悪特村長を倒して墓参り
「そ、そんな……馬鹿な……」
「お、俺たちが……こんな、一方的に……」
「あ、あいつ……魔法なしじゃ……」
多くの店を焼き尽くした後、そこにやってきたとある野次馬を蹴散らしてローが向かった先は、村長の家だった。そしてそこには……
「きっ来やがったな、ロー!」
「よう、村長にして親戚のおじさん、もはやじいさんかな?」
村長は父の兄にあたる人で、ローの叔父だった。そして、この男からローの悪夢は始まったと言っていいものだった。なにしろ、親戚の身でありながら、最初にローの敵になったのだから。
「おじさんは俺に冷たかったな。俺が魔法なしと呼ばれるよりも前にさ」
「ちっ、だから何だというのだ!」
「俺はあんたに何もしていない、つまり俺の両親に対抗意識かなんかがあったんだ。両親が死んだからあんたは村長になれたんだからな」
「だっ黙れ! 兄であるワシよりも強い魔法をあの二人は持っていやがったんだ! 少し嫉妬したぐらいで何が悪い!」
「それで息子の俺に当てつけか、少し嫉妬したぐらいで魔法なしをいいことに村全体で嫌がらせを行うのか、幼稚かつみじめだな(笑)」
「きっ貴様! ガキの分際で!」
この男は、ローの両親に対して強いコンプレックスを抱いていた。その両親の死をいいことに、ローを八つ当たりの対象にしていたのだ。村全体で行う手口からかなり悪質だ。
「貴様も同じだ! 魔法なしかと思えば強い魔法を持ってきた! 門番共だけでなく、元軍人の親方にまで勝っただとふざけるな!」
「へえ、耳が早いな。さすが臆病者、尊敬するよ」
「くそ! どこまでもなめやがって!」
(まだか! まだ来ないのか!?)
この男は焦っていた。持っている魔法が決して戦闘向けではないからだ。そこそこ高齢になる身では逃げ切れるとは思えかった彼は、村の冒険者たちを待っていた。村で騒ぎを起こすローを捕まえるよう依頼していたのだ。
(早く来てくれ! そしてこいつを……)
「冒険者なら来ないぞ」
「なっ何!?」
「店を潰しまわったらやってきたからな。あいつらにもひどい目にあったから復讐はしたんだ。だから来ないよ」
「そんな…馬鹿な…」
「あいつら、村長の依頼で俺を捕まえるとか言ってたけど、少してこずった程度だったよ」
その通りだ。商人の店を焼き尽くした後に冒険者(野次馬)見つかり、そこで戦ったが、最後にローが勝ったのだ。逃げ出した者もいたが、追い付かれて叩きのめされたのだ。
数時間前。
「見つけたぞ! ロー・ライト!」
「村長の命令でお前を捕らえる! 生死はいとわない!」
「どんな魔道具を使ったか知らねえが、魔法なしは大人しくしてりゃいいんだ!」
「……村長はよく伝えてないのか? 【念話魔法】の持ちぐされだな」
彼らは冒険者の身でありながら、ローには野次馬のようだと評される程度だった。勝敗はローの圧勝。
そして現在。
「……ということがあったんだ」
「くっそおおおおおおおおおお! やくたたずがああああああああああああ!」
「残念だったな」
「待て、待ってくれロー! お前にはワシの財産をやる! だから……」
「いらないよ? 馬鹿じゃないの? えい」
ビッビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリ!!
「ひっ! ひえぎゅああああああああああああああああああああああああああ!」
村長にもローの魔法がぶつけられる。自業自得だった。
「いいザマだな、村長さんよ」
「…………」
黒焦げになった村長(一応生きてる)に用は済んだローは、そのまま村長の家で旅の準備に取り掛かった。自分の家よりもこの家の方が物資が豊富だと思ったからだ(つまり略奪)。実際、村長の家だけあって、旅に必要なものは揃っていた。少し身分がいいだけのことはある。というよりも贅沢だ。
「さて、用意はできた。行くとするか、この村を出る前にな」
ローはこの村の連中を痛い目に合わせたが、まだ復讐は終わっていない。この村を出た5人の幼馴染が残っている。彼らを追うために旅に出るのだ。
だが、この村で復讐の他にやり残したことがある。迷宮に入る前の目的だ。
「父さんと母さんの墓参り。最後になるな、もう帰ってこないし」
ローは最後の墓参りに行くことにした。
墓所。
「………」
両親の墓の前に立つローは、過去を振り返っていた。
両親と共に生き、死に別れ、魔法なしと呼ばれ周りから蔑まれ、挙句に迷宮に迷い込んだ。そして迷宮を攻略し、今ここにいる。心を変えて。
「ロー・ライト、最後の墓参りに来ました。父さん、母さん。俺は故郷を出ていきます。どうか天国で俺の旅を見守ってください」
ローは両親の墓に花を添えて、感謝を込めて手を合わせた。
数分後。
「……って言っても、今の俺はもうこれまでの『ロー・ライト』じゃないんだけどな」
その通りだ。ただの『ロー・ライト』のままなら、最後に命を奪うまでが復讐になるが、ローは最終的に誰一人殺すことは無かった。
「まあ、あのまま『ロー・ライト』だけだったら、頭のイカれた殺人鬼になっていたからな。ていうか人間って極限状態になるとあそこまで狂えるのか。いや、その前に村の馬鹿共の苛めがヤバすぎなんだな。こういうのはアニメや漫画だけだと思ったのに」
その通り。今の彼は『前世の自分』、『ナイトウ・ログ』が混じっているのだ。その影響は彼の復讐をも変えた。『ナイトウ・ログ』の部分が、狂気に染まった『ロー・ライト』をまともな方に戻したのだ。
「復讐をする時点でまともとは呼べないが、『ナイトウ・ログ』は変人だったしな研究一筋の。魔法の研究をしてる時に研究所が崩壊するなんて、なんかの実験の失敗か? もう確かめようがないからどうでもいいけどな。それ以上に気になることがあるし……」
『ナイトウ・ログ』は魔法の研究者だった。あらゆる魔法の研究・実験・調査に携わっていたため、魔法の知識は豊富だった。その知識を生かして、村の復讐を成功されたのだ。それは、残りの復讐にも役立つのだろうが、『ナイトウ・ログ』の部分が復讐以上の目的を持ってしまった。
「それにしても……、どうして世界はこんな風に退化したんだ?」
それは、『ナイトウ・ログ』の部分が興味深く感じた疑問だった。