感情と悪意が強いほど強力で様々な形に変えられる魔法であり、【昇華魔法】は、あらゆるものを強化を超えてより優れたものに変えることができる魔法なのだ。
そんな二つの魔法が組み合わされば、絶大な力になるだろう。ましてや、今のローが使えば当然だ。
「……あ…あう……」
「ぐ……うう、……」
ローの前に立ちはだかった村人たち全員が再起不能になったことを確認したローは、そのまま村の外に出る。村に対して最後の仕上げをするために。
「これで終わりじゃない。後は生きて苦しんでもらわなきゃな」
ローは倒れたものを見ながら残酷に笑う。