表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ローグ・ナイト ~復讐者の研究記録~  作者: mimiaizu
第1章 悪童編
32/206

震える少女

 王都には全部で4っつの門がある。ミーラは他の三つの門の門番に話を聞いてもらおうとしたが、駄目だった。すでに魔法協会の手が全ての門番に回っていたのだ。


(魔法協会は手が早いな)

「私は絶望したわ。だけど、途方に暮れてた時に門から王国の騎士団が出てきたの。その騎士団の中には『あいつ』がいたのよ……」

「『あいつ』ってまさか?」

「……そう、『レオン・ビリー』よ」


 レオン・ビリーとは、ローグの復讐対象の最後の一人にして、最悪の相手だ。騎士団にスカウトされたとは聞いていたが、もうすでに他の騎士団員と一緒に働いているとはローグは思ってもいなかった。彼もまだ少年のはずだったからだ。ミーラは彼に助けを求めたようだが、この様子だと最悪の結果になったようだ。彼女の今の惨状はそれが原因だろう。


「私は彼に助けを求めたのよ……それなのに……うう……」

「それなのに、どうしたんだ?」

「あいつは、あいつは! 私を見捨てたのよ! 裏切ったのよ! そして、こんな目に合わせたのよ! 私の現状を知ったら、助けるどころか私に向かって魔法をぶつけたのよ!」

「そんな!? あいつが!?(やっぱり、そこまでしたのか)」 

「じょ、嬢ちゃん……」


 ミーラはレオンのことを思い出すと、怒りで興奮し涙を流しながら、さっきとは別の意味で落ち着きをなくした。だが、ローグはレオンの非道を聞いていたが、あいつならやりかねないと思った。


(あいつは表では優等生顔だけど裏じゃかなり利己的な奴だったからな。普段は正義面してるが、自分のためなら平気で他人を蹴落とすようなやつだったんだが、ミーラはそこらへんは分っていなかったな。思えば、俺のことは魔法なしと分かった時点で誰よりも態度を変えてたからな)

「わ、私……レオンなら助けてくれると思ったのに、信じてすがったのに、あいつは、『魔法協会と敵対したら僕の立場が危うくなるじゃないか、ましてや魔法なしに落ちぶれた君はもう価値が無い』なんて言って私を焼いたのよ! 最低最悪よ!」

「ミーラ……」

「そんな、友達にやられた傷だったのか……俺はてっきり魔法協会だと……」

「魔法なしになったくらいで……! こんな……こんな……!」

(……なんだと……この女……!)


 ルドガーが絶句するほど衝撃的な事実がミーラの口から語られるが、ローグは別の意味でミーラの言葉が聞き捨てならなかった。それは、魔法なしになったミーラがレオンに攻撃されたことに怒りを覚えていることだ。


「うう、許せない、絶対許せない! レオンのこと信じてたのに、魔法なしだからって、こんなひどいことを平気な顔でやったのよ! こんなこと許されるはず……」

「その言葉、そっくり返してやろうか? 元魔法持ちのミーラ……!」

「え?」

「坊主?」


 突然、ミーラの言葉をローグが遮った。一瞬、キョトンとしたミーラとルドガーはすぐには分らなかった。今のローグの顔には、かつて『ロー・ライト』の頃の怒りと憎しみが宿ったことを。


「ミーラ、お前は自分が昔やったことを棚に上げて何を言ってるんだ?」

「な、何を……」

「魔法なしを差別していじめるのなんて、村にいた頃からやってきたことだろ? この僕に対してさあ、忘れちゃったのかな?」

「!? あ、あ、そ、それは……」


 ローグの言葉にミーラは激しく動揺した。というよりも、ローグが意図的に動揺させたのだ。一人称も「僕」にしたのもそのためだった。そこまでしたのは、復讐の対象のはずのミーラがかつての自分『ロー・ライト』と重なったからだ。それが気にくわなかったローグは、徹底的に痛めつけるとは違う形で復讐することに決めた。それは、深く反省した者に対して保留として考えていた計画だった(実は没案だった)。


「思い出しなよ、お前は僕が魔法なしと分かった途端にみんなと一緒になって僕をいじめてたじゃないか、その前は仲良かったのに」

「そ、それは……その……」

「なんだ? 自分は違うなんて言わせないよ。あの頃のことはしっかり覚えてるんだよ。お前たちが村を出る前日にどんな話をしてたのかもな」

「なっ!? あ、あの時の……」

「そうだ。僕は耐えきれなくなって叫んで外に出ていったけどな」

「……!……ロー……」

「坊主……」


 ローの言葉はミーラの心を深くえぐる言葉だった。聞いていたミーラは怒りが収まるどころか言葉を失ってしまった。彼女もまた、あの時のことを思い出していたのだ。自分が放った言葉も含めて。


「本当につらかったよ。世界の全てが信じられなくなった。村を出ようとした矢先に……誰かに井戸に落とされたりしてさあ、……誰かは知らないけど、ミーラなら分かるんじゃないかな?」

「ッ! う、あ、あ……」

(この反応、やっぱりな。この女しか可能な奴はいない)


 ローグは、自分を井戸に落としたのはミーラだと思っていた。あの村で、誰にも気づかれずに近づける魔法を持っているのはミーラ以外に心当たりが無かったからだ。今ここでカマをかけてみたところ、ミーラは足からガクガク震えだした。その様子を見て、ローグは自分の推測が正しかったことを確信した。犯人はこの女だと。


「井戸の奥から生きて出てくるのは大変だったよ。その過程で僕、いや、俺はいろいろと変われることができたんだ。そこで得たものもある、最強の武器と目的だ」

「……え……?」

「見せてやるよ。俺の武器を!」

ビッビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリ!!

「「ッ!!」」


 ローグは手から【外道魔法】を出した。赤紫色の光が、ここにいる三人を照らす。その威力は、人を大やけどさせる程度のものだった。雷魔法にも見えるそれを見たミーラは、信じられないものを見るような目になった。ミーラはローグが魔法なしのままだと思い込んでいただけに、かなり衝撃的だった。


「い、今のローは……」

「ああ、俺はもう魔法なしじゃない。今の俺は昔と変わることができたんだ。そして、俺の目的は復讐だ!」


 ローグは、魔法を消してミーラに宣言する。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ