閑話・『ミーラ・リラ』②
帝国と王国が本格的に戦争をする少し前にさかのぼる。戦争に備えるためローグは帝都で与えられた屋敷で生活し、仕事の時は白に出向くことにしていた。彼の仕事内容は、王国に対抗するための魔道具や魔法剣の開発、そしてローグ自身の戦闘訓練が主な内容だった。特に重視したのはローグの戦闘訓練であり、それはリオルのような武人に手ほどきをしてもらった。
「今日も訓練?」
「ああ、王国との戦争で少しでも勝算をあげたいからな」
「ふーん」
「………どうかしたか?」
「別に」
ローグはいつもミーラと一緒に生活をしている。ミーラもいざという時のことを考えて、ローグから魔法の手ほどきを受けているが、それ以外は家事がメインの行動となっている。行動の大部分がローグと共にあると言っていい。だからこそ、ローグは違和感を感じていた。
(最近様子がおかしいな。何かあったか?)
いつの時か、ミーラは食べる量が多くなり、激しい行動は極力控えるようになっていた。時々、吐き気を感じたりお腹をさするようなことも始めるようになっていたのだ。
(……腹でも壊したか? 後で治療院にでも行って……いや、俺が先に診てみるのもいいか?)
不思議そうに眺めながら、ローグなりにミーラを心配していると、当の本人から声がかけられた。
「ローグ。二人で話したいことあるからさ。部屋で寝る前に私の部屋に来て」
「!」
ミーラの顔はとても真剣な顔だった。これは単に腹が痛いというだけじゃないな、そう思ったローグも真剣な顔で返答を返す。
「……ああ、分かった」
「うん。待ってるね」
◇
ローグとミーラは皇帝と第一皇女の厚意を受けて小さな小さめの屋敷で暮らしている。準男爵程度の屋敷なのだが、それでも二人にとっては暮らすには十分すぎる屋敷だった。部屋も有り余っていたので、二人はこれを機に別々の部屋で寝ることにしていた。
しかし、この日は違った。ミーラの部屋にローグがいる。互いに寝巻の格好でベッドに腰掛けていた。
「話ってなんだ? わざわざ部屋にいれるなんて、屋敷には俺達二人しかいないのに」
「…………」
先ほどから黙ったままのミーラだが、意を決して口を開ける。
「わ、私、最近なんかおかしいの……」
「ああ」
「なんか、体が重くなった気がするし、激しい運動が苦手になってきたし、吐き気とか体がだるい感じになっちゃって……それで、私、自分の体を調べてみたの……魔法で……」
「! そうか……」
魔法で調べた。それは、ミーラの魔法【解析魔法】で自身の体を調べて結果が分かったことを意味することだ。その上でただならぬ雰囲気になってしまうことは、深刻な状態であることを意味する。ローグは覚悟を決めた。
「それで、どうだったんだ……?」
「わ、私……」
ミーラは意を決して結果を口にした。その結果にローグは目を丸くすることになった。
「……え?」




