これまでの経緯(リオル編3)
「あの兄上がまさかここまでやってしまうとはな、父上の病がこれほどの事態に発展させるなんて……」
「あんたの知る兄は妹を反逆者に仕立てるような度胸は無かったってことか? 街では皇帝陛下の病気の原因が毒によるものと噂されているがそれも兄の仕業だと思ってるんじゃ……?」
ローグはリオルに質問したら、リオルは難しい顔をした。
「今はクロズクの仕業という可能性が高い。……いや、もっと早く奴らを疑うべきだったな。奴らの動きは不愉快というか不自然な気もするし……」
「それが分かっているなら、そのクロズクが首謀者で決まりじゃないんですか?」
「奴らの専門は諜報と暗殺だ。証拠の隠滅もたやすいだろう。証拠がなければ裁くことなどできん」
「今は奴らは容疑があるというだけでしかないってわけか、俺達を襲撃してきたのにな」
「……そうだな。反逆者扱いされてる私が今何を言っても無駄だろうな」
今度はリオルは暗い顔をした。敵側がクロズクが絡んでいると分かったせいなのだろうが、ローグはどこか腑に落ちないでいる。
(何を言っても無駄だと? この女は自分がどれほど支持されているのか分かっていないのか?)
ローグは帝都の情報を集める中で、帝国の民が一番支持しているのはリオルだと知っていた。皇子は論外として第二皇女も人気はあったが、強く勇ましく美しいリオルこそが帝国の民の理想の次期皇帝の器なのだ。そんなリオルが一声かければ、多くの民が味方する可能性が高い。共に戦った部下たちならば、なおさらだろう。
(……自分で気づいていないのだとしたら、よほどの間抜けか、後ろめたい何かがあるのか?)
「私の髪が白でなければ、私にもう少し賢い頭があれば変わっていたのだろうか……」
「皇女様……」
「……!(白い髪?)」
(そういえば、この女だけが皇室の中で白い髪を追っているんだったな。父親の皇帝も母親も金髪と聞いているのに)
リオルの漏らした言葉を聞いて、ローグは彼女が白い髪に強いコンプレックスを感じていることに気付いた。リオルの家族の中でリオルだけが白髪なのだ。それどころか、白髪そのものが珍しいのだろう。それがリオルに多くの国民に訴えることを遠慮させているのかもしれない。
ローグは思い切って白髪のことについて聞いてみることにした。
「髪が白いことに何が問題があるんだ? 確かに珍しいかもしれないが、それが今の問題にどんな関係があるんだ?」
「そうですよ! 髪の色が珍しいからって何だっていうんですか!」
「珍しいことが問題なんだ!」
「「!」」
「皇族の産まれでありながら一人だけ異色の頭髪! それだけで私は幼少のころから奇異の目で見られてきたんだ! 呪われてるだの忌み子などというほどにな!」
「そ、そんな……」
「それほどとは……」
「物心つく頃に私はそれがどうしても嫌で嫌で悔しくて仕方がなかった。だから私は己を鍛えて強くなって戦場で手柄を立てて、私を面白おかしく見ていた奴らを見返そうと頑張ってきたんだ! ……それなのに」
案の定、リオルは自分のコンプレックスに触れられて激昂した。ただ、予想以上の怒りにローグも流石に驚いた。髪の色が他と違うだけで呪いだの忌み子などと呼ばれるとは予想外だったのだ。
(……髪の色の違いで差別か。まったく、文明レベルが低い世界は見苦しいな)




