門番と同僚
数日後。
村の門番二人が仕事中に世間話をして退屈しのぎをしていると、一人の少年を見つけて驚き、笑い出した。いい退屈しのぎだとして声をかけ始めた。
「おい、見ろよあれ! ローじゃないか、あの魔法なしの」
「本当だ。いなくなったと思ったら戻ってきやがったのか、村の恥さらしが」
「まったくだ。魔法なしの役立たずが」
それはロー・ライト。数日前、村から姿を消した少年だった。
「よう、良くもどってきやがったなロー、この魔法なしが」
「何しに来たんだよ、ああ?」
「……ふう、改めてみるとほんっとに嫌な奴らだな」
スパン ドサッ
「ああ? 何だと!? この魔法なしが! ……え?」
男が間抜けな声を発したのは、拳を振り上げようとした腕が手首の方から切り落とされていたからだ。そして、その痛みはすぐに襲い掛かってくる。
「ぐあああああああああ! 腕があああああああああああああ!?」
「あ、相棒! ロー、貴様! なにしやがったあ!?」
「手首を切ったけど?」
「ふざけんな! よくも!」
もう一人の男が剣を構え、怒りの形相でローを睨みつける。
「俺は正当防衛なんだけど?」
「何ふざけたこと言ってんだ! ていうかなんてことしやがった!」
「復讐だけどさ。命までは奪わないから安心しろ」
「何言ってんだ、魔法なしが! なめんじゃねえええええええええええ!!」
(ぶっ殺してやる! 魔法なしめ!)
この男は気付くべきだった。ローが持って無いはずの魔法で手首を切ったことを。そうすれば、少しは抵抗できただろう、ローの魔法の餌食になるのは確定だったが。
「えい」
「な!? これは!? がああああああああああああ!?」
ビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリ!!
門番はローの手から出た赤紫色の光を正面から受けてしまった。彼は黒焦げではないにしろ、大やけどを負った。ローの言った通り、命だけは助かっている。そのまま気絶してしまったので、ローは仕事に支障をきたすくらいに切り刻んだ。そして、もう一人の方に近づく。腕をなくした方に。
「な!? 何でだ!? 何でお前が魔法を!? 魔法なしのくせに!」
「ああ。最近使えるようになったんだよ。おかげで復讐できる」
「そっそんな!? 馬鹿な!? ありえねえだろ!?」
「さあて、どうしてやろうか?」
「待て! 待ってくれ! 今までのことは悪かったから……」
「駄目。許してやらない。えい」
「ぎゃあああああああああああああああ!!」
ビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリ!!
「さて、次は仕事場の連中か」
もう一人も大やけどにした後(ついでに腕の傷口は血が止まるほど焼き尽くした)、ローは村の外の仕事場に向かう。かつての同僚と上司に会うために。そして復讐のために。
「……まだすっきりしないしな。……まあ、今の俺じゃなあ」
村の外側の森の開けた場所に複数の男たちがいる。彼らはローの仕事の同僚や先輩で、今休憩中のようだ。そこにローが現れた。
「おい! あいつ、ローじゃないか?」
「「「「「えっ?」」」」」
「本当だ!」
「マジかよ! 村からいなくなったってのに!」
「ちっ魔法なしの屑が、まだいやがったのか」
「もう来なけりゃいいのに」
「またいたぶってやろうぜ!」
ローに対する男たちの感情は、露骨に嫌そうだったり、下卑た笑みを浮かべたり、面倒くさそうだったり様々だ。彼らはローを取り囲み、最低な歓迎を始める。
「ロー! よく来たな―おい!」
「いい度胸だな、ああ?」
「ここに居場所はねーよ! お前はとっくにクビだ!」
「目障りなんだよ!」
「とっとと死ねばいいのに!」
そんなことを言い始める同僚たちにローは極めて冷めた態度をとる。
「ここも相変わらずだな。屑ばかりが群れてるな。俺って恵まれないな~」
「「「「「「何!?」」」」」
「よく聞きな先輩方。あんたらは本当の屑で愚か者だよ、バーカ(笑)」
ローは、意図的に彼らを煽る。より愉快な復讐をしたいがために。
「お前! よくそんなこと言えるな!」
「なめやがって! 魔法なしのくせに!」
「もはや歩けなくしてやる!」
「そんな態度できたことを後悔させてやる!」
「また、いじめてやろう! やっちまえ!」
「「「「「「おう!」」」」」
同僚たちは魔法をぶつけようとする。彼らは仕事上ほぼ同じ魔法を使う。つまり彼らの手の内はローに知られているということだ。
(こいつらは土系の魔法しか使わない。親方を除いてな)
「「「「「「くらえ!」」」」」
ドオオオオオン!!
「「「「「「やったぜ!」」」」」
「ふん、やっぱり。一斉に石をぶつけてきたか。進歩しないな」
「「「「「「何!?」」」」」
ローは、彼らの魔法の餌食にはならなかった。直前に近くの木の上に飛び移っていたのだ。同僚たちにとって、かつてのローでは考えられないことだ。
「何が『やったぜ!』だよ。馬鹿じゃないの?」
「「「「「「いつの間に!?」」」」」
「今度はこっちの番だ。『くらえ!』で、いいのかな?」
ビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリ!!
「「「「「ぎゃあああああああああああああああ!!」」」」」
ローの魔法が同僚たちに襲い掛かる。全員が門番のように気絶すると思われたが……
ドサッドサッドサッドサッ ガクッ
「はあはあ……ロー、テメエ……」
「ほう、耐えたのか。見事(笑)」
「今のは……魔法か! 魔法なしじゃなかったのか!?」
「最近使えるようになりました、祝ってね(笑)」
「ふざけんな! 調子に乗りやがって!」
一人だけローの魔法に耐えた男がいた。ローに最初に気付いた大柄の男だった。彼はもともと土系の魔法というわけではなく、似たことができる魔法の使い手だ。確か……
「くそ! 今頃になってこんな強い魔法を使いやがって! しかもこんな事をしでかしやがって! 絶対後悔させてやるぞ! 恩知らずが!」
「恩知らず? 仕事をくれたのは感謝するけど、それにお釣りがくるほどいじめたじゃないか?」
「うるせえ! もうどうでもいい! 今、お前を叩きのめさないと気が済まねえ!」
「そうか、なら来いよ。俺に勝てるかな?」
「【雷魔法】だろう、最近使えるようになっただけのやつに負けるか! 俺のは【剛力魔法】だ!」
「知ってるよ。自慢だったな」
【剛力魔法】は身体能力増加の魔法だ。体全体の強化も一か所の集中強化もできるものだ。最も、見たところローの魔法に対処できるとすれば、防御力の増加になるが。
(こいつらを気絶させるほどの魔法を使ってもローのやつ余裕がある! くそ! そういえば魔法が使えなくても魔力だけは結構あったなあいつ……まずいな、俺にやれるか?いや、やるしかねえだろ!)
「いくぞお! くらいやがれえ!」
「ふん、じゃあ倍でいいか」
ローはもう一度、同じ攻撃を放った。ただし、威力は先ほどの2倍増しで。
ビッビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリ!!
「うわああああああああああああああああああああああ!」
ドサッ
「俺の勝利だ。ははっ、楽勝」
「何がだ?」
「ん? おお」
戦いに勝ったローが余裕の表情をなくしかけるほどの男が声をかけてきた。かつてローを仕事に雇った人物であり、同僚たちのリーダーでありローの復讐の相手の一人。
「親方。久しぶりです」