VS異形アゼル4
リオルたちの奮闘もあって、ローグは遂にアゼルの傍にたどり着いた。ローグ自身も相当な実力者なのだから当然と言えば当然だ。
「ウオオオオウッ!」
問題のアゼルは、その目をリオルたちに向けていた。すぐ近くにローグがいるのに全く反応しないでいる。
「これはもう末期か? だが、ここまでくればやれることはやらねばならない」
ローグはアゼルの背中に回り込む。アゼルに寄生するパラサイトオクトパスの排除を行うためだ。
「……こいつがそうか。相当キモイな」
アゼルの背中――パラサイトオクトパスはおぞましい姿をしていた。背中の半分を隠すぐらいの大きさの生物で、むき出しの内臓……に見えたが、内臓が透けて見えるのだ。しかも、頭脳がやたら大きくてその下に口が、横にタコのような眼がついている。
「こんなのに触れなければならないのか……え?」
気持ちが悪いと思っていると、タコのような目がローグを凝視した。そして、
「キュオオオオオオッ!」
「な、何っ!?」
パラサイトオクトパス――寄生生物の本体から2本の細い触手が生えて、ローグに向かって伸びていったのだ。ローグはとっさに持っていたナイフで触手を切り裂いた。寄生生物は呻きを上げる。
「キュオオオオオオッ!?」
「ちっ、寝てろ! 【外道魔法】!」
ローグは魔法で寄生生物に攻撃してみた。麻痺させる程度に攻撃したのだが、予想しなかったことが起こった。
「ウ、ウアアアアアアッ!?」
「!? アゼル!」
魔法攻撃によるダメージは宿主であるアゼルにも通じたようだった。ローグとしては、寄生生物だけに効くように加減したつもりだったのにだ。
「~~キュオッ? キョオオオオオオッ!?」
「は? どういうことだ?」
一方、魔法攻撃を受けた寄生生物は、少し大きくなった。まるで魔法を受けたのに比例するかのように。更に触手も再生した。
「馬鹿な! 何故こんなこと――うわっ!」
本体の触手は3本になっていた。またしてもローグに向かって伸びていった。ローグはそれをかわしながら、大きくなった原因を考える。
(どうしてだ。何故、寄生生物が大きくなった? いや、その前に魔法がアゼルにだけ通じてるのが問題だ。ダメージだけは宿主に押し付けられるような生体構造になっているのか? それなら納得できなくはない。だけど寄生生物が大きくなる理屈はどういうことだ?)
アゼルがダメージを受けるのはまだ理解できるが、寄生生物が大きくなる理屈が分からない。ローグの【外道魔法】は強力な力を持っている。並の魔物ならひとたまりもないはずなのだ。そこでローグはパラサイトオクトパスの生態に関する知識を思い出す。
(生物兵器として作られたパラサイトオクトパス。宿主の身体能力・魔力を大幅に向上させるが宿主の自我を奪い精神崩壊を起こす危険性を持つ。その寄生の手段は確か、宿主の精神に干渉するというものだったっけ? 特に宿主の負の感情などが強いほど結びつきが強くなるというらしいが……待てよ、負の感情だと?)
負の感情に反応する。その知識に引っ掛かりを覚える。何故なら、ローグの魔法も負の感情をきっかけにして力を発現し、負の感情を増幅することもできる魔法だからだ。
(おい、まさか負の感情をエサにするというわけじゃないよな。しかし、それなら理屈は通るが、だとすればマズいぞ。負の感情を触媒にする【外道魔法】で戦っても、あの気色悪いのを強くしてしまうってわけだ!)
ローグは目の前にいる気味の悪い生き物が意外な天敵だと理解した。自身の強い魔法が効かない相手なのだと。




