第二の非常事態
魔法協会内部・入り口付近。
「生存者の確認を急げ! 復旧作業にも取り掛かるんだ! 決して外部に情報を漏らすな!」
魔法協会幹部のアルフレド・アンリルの声が響く。魔法協会は魔術の暴走が止まってから、生存者の確認と復旧作業に取り掛かり始めていた。だがここで、予想外の出来事が起こった。
ギギィ
「「「!?」」」
こんな状況でバルムドとハイドが魔法協会に現れたのだ。それを見た構成員たちは二人に罵声を浴びせる。
「おい! あれを見ろよ!」
「バルムドとハイドだ! 何でこんな時に戻ってきたんだ!?」
「お前らどこ行ってたんだよ!? 怪しい奴を探してたんだろ!? そいつは見つかったのか!?」
(バルムドとハイドだと!? 今戻ってきたのか!?)
こんな時に戻ってきたバルムドとハイドに不信感を抱く者達は、二人に容赦なく攻め立てる。だが、肝心の二人の様子はおかしかった。何故なら……。
「「…………」」
「おい! 黙ってないでなんか言えよ!」
「後ろめたいことでもあんのか、ああ!?」
「「…………」」
(なぜ黙っている? ハイドまでお大人しいとはどういうことだ? そもそも定期連絡はどうしたんだ? 何故、仮面もかぶらないで戻ったんだ?)
アンリルだけが疑問に感じているが二人は何を言われても黙ったままだった。その代わり、バルムドが手をかざしだした。そして……。
「おい! 何のつもりだ!?」
「ひょ、」
「「「ひょ?」」」
「【氷、結、魔法】……『氷矢・雨』……!」
「「「なっ、何!?」」」
ヒュン! ヒュン! ヒュン! ドガッ! ザシュ! グサ!
「「「うわあああああああああああ!?」」」
「くっ! あのバルムドが我々に攻撃だと!? まさか!?」
バルムドが構成員たちに対して攻撃を始めた。驚く構成員たちとアンリルだが、それで終わりではなかった。今度はハイドが魔法を発動していたのだ。
「うう……【獣……魔、法】『狼、化』……! ぐるあああああああああああ!」
「ハ、ハイドが狼に!」
「ど、どうしちまったんだお前ら!?」
「おい! 逃げるぞ!?」
多くの構成員が混乱するなかで、一人の男が走り出した。
「くそ! 私が相手をする! 他のものは戦闘班と幹部に知らせろ! バルムドとハイドが敵に操られているとな!」
「「「!」」」
アンリルが二人の前に出る。攻撃してきた二人は操られていると判断したのだ。だからこそ、アンリルは、事態の収束のためにも自分が戦わなければならないと思って行動した。たとえ、この二人を殺すことになったとしてもだ。
(バルムドとハイドは強い。私が本気で殺す気にならなければ勝てんだろう。幸いにも、二人の実力は知っている。戦闘パターンもな。二人には悪いが、運が良ければ重賞だけで済むだろう。……死んでも悪く思うなよ!)
魔法協会内部でついに戦闘が始まった。皮肉にも、幹部と操られた構成員との間で。
「【針魔法】『毒針千本』!」
「「!」」
シュパパパ!
アンリルの手から毒の針が飛びだした。暴れるバルムドとハイドに向けて放たれたが、二人は難なくかわしてしまう。バルムドが右に、ハイドが左に避けた。
「やはりかわせるか、だがそれは分かっていたことだ! これで二人を引き離せたのだからな!」
これは二人の行動パターンを知っているアンリルの作戦だった。二人のうち、どちらかの動きを封じることで被害の拡大を食い止めるつもりったのだ。左に避けたハイドがすぐに間合いを詰めてきた。
「ぐるあああああああああああ!」
「今だ! 【針魔法】『針網』!」
シュパアアアアア!
「ぐっ!? ぐるああああああああああ!?」
「ハイドよ。これで少しの間大人しくしてもらうぞ。【針魔法】『眠り針』!」
ブスッ
「ぐるうううううう……」
ハイドのスキを突いたアンリルは、『針網』で針でできた魔法の網でハイドを絡めとり、『眠り針』でそのまま眠らせてしまった。
「あとはお前だけだなバルムド……」
「……【氷、結……魔法】……『氷、の剣』」
バルムドが氷の剣を形成した。アンリルもそれに合わせるかのように、【針魔法】を発動する。アンリルは槍を形成した。
「【針魔法】『針の槍』。私の槍がお前を止めてやろう! 魔法協会のために!」
ジャキン! ガキン! シュバツ! ガッキーン!
二人は互いの武器を手に持って、戦い始めた。槍を避け、剣を避け、そして、槍と剣が交差する。その戦いはまるで、魔法のぶつけ合いというよりも兵士や騎士の戦いのようだった。見ている構成員たちはそんな風に思ってしまった。
「これが……戦闘班と幹部の戦い……!」
「これが魔法持ちの戦いだって? どうみたってそれ以上だろう……」
構成員たちの驚きは無理もない。今、戦ってるアルフレド・アンリルとバルムド・ヒョウは、どちらも元騎士団に所属の身だった。魔法持ちで剣や槍を持って戦う戦法はもともと慣れている。それどころか、魔法を使うよりも得意だと言っていいほどだ。
「はあああああ!」
「…………っ!」
ジャキン! ジャキン! ジャキン!
その二人が壮絶な戦いが繰り広げられる中、ついに勝敗が決まった。
ジャキン! ガタンゴトン!
グサッ! ブシュウウウウウウウウウウウウ!
バルムドの剣がはじかれて、剣を手放してしまったのだ。そのスキをついて、アンリルの槍がバルムドを貫いた。アンリルはバルムドの出血を確認して槍を抜いた。だが……。
「終わったな、悪く思うなよバルムド。幹部と戦闘班に伝えろ! 戦いは終わ……」
「がはっ、【氷……結……魔……法】……」
「何っ!?」
「『自、爆……氷、花』」
(……まさか……この、魔法、を……味、方に……使、う、ことに……なるとは……す、すまな、い……アン、リル……殿……)
カッ
アンリルが気付いた時には遅かった。アンリルとその場にいた構成員たちは、氷の中に閉じ込められてしまった。彼らを閉じ込めた氷は、花の形をしていた。それはさながら、氷の花のようだった。




