方針を決める
「……村を出てからもう五日か」
一人の少年が王都に続く道を人間離れした速さで走り進んでいる。彼は魔法なしだった『ロー・ライト』から二つの魔法を持つ『ローグ・ナイト』に改名したばかりの、復讐と世界の謎を解くことを目的に旅する少年である。
ローグが人間離れした速さで走れるのは、彼の【昇華魔法】によって脚力を上げたからである。【昇華魔法】は、あらゆるものをより優れたものに昇華させることができる魔法だ。人体に使えば身体能力が向上する。今使っていないもう一つの【外道魔法】は、負の感情と悪意があれば様々な力を発揮する万能な魔法だ。
人間は通常、一つしか魔法を持てないはずなのに、ローグは二つの魔法を持つ。何故なら、彼は迷宮を攻略したことで、『前世の自分』という攻略者に与えられる特典をもらったことにより、二人分の記憶と魔法を持った状態になったからだ。
ローグはロー・ライトだった頃に、生まれ故郷の村で魔法なしとされて、過度ないじめを受けていた。それを許せず、迷宮攻略の後に村全体に復讐を果たした。その後、幼馴染達への復讐と文明退化の謎を解明に挑むために旅に出たのだ。
旅先の最初の目的地に王都を選んだ理由は、まず情報収集が必要だと思ったからだ。王都の大図書館には国の歴史や古代文明についての記述があるはずだ。そこには、ローグの前世の『ナイトウ・ログ』の時代が崩壊した手掛かりが見つかるかもしれない。そんな大きな謎の解明が目的になった理由は前世に由来する。研究者だったナイトウ・ログの記憶を持つローグは、その研究欲を強く引き継いだからだ。
「ふう、王都までまだかかるか……ん? もしやあれが王都か?」
ローグが【昇華魔法】で視力を上げて見てみると、大きな町が見えた。大きな兵と堀があることからして、村よりも発展した街に違いないだろう。
「やっと見えてきたんだな。さあ、急がなきゃな」
ローグはあまりゆっくりできないと思っていた。村の復讐は成し遂げたが村人は生きている。これから生きていくのに苦労するようにあえて生かしたのだ。復讐された村人達が王都に連絡すれば、ローグは犯罪者として兵士に追われる身になるだろう。その対策として、顔と名前に髪と目の色を変えてあるのだが、それでもローグは警戒していた。
(前世の時代には、魔法による偽装を見破る魔法や魔術があった。この時代にもあるかもしれないから気を付けるに越したことは無いだろう)
ローグの持つ二つの魔法は両方とも強力なものだ。特に【外道魔法】は、ロー・ライトだった頃に抱いた負の感情が強いことに比例して強くなっている。それでも警戒するのは、ローグに味方がいないからだ。味方がいないのに、いやいたとしても国の抱える強い兵士たちを相手にするのは無謀すぎる。
(俺の二つの目的を実現するには、どうにかして国家レベルの味方をつけるか、なるべく正体をさらさずに敵を作らないかだな。どっちも難しいから、出来れば後者か)
この時、ローグは目立たないで行動する方針に決めた。
数分後。
王都の門の前に来たローグは、門番に声をかけられた。
「止まりなさい。君は何者だ?」
「俺はローグナイトと言います。旅をしているものです」
「王都には何の用できたんだい?」
王都の門番がローグに質問する。ローグのことをただの子供と見ているようで、特に警戒はしていないようだった。
「旅の途中で立ち寄っただけです。それと旅用の食料等の補給のためですね。ついでに王都の観光もしたいです」
ローグは嘘のつもりで答える。聞いていた門番は疑う様子はなかった。
「そうか、分かった。ようこそ王都へ」
笑顔でそう言った。ローグはその様子に呆気にとられてしまった。
「……ありがとうございます。」
ローグは礼を言って、王都に入っていった。心の中ではそんな風に思ってはいなくても。
「なんて不用心なんだ。俺が危険人物だったらどうするんだ?」
ローグは門番の対応に呆れてしまった。それと同時に人類の文明が退化してしまったことを嘆いた。さっきの対応はローグにとって、その象徴と言えるのだ。過去の世界なら門番よりもしっかりした仕組みがあったのだから。
「……気にするだけ無駄か。さっさと大図書館に行こう。俺には目的があるんだ……ん? あれは冒険者役場か?」
ローグは冒険者役場を見つけた。冒険者役場とは、冒険者達に仕事を与えるために王国が作った組織だ。役場の受付を通して登録したり、掲示板を見て仕事を決めたりする。仕事の内容というのは、町の人の手伝いのような雑用から魔物退治のような戦闘まで様々な内容がある。ローグの故郷では、冒険者はいても冒険者役場は無かったので興味がわいた。
「ふふ、漫画やアニメに出た冒険者ギルドってやつだな。面白そうだからちょっと見ていくか。もしかしたら、あいつらがどこに行ったか分かるかもしれないしな」
ローグの復讐の対象の5人は冒険者志望だった。どこに向かったかは聞いていなかったが、この王都にいる可能性はある。冒険者役場では冒険者の噂話が飛び交うらしいので、彼ら個人の情報を入手するには利用できるだろう。そう考えたローグは冒険者役場に入っていった。
今日からいつものペースで投稿していきます。
 




