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ローグ・ナイト ~復讐者の研究記録~  作者: mimiaizu
第1章 悪童編
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死刑確定と今の世界

翌日。

 

 ローグは冒険者役場にいた。昨日のことでどんな動きがあるか知りたかったからだ。とある男3人の処遇についてだ。


 昨日、カティアとノエルが冒険者役場に表れて大騒ぎになった。今はとても陰鬱な雰囲気が役場内で漂っていた。とある3人の非道に対する怒りと、犠牲になった者達に対する悲しみが原因だ。今でも思い出して泣き出す者がいるくらいだ。


「……ふん、こうなったか」


 冒険者役場で正式に、レント・ゲーン、ゲテ・モウノ、ケリー・イパツの3人が死刑確定になったことを発表した。死刑は当然だが、決まるのも発表するのも早すぎる。それ以前に、現場で捜査して証拠を確保しないで、二人の証人だけで決めた可能性すらある。なにしろ、その3人がボロボロになって役場に突き出された日から1日しかたっていないのだ。


「……死刑確定は納得だが、役場にはもっと動いてほしかったな。時間をかけて捜査してくれないとはな……」


 冒険者役場の中で、『ローグ・ナイト』の姿に戻ったローグは不満そうにつぶやいた。ローグとしては、もう少し詳しく捜査することであの3人の非道を世間に知らしめてほしいと思っていた。それがこんなに早く決まってしまうとは思っていなかった。


(だが、これはこれで俺に有利な状況になってると言える。あいつらがさっさと死刑になれば、余計な事が知られずに済むだろうしな。あいつらが極端なおしゃべりじゃなければの話だがな。……それでも俺が不愉快な気分になるのは、世界の発展に貢献してきた研究者として文明の退化を嘆いているのか、復讐者としてやり足りないんだろうな。それと……)


 ローグの頭に浮かんだのは、カティアとノエルの複雑な顔だった。ローグは二人に約束させた。それは、報酬も名声もいらないからローグのことは可能な限り黙ってほしいというものだった。名前や行動理由も秘密にすることも含めて。


(あんな約束をしてもらったが破る可能性が高いな。そもそも、出会ったばかりの人間を信用できるはずもない。俺自身の話を聞いたらもっと複雑な顔をしていたし……)


 約束をしてもらう理由について聞かれた時、ローグは自身のことについてある程度話した。かつて魔法なしと蔑まれた挙句、誰かに井戸に落とされ、その怒りがきっかけになり魔法を発現し、生まれ故郷に復讐を果たし、幼馴染にも復讐するために旅をしていると伝えた。さすがに、迷宮を攻略して前世の記憶と二つの魔法を持っていることは伏せた。


(まあ、約束など保険に過ぎないから守ってもらう必要はない)


 話の途中で、カティアとノエルの視線が一瞬だけ嫌なものを見るような目になった。そのことを見逃さなかったローグはある事実に気付いた。


(この国は、ほとんどの人間が魔法持ちだ。つまり、魔法なしが差別されること自体は珍しいことじゃない。むしろ常識なのかもしれない。……だとすればヤバいな)


 カティアとノエルも魔法なしを軽蔑するような人間だ。村の外でも、魔法なしは差別されていたのだ。そのことで、この時代の魔法について改めて思い返した。


 魔法は思春期ごろに自然に身につくもの。それが『ロー・ライト』の時代の常識だ。そう、今の時代の常識なのだ。しかしそれは、ローグにとってあってはならないことだった。


(思春期ごろに自然に身につく? そんな馬鹿な事があるか! 何故、何故すぐに気付かなかったんだ! この世界の異常を! 俺ともあろうものが!)


 『ナイトウ・ログ』の時代では、特別な処置をした者が魔法を使えるようになる。かなり稀なことだが、その子か孫が魔法を使えるようになることもある。それが過去の常識だ。


 だが、この国の人間のほとんどが魔法持ちになれることになっている。しかも、魔法なしの方がごく稀のようだ。ローグはそのことに危機感を感じた。前世から魔法の危険性を知り尽くしている身としては、どうしても見過ごすことができない。


(魔法持ちの人間が少なくとも9割以上いるこの国は異常だ! 他の国はどうだ? 帝国は? 共和国は? 他国でもここまで魔法持ちがいるならまずいぞ、国際的なパワーバランスが崩れている可能性がある。銃火器を誰もが持ってるようなもんだ)


 魔法によっては、国を動かすような価値を持ったものもある。そういう魔法は軍事利用される場合が多いため、戦争の火種には十分だった。そのため、過去の時代では、その特別な処置は自国に認められたものだけが許されることだった。


(いや、もうすでに手遅れなんじゃないか? 辺境の村で暮らしてたから世界の情勢とかが何も分からないな。平和なのか戦争中なのかも分からない。役場では戦争の話は聞かなかったが)


 ローグが今の世界について知ってることは、ローグがいる『王国』の他に『帝国』、『共和国』、『公国』が存在するということだけだ。名前だけ知ってるだけで、それぞれの国がどのような国かさえ知らない。王国の歴史さえ詳しく知らないほどだ。


(俺がいた村は本当にド田舎だったからな。これから一から情報収集しないといけないことは分ってたことだが……なんか今になって大変なことだと実感してきたな……だが……)


 ローグは自分の無知を嘆いた。そして、自分が解き明かそうと決めた世界の謎がさらに深くなったと感じ、嬉しくなった。なぜなら、ローグには『ナイトウ・ログ』という前世がある。


(それほど大きな謎なら、研究者としてこれほど嬉しいことは無い。ハードルが高いほどやる気が出るものだ。前世からの性分は今でも抜けないな。ならば、俺が今やるべきことは……)


 ローグは役場から出て行った。


「すぐに大図書館に行こう。歴史を知って、今の世界の情勢を知ろう」


 『ナイトウ・ログ』の研究者としての部分が、ローグの心に良くも悪くも影響を与える。大体の行動もそれですぐ決まる。ただ、ローグは『ロー・ライト』でもあった。


「……その前にあの3人の顔でも拝んでやるか。今の様子なら面白そうだしな」


 復讐という目的もいまだ背負い続けているのだ。



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