四日目1
北の塔。
牢屋にいるアゼルは、突然入ってきた人物に目を丸くして驚いた。
「父上!? 父上じゃないか! 病はもう大丈夫なのか!?」
「ああ、おかげ様でな」
やってきたのは、アゼルの父親である皇帝・キング・ヒルディアその人なのだ。アゼル自身が毒を盛って病にかけてしまったはずであり、回復したと聞いた覚えはない。
「一体、いつ回復……、いや、そんなことはいいか。何しに来たのです?」
「そんなことは、か。ははは! お前が病にかけた父親が病を治してここまで足を運んだのだぞ。気にならないのか?」
皇帝は意地の悪いことを言って笑うが、その目は笑ってはいない。雰囲気だけで静かな怒りを感じさせているぐらいだ。今までのアゼルならそれだけで怖気づいていたのだが、牢屋の中のアゼルは落ち着いている。
「……父上の病はローグとかいう男のおかげで治ったのでしょう。そいつの魔法か何かで治ったなら納得できます。わざわざ僕のもとにやってきたのはリオルの話を聞いたからでしょう」
いくら素行の悪いアゼルでも、重い病気に罹った父がすぐに回復した理由くらい察しがついていた。アゼルは自分に取り付いた寄生生物を取り除いた男が魔法持ちで相当な力を持つものであるくらい分かっているのだ。腐っても帝国の皇子、それくらいの頭はある。
「リオルの懇願されたんでしょうけど、大罪人となった僕の命を助けるなんて問題だ。だから父上ご自身の眼で僕の様子を見て判断する。そんな所でしょう、違いますか?」
「ふふっ、大体その通りだが、もう一つ理由があるぞ」
「?」
「一人の父親としたお前のことを心配もしておるのだ」
「…………」
皇帝キング・ヒルディアとて一人の父親。息子がどんなに愚か者でも、親としての愛情は簡単に捨てられるわけではないのだ。皇帝もまた、子供の行いは親の責任でもあるという自覚はある。だから今の我が子をその目で確かめねばならなかった。皇帝として裁くためにも。
「……お前がどれだけのどれほどの罪を犯したのかはリオルたちから聞いている。そのことについて何か言うことはあるか?」
皇帝は試すように問いかける。それに対してアゼルは、怖気づくことも卑屈になることも、ましてや、父親にすり寄ることもしなかった。自分を鋭く睨む父親の眼をまっすぐ見て、自分の思いを告げるだけだった。
「……僕が、私が愚かでした。リオルやサーラを妬み、周りを憎み、クロズクに弱みを利用され、多くの人々に迷惑を掛けました。償えるならどのような罰でも受けます。必要ならこの命も惜しくはありません」
「覚悟したというのか? 自暴自棄になったわけではないのか?」
「少し前の私ならそうだったでしょう。ですが、リオルたちに命懸けで助けられて目が覚めました。この命を償いのために使いたいのです」
皇帝は、アゼルが変わったことを確信した。今、我が子が望まれる成長をした姿を見れたのだ。その事実が今は皮肉だった。
「……そうか」
息子は大罪を犯してしまった後なのだから。




