予期せぬ再開
王都。そこは王国の中心にして最大の都市。最高権力者の王族が住む城を中心とした、王国で一番繁栄と富にあふれた町だ。つまり、悪く言えば一番贅沢が出来てるともいえる。そして、もっと言えば、王都以外の町や村は王都ほど発展していないともいえる。だからこそ、王都で暮らすことを夢見るものが多い。
そのためには、魔法の実力がここでも必要になる。何故なら、別の町や村から王都へ行く道中では必ず魔物に出くわすからだ。他の町から来たよそ者が王都で暮らすには、そういう困難と立ち向かう必要がある。門番がローグをすんなり王都に通したのは、ローグが一人できたことから、相当な実力者だと見抜いたからだったのだ。そのことに後になって気付いたローグは、王国は本当に魔法絶対主義だと理解した。
だとすれば、ローグが見ているこの町は何なのか。王都のすぐ近くにありながら、王都どころか、ローグの住んでいた辺境の村よりもみすぼらしい。ほとんどの家が、あばら家で今にも壊れそうだ。住んでる人は皆やつれていて、ボロボロの服を着て、気力というものを感じさせない顔をしていた。こんな町に、『あの女』がいる理由が分からなかったローグは困惑した。訳が分からない。
「マジで何なんだよ……これも魔法が生んだ惨状だってのか? これも知る必要があるな」
ローグはこの町について知るために聞き込みを開始した。まず、しっかりした人に聞いたほうが得策だと思って、目についた人の中で、強そうで白髪の初老の男性に話しかけた。その男性もあまり気力のない感じではあったが、周りの人と何か違う感じがしたのだ。
「あの、すみません。少し聞きたいことがあるのですがいいでしょうか?」
「……何だ、何が聞きたいんだ? こんな俺に……」
男性は答えてくれた。ローは自己紹介をしてすぐにこの町について質問する。
「私はロー・ライトといいます。私は王都に初めて来たのですが、近くにこのような町があったことは知らなかったのです。一体、この町は何なんですか?」
「ふん、よそ者だったか。俺はルドガー。この町は外町って言うんだよ」
「外町? 何なんですか、それは?」
「外町ってのはな、王都を追い出された魔法なしや犯罪者とかが住み着く町なんだ。いつからできたか知らねえが、簡単に言えば人生の負け組の行き着くところさ」
「ええ!? そんなっ!?」
ルドガーの口から語られたその事実に、ローグは驚愕した。魔法の有無に関する偏見がこんなひどい町を作った。このような町は旧世界にも無かったのだ(ローグが知らないだけかもしれないが)。魔法による偏見はこの時代の方が酷いことを痛感した。
(こ、こんな町が作られてしまうなんて……! なんて時代だ!)
ローグの驚いた顔を見てルドガーは苦笑した。
「ふん、驚いてやがるな。他に聞くことあるか?」
「……つ、つい最近女の子がこの町に来ませんでしたか? 明るい茶髪でツインテールの女の子なんですが?」
「ん? その子なら少し前に来たが知り合いか? 可哀そうな目に合ったんだが……」
「え? 可哀そうな目に合ったって? どういう状況ですか!?」
ローグの悪い予想が当たった。こんな町に来る時点で、そうなっているとは思っていた。
「何か左半身が顔から足まで大火傷したみたいだったんだよ。最初に会った時は俺も心配になってな、人気のないところで休ませたんだ。本人は大丈夫とか言ってたけど、ありゃあ大丈夫じゃねえよ」
「や、火傷!? どこにいるか分かりますか!?」
「この町の端の方にある小屋に住んでるが、案内がいるなら俺を雇ってくれるかい?」
「お願いします!」
ルドガーの提案にローグは即答で受け入れた。案内役に支払ったのは、ローグの所有する食料(三日分)だった。金を要求しなかったのは、この外町では食料の方が価値があるからだそうだ。
ルドガーに案内される途中でローグは、外町の人々が恨めしそうな憎らしそうな目を向けていることが気になった。ルドガーに聞くと、彼らはローグが王都の人間だと思って妬んでるんだと言われた。王都の暮らしを知ってるがゆえにローグを妬んでいるんだと。
そんなことを聞いてしまったローグは、彼らのことが本当に哀れに思ってしまった。そして、彼らに比べれば、ルドガーは何か違うんだと思えた。ルドガー自身も生活が大変なはずなのに、初めて来たミーラの世話をしてやるような男なのだから。
数分後。
ルドガーに案内されて薄汚い小屋にやってきたローグは、自分の復讐の内容を変更せざるを得ないと思った。ルドガーから聞いた彼女の現状が本当のことだと悟ったからだ。その小屋から、ヒトの皮膚を焼いたような異臭がするから。
「着いた、ここだ。おい、嬢ちゃん。知り合いが来てくれたぞ!」
「……追い返して……ください……」
(!? この声は……)
「そういうなよ。魔法協会じゃなくてさ、嬢ちゃんの故郷の村の若い子が来てるんだぞ?」
「え!? な、なおさら、追い返してください! こんなみじめな私を見られたくない!」
(間違いない! ここにいるんだ!)
ここにいると確信したローグは、自分で声をかけた。
「……おい、ロー・ライトが来たと言ってもか?」
「え、嘘!? そ、その声は、ロー!?」
ローグは小屋のドアを強引に開いて中に入った。そこで見たものは確かに『あの女』だった。服装はボロボロで、左半身を薄汚れたローブで隠していたが。
「あ……あ……ああ、ロー?」
「そうだ。久しぶりだな『ミーラ』」
ローグにとって予期せぬ形ではあったが、『あの女』こと、『ミーラ・リラ』と再会を果たした。




