外国人の怒り
リオルは意を決した様子で言葉を続けた。
「国民の怒りは王国そのものにも向いていた様子だったと聞いている。何でも、魔法の存在についてとんでもない事実が発覚したとかで噂になっていたらしい……」
「魔法の出自に関する真実か」
「! そう、それだ! 王国では魔法は神が王国の民に与えたなどと言われていたようだったが実は違うということが知れ渡ったという話だったんだが、実際はどうなんだ?」
「そうだな……」
ローグはどのように説明するか考える。ローグ自身の前世の話を話さずに済むような説明をするには、やはり魔法協会が鍵になるだろう。
「事実だ」
「!」
「魔法は神様が与えたなどという話は王国のでっち上げた作り話でしかなかったんだ。実際は王国が国民全員にそうなるよう仕組んでいたのさ」
「やはりそうか! 神が王国だけをそこまでひいきするなんて怪しいと思ってたんだ! それで、どのように魔法を与えたんだ!」
「どのようにっていってもな、王国の上層部が大掛かりな魔術か何かで王国の民が思春期ごろに発現するように仕組んでいただけだったんだ。魔法協会と共謀してな」
「魔法協会と共謀? そんな連中と共謀とは……何か知られてはいけなかったマズい事情がありそうだな」
「正解だ」
ここで初めて帝国の人間が魔法の真実を知ることになった。
「魔法を持つことにはリスクがある。それは平均して約10年くらいの寿命が縮まってしまうなんだ」
「は? 寿命?」
「寿命の縮まる基準は魔法の能力で決まる。強力な魔法や極端な効果を持つ魔法ほど縮まる寿命が長くなる。ひどい場合は20年程度の寿命が縮んでしまうこともある」
「はあ!? 20年!?」
「もちろん、こんなことは王国の国民は知らされていなかった。魔法協会のトップと王国の上層部以外はな」
「…………」
リオルは固まってしまった。どうやら彼女の頭がローグから聞いた内容をうまく整理して理解するのに時間をかけているようだ。もしくは戦争中に魔法に苦しめられてきた過去を思い返しているのかもしれない。彼女にとって魔法はそれほど忌まわしいものなんだろうか。
約3分後。
バンッ!
リオルはまた机を叩いた。グーで。
「ふざけるなよ……」
「皇女様……」
「魔法の力と引き換えに自国の国民の寿命を縮めた挙句、その真実を隠して神に選ばれたなどと作り話をほざいてきただと? そんな国に苦しめられてきただと!? ふっざけるなあ!」
リオルの今の怒りは今までで一番迫力があった。怒気といい、形相といい、ローグさえ引くほどの様子だった。ローグはもう少しオブラートに説明すればよかったかなと思った。
「国を支えているのは指導者か? 兵士か? いいや、それだけではない、国民だ! 国に生きる大勢の民こそが一番国を支えているんだ! それを食い物か何かのように扱うなど言語道断! 王国は一か月前の暴動で滅びるべきだった!」
「王国は暴動を抑えてしまったみたいだけどな……」
「その頃に我が帝国が攻め寄せていれば、王国に打ち勝つことができたのに! 何とも悔しいことだ! ……うう、父上の病が恨めしい……」
「…………」
リオルは今度は悔しそうに俯いてしまった。唇を噛んで震えている様子を見れば、ローグですら同情してしまう。ただ、その頃に帝国が王国を打ち破ってもマズいことになるだろうと思ってもいる。何故なら、リオルの様子から見るに、帝国は魔法のことをろくに理解していないということが分かるからだ。この時点で半端な知識しかない帝国が魔法の力を手にしても、王国のように暴走する恐れがあった。それはローグの望むことではない。どうせなら、完ぺきに近い知識をもって慎重に取り扱ってもらうことがローグの理想なのだ。




