閑話・帝国の皇族3
しかし、戦争中でいいことばかりは続くはずがなかった。力押しばかりで戦っていた王国が奇襲をかけたのだ。奇襲で不意を突かれた部隊の中に皇帝とアネーシャもいた。皇帝はハイドという狼のような姿をした王国の騎士に負傷させられてしまい、とどめを刺されそうになったが、アネーシャが身を挺して庇ったことで彼女が重傷を負わされてしまった。皇帝は激しく怒り、その勢いでハイドの率いる敵軍を撤退させたが、アネーシャはこの戦いの大怪我がもとで息を引き取ってしまった。
アネーシャの死は多くの者に悲しみを与えた。特に、彼女の夫である皇帝と実の娘のリオルは深く悲しみ、部屋にこもって一晩中泣き続けた。アネーシャに愛されたサーラもまた、姉と父と同じ反応だった。周りにいた家臣や兵士たちも悲しみのあまり嘆き続けた。ただ、アゼルだけは涙こそ流さなかったが、その顔は周囲とは別の意味で絶望していた。この出来事を機に、リオルは王国と『魔法』という力を激しく憎むようになった。
戦争は両国とも拮抗した状況だったが、戦場となった両国の境目で猛吹雪という異常気象が発生した。寒くなる時期に入った頃だったが、雪が降るには早すぎるのだ。猛吹雪で辺りが真っ白になり、積もった雪で移動も困難になった。そんな状況が数か月続き、両国は仕方なく戦争を一時中断することにした。リオルは猛反対したが、帝国側で雪道を簡単に突破する手段がなかったため、最終的に悔しそうに承諾した。
戦争から一年後、帝国に戻ったリオルたちはアネーシャの葬儀を執り行った。アネーシャの葬儀は大々的に執り行われ、国全体でアネーシャの死を悼んだ。この葬儀はアゼルの母アリアドネの時以上の規模になったのだが、それほどアネーシャは慕われていたのだ。葬儀には、皇帝の家族が代表となっているため、皇帝とリオルとサーラ、それにアゼルも中心になっていた。リオルは仲良くもないアゼルまで母の葬儀に参加してくれたことが意外と感じていた。もしかしたら彼も母の死を悲しんでくれているのかもしれないと思ったが、それはアゼルの立場としては参加しないわけにはいかないだけに過ぎなかったのだ。実際、アゼルはリオルたちの知らないところでこんなことを口にしていた。
「僕の母上が死んだときはこんなに大きな葬儀をやらなかった……悲しんでくれなかったくせに」
アゼルの口にした言葉は呪詛のようにすら聞こえるものだった。アゼルの母親に対する愛情は深く、その母を帝国の全てが顧みないと思い込んだアゼルは自分以外の全てを嫌うようになった。ただ例外があるとすれば、そんなアゼルの言葉を唯一聞いてしまった『クロズク』という組織の長『ウルクス』だった。
アゼルの自室に来たウルクスは、自分がアゼルと同じように、今の帝国に不満を持っていることをあえて明かした。そして、ある計画を耳に入れた。驚くアゼルにウルクスは決断を迫った。……すでにこの時から、反乱の計画が始まっていたのだ。




