六日目1
六日目・朝。
帝城のとある客室で、ベッドの上で一人で眠っていたローグは目を覚ました。習慣的だったミーラとの同室は、ここに泊まるようになってからは別室となっている。その理由を思い出してローグは苦笑する。
(「未婚の男女が同室だと!?」、か。うぶだな、リオさんも)
サーラに、ミーラと同室か別室かと聞かれた時に同室と答えたのだが、リオルに「不健全だ!」と言われて別室ということになったのだ。ミーラはその事実に不安そうになったがローグが隣の部屋と分かると安心した。
(ミーラは久しぶりの個室だけど……問題ないか。そういえば別々で寝るのは一か月ぶりだったな)
主人と奴隷。口にこそ出さないがローグとミーラの関係はそういうことだった。リオルたちはそのことに気付いてはいないし知られても困る。ややこしいことになりかねないから面倒なのだ。
「……昨日は大変だったな」
ローグは昨日の出来事を思い出す。アゼルの処遇が決まったことをリオルに聞かされたと思えば、兵士が突然現れて死体が動いたなどと言い出す。現場に向かったら、それが事実で、クロズクの本当のボスが現れた。そして、油断しているところを狙ってローグに倒された。その日の夕方に緊急会議、本当に一日であわただしかった。
(死者が出たのは残念だが、一日で片付いたのは幸運だったな。昨日のことは俺もそこまで苦労しなかったしな。ミーラは大変だったが……)
ローグが昨日のことで苦労したのはクロズクのことでも動く死人でもない。動く死人を見て恐怖したミーラが、あまりの気味の悪さに吐いてしまったことだった。仮にも一人の少女が人前で嘔吐するのだ。しかも城の中で騎士や姫がいる状況で、それ以上に主人で思い人でもあるローグのいる場所で。あの時の彼女は恥辱にまみれて仕方がなかっただろう。
(あれは流石に気の毒に思ってしまったな。顔を真っ赤にして涙をポロポロ落とすその姿は始めて見たな。同情…………はしないか)
同情できないと思ったのは、ミーラが幼馴染だからだ。彼女とてローグの復讐対象の一人だ。奴隷として、都合のいい駒として扱うことこそが彼女に対しての復讐だ。今までなら同情できるはずがないのだ。ただ、ローグは気の毒に思ってしまっている自分に少し驚いた。
「ちっ、気の毒に思う時点で同情か」
(共に過ごす時間は一か月。それだけで情が移るもんなのか。復讐のために連れまわしてこき使うと決めたのに、これじゃあ復讐してる気になれないな)
ミーラとの関係に悩み始めるローグだったが、ドアからノックする声がかかってきた。
「ローグ様。起きておられますか? リオル様がお呼びになっています。準備出来次第、食堂に来てください」




