魔術停止
魔法協会内部。
ダダダダダッ!
魔法協会の会長と幹部3人が魔術管理室に向かって走っている時だった。突如、彼ら4人にローグとミーラの『魔力崩し』が降りかかる。そして、
「く、うあ……な、何だ」
「ま、魔力が……うう……」
「アンリル! パルサ! くっ、今度は人体への魔力干渉か……!」
「か、会長、どうか……!」
アンリルとパルサが急に苦しみだして倒れてしまった。トーレンとメルガーも同じように苦しみだす。だが、4人はこんなところでうずくまっている場合じゃない。先を急ぐ必要がある。ここで、メルガーが打開のために魔法を使う。
「分かっている! 【反射魔法】『反射結界』!」
ピカッ!
メルガー達四人を包む白い結界が発生した。その結界の中にいる4人は苦しみが無くなって、ほどなく立ち上がり始めた。【反射魔法】『反射結界』は、あらゆる攻撃を反射して跳ね返す魔法。この中にいる間は、魔法による攻撃も受け付けないのだ。当然、『魔力崩し』からも解放される。
「か、会長、ありがとうございます……」
「う、うう……」
「さすが会長です……!」
「そんなことはいいからすぐに魔術管理室に向かうぞ!」
「「「はい!」」」
立ち上がった4人は、再び走魔術管理室に向かって走り始める。
ダダダダダッ!
数分後。
メルガー達4人は、魔術管理室の中にまでたどり着いた。早速、4人は魔術管理用の『大魔力炉』を停止するために取り組み始めた。大魔力炉は4っつの起動装置によって、運用されている。この起動装置を全て停止させることで、大魔力炉は活動を止めて、魔法協会中の魔術を停止させられるのだ。
「準備はいいな。ではいくぞ、第一起動装置停止! 次!」
「第二起動装置停止!」
「次!」
「第三起動装置停止!」
「次!」
「第四起動装置停止!」
「大魔力炉は!?」
ブウウウウウウウウン………………シュウウウウウウウウウウウウウウウウ!
「大魔力炉……停止を確認しました!」
「うむ!」
大魔力炉が停止した。これで全ての魔術が停止して暴走することはなくなるはずだ。実際、魔術管理室からも聞こえていた暴走や悲鳴が収まっていた。
「静かになった……」
「終わったのね……」
アンリルとパルサは一安心した。だが、トーレンとメルガーは違っていた。その顔には、安心しきった様子は一切無かった。
「お二人とも、まだ終わっていませんよ。黒幕がまだ分かっていないうちは安心できません」
「その通りだ。すぐに生き残った者達を二手に分ける。敵の捜索と内部の立て直しに向けて行動せねばならんからな。ここまでのことをしでかしたのだ、戦闘班を中心に何としても始末しなければならん。そのために我々も四方に分かれて指示を出さねばならん。いいな!」
「「了解!」」
トーレンとメルガーの言葉に、アンリルとパルサは気を引き締めなおした。この後、彼らはメルガーの指示のもと、四方に分かれて行動を開始した。
魔法協会の門前。
しばらくして、魔法協会から騒音や悲鳴が聞こえなくなった。それは魔法協会の全ての魔道具と魔術が停止したことを意味する。ローグはそのことに少し感心した。
「ほう。思ったより早かったな。もう少しかかるとおもったんだけどな。さては、4人のうち誰かが『魔力崩し』に対抗できる魔法持ちだったか?」
「そうみたいだったよ。なんか、魔法がはじき返されるような感覚があったから……」
「向こうにも魔力か魔法に干渉するタイプがいるってことか、ハードルが上がったな~」
「それで、次はどうすんだ坊主?」
ルドガーがローグに問いかけるが、ルドガーはこの次にすることは知っていた。これで魔法協会全体を混乱させるという第一段階が終わったのだ。次の段階に入る準備はすでにできている。それをあえて聞くのは、彼が元は戦場で戦う兵士だったからだろう。戦場において、作戦を決行する重要性を体で知っているのだ。確認を怠ることは無い。
「もちろん、この二人に出向いてもらうさ。なあ、お二人さん」
「「…………」」
ローグは仮面をつけた男たちに話しかけるが、二人は答えない。その様子を見たルドガーはどこか複雑な心境のようだ。ミーラは特に気にしたりはしない。ルドガーもミーラも、この二人が何者かを知っているからだ。
「まさか、あのお前がこんな風になるとはな。なあ、バルムド」
「…………」
名前を呼ばれても、答えは返ってこなかった。この二人の正体は、バルムドとハイドという数日前にローグを襲撃してきた魔法協会の追手だった。しかし今は、ローグ達の都合のいい駒になってしまった。理由はもちろん、ローグの【外道魔法】によるものだ。ただ、この場合はミーラのケースとは違っていた。ミーラの場合は心を作り替えたものだが、この二人は体の自由が奪われたのだ。つまり、ミーラと比べれば奴隷か捨て駒かという違いだ。
「それじゃあ、仮面外して暴れてもらおうか【外道魔法・色欲】『愚かな人形』」
ローグの魔法がかかった二人は、仮面を外して魔法協会の門を開いた。外した仮面が道端に捨てられる。そんな二人は内心、こんなふうに思っていた。
(畜生! 畜生! クソガキめ!)
(よくもこんな辱めを! 許さん! 絶対に許さんぞ!)
二人は心の中で怒り狂っているのだが、その思いは表に出せないどころか、魔法にかけられて口を利くことさえできない。屈辱の極みである。二人はそのまま、魔法協会に入っていった。その様子を見ていたローグは、二人がかぶっていた仮面を拾って、次の指示を出す。
「また騒ぎになりだしたら、今度は俺たちが中に突入する。もっとも、その前に彼らを転移するけどな」
バルムド達が突入することで第二段階が始まった。肝心のローグ達が突入するのは、第三段階になるのだ。




