暴く計画
「はあ、はあ、……」
トーレンは逃げ続けていた。ただひたすら、ルドガーと距離を取りたかっただけで、どこに向かっているのかも考えていなかった。
「はあ、はあ、……ここまでくれば大丈夫か」
「何がだ?」
「っ!?」
トーレンが声がしたほうに振り替えると、そこにいたのは見知らぬ少年と少女だった。いや、少女のほうは知っているはずなのだが今のトーレンはそれどころではない。
「な、何だお前たちは!? ここをどこだと思ってるんだ!」
「俺達が攻めてる魔法協会だろ? 幹部のビルグ・トーレンさんよ」
「何い!? 攻めてるだと!? おまっ、貴様らも敵か!? 奴の仲間か!?」
「正解!」
敵だと知ったトーレンは攻撃するか逃げ出すか迷っていたが、そこで少年の後ろにある人物が黒焦げになって倒れているのが分かった。その人物はトーレンがよく知る人だった。
「んなっ! そんな! 会長!」
「それも正解! ついでに倒したのは俺! その次の獲物が今、目の前にいます!」
「っ!? ひ、ひあ……」
「んん?」
「ひっ! うぇあああああああああああああああああああああああああああああああ!」
「……聞いた通りの臆病者だな。【外道魔法・憤怒】『理不尽の雷』」
ビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリ!!
「うぇぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
ドサッ
またしても情けない声を上げながら逃げ出したトーレンに向かって、ローグは【外道魔法】をぶつけてメルガーと同じ目に遭わせた。
「……トーレンって、こんなに情けない奴だったんだ」
「見た目通りってやつだろ? さてと、これで魔法協会上層部二人を確保した」
物陰からミーラが顔を出してきた。彼女のトーレンを見る目はとても冷めていた。
「次はいよいよ暴くってこと?」
「その通りだ。洗いざらいしゃべってもらおうか。魔法協会の全てを、魔法の全てを、王都にいる全ての人間にな!」
その通り。ローグが魔法協会を利用する時が来た。
数分後。
「……うう、ここは? ……はっ! これは!?」
メルガーは目を覚ますが、辺りは真っ暗だ。そしてすぐに自分が縛られていることに気付いた。隣にはトーレンもいたが同じように縛られている。しかも、二人とも黒焦げだ。メルガーは気を失う直前の出来事を思い出した。
「そうだ! あの時私は罠にかかって意識を失って……トーレン! 起きろ! 眠ってる場合ではないぞ! 起きてくれ!」
「うう……私は、一体……?」
「我々は敵に捕まったのだ!」
「はっ!?」
メルガーの声で起きたトーレンが目を覚ます。それから二人は情報交換して状況の打開のために相談しあうが、そこである人物が現れる。
「よう、お二人さん。ごきげんよう」
「ひい! 貴様は!?」
「……ローグ・ナイト!」
暗闇から、元凶の少年が現れる。それはローグ・ナイトだ。彼の次の計画が始まる。
カチッ
ローグはポケットの中に突っ込んでいた手で、何かを指で押した。ポケットに手を入れたまま、ローグは計画を実行に移す。
「お元気そうで何よりです。魔法協会の幹部ビルグ・トーレンさんと会長のメルガー・メンデスさん、でしたっけ?」
「……!?……」
「……元気に見えるわけないだろう、こんな目に遭わされたのだからな」
トーレンは恐怖で震えて何も言えない。メルガーは目に怒りを宿して文句を言う。その様子を見てローグはうまくいくと思った。
(幹部の男はともかく会長はいい感じだな。これはよくしゃべってくれそうだ)
「黒焦げにされたことをそこまで根に持つことないでしょう? 今までずっと非道極まりない人体実験をしてきたんだからさあ? 何の罪もないものを相当死なせてきたんだから、その程度で済むなんて贅沢だと思わないのか?」
「っ!? な、何を、言って……!?」
「……まだ気が済まないというつもりか、今度はどうするつもりだ?」
「そうだな、あんたたちのやってきた非人道的な人体実験や、他者から魔法を奪って野に捨てる悪逆非道な行為を騎士団や国に訴えたとしてもな~」
「「…………」」
「国そのものが、分かってて容認しているうえに、騎士団も協力してるとなると、この国で魔法協会を裁けるはずがない。何故なら、国民の間で、魔法協会の悪~い噂が流れていたのに誰も調査しなかったぐらいだしな~」
「…………」
「まったくその通りだよ。だが、そこまでわかっているなら、どうするというのだ? まさか、お前が裁くとでもいうのか?」
「話が早いな、会長さん」
「……ひいっ!?」
(よし。肯定したな!)
ローグは二人が黙り込んでいて内心焦ったが、メルガーが話に乗ってきたため、ホッと安心した。
「まあ、正確には似たようなもんだけどさ、その前に話をしようぜ」
「話だと? 何だそれは? まさか、ミー……」
カチッ
「……ラ・リラにした仕打ちのことで文句でもあるのか?」
「いや、彼女のことじゃないさ」
カチッ
「話ってのは魔法のことさ」
「「……?」」
「何でこの国だけが、他国に比べて、魔法持ちが多いのかって話だ。国の人口の9割も魔法持ちがいるというのはどういうことかな?」
「な、何を言ってるんだ?」
「お前は何を言い出す? 魔法とは神が我が国の民に授けてくださった贈り物なんだぞ? そんなことも知ら……」
「本気でそう思うわけないだろう、魔法の研究をしていれば魔法を持つリスクのことも分かってるはずだろ?」
「き、貴様!? 何を!?」
「お、おい、まさか!?」
「魔法を持つことは、体に負担をかける。特に影響があるのは、生きられる寿命だ。魔法を持つ体になれば、10年くらい寿命が縮む」
「「んなっ!?」」
トーレンとメルガーは二人揃って目を丸くして驚いた。魔法協会が見つけてしまった真実、そして最重要機密を目の前の少年の口から出てきたのだ。




