外国で魔術披露
「これが、魔法の力、あのクロズクをこんな簡単に……。いや、お前が規格外なのだな、ローグ・ナイト」
リオルは死亡したクロズクの男たちを見て、ローグの魔法に対して戦慄を覚えた。
「まあ、そうだな」
「そこは認めるのだな……」
「王国に混乱をもたらしたんだ。それぐらいは自覚してるさ。自覚できてないと逆に怖いだろ?」
「そうか、それもそうだな……」
ローグの言ってることは肯定できるが、リオルは複雑な気持ちになる。今見ているのは自分を救った力だが、王国出身の人間の力なのだ。たとえ、仇敵たる王国を裏切って帝国に身を寄せているとはいえ、簡単に受け入れられるのは難しい。
「さて、もうここから離れるとしよう。死体まで出たんだからな」
「……そうだな」
あっさりと言い切るローグにリオルはより一層複雑さを感じる。そんな風に思っている時に、ミーラが上着をもってリオルに近づいてきた。
「あ、あの、皇女様……」
「ん?」
「う、上着をどうぞ……」
「ああ、ありがとう」
リオルはボロボロになった自分の上着を脱ぎ捨ててミーラから新しい上着を受け取った。フードがついているので顔も隠せる。ここでローグが口を出した。
「ボロボロになった上着は処分しよう」
「何? どうするんだ?」
「こうやるのさ」
ローグは魔封書を出した。書を開いて何か悩み始めるローグ。魔封書のことをよく知らないリオルは不思議そうに眺める。
(何だあの本は? 魔法の道具か何かか?)
「これでいいか。【炎魔法】『連打炎弾』」
「え?」
ボンッ ボンッ ボンッ
魔封書が光りだした途端、書から火の玉が3回出てきた。リオルが捨てた上着に着弾してそのまま焼き尽くした。
「なっ! これは【炎魔法】か!」
「知ってるのか」
「王国との戦争でよく見た魔法だ! どういうことだ、お前は複数の魔法が使えるというのか!?」
「そ、その通りですよ皇女様! ローグは……」
「そうだな。まあ、今のはこの本の力だけどな」
「っ! その本に秘密が!?」
「そういうことだ」
「…………むう」
魔封書に秘密があるのも事実だが、本当はローグ自身の体に二つの魔法が宿っているのだ。ミーラはその事実を堂々と話そうとしたがローグは遮った。何故なら、そう簡単に秘密を知られていいことではないと判断したからだ。ミーラはそのことを理解していないのかむくれてしまった。
「よし、もうそういうことはここからさっさと移動してからにしよう。俺たちのいた宿に戻るぞ」
「そ、そうよね。結構大きな音出しちゃったし……」
「むっ、それもそうだな」
「その前に身だしなみを整えよう。【魔術】『クリーン』」
「「え?」」
パアァ
ローグが魔術を唱えると3人の体が淡い光に包まれた。
「な、何だ!? 今度は一体……!?」
「落ち着け皇女様」
「奇麗になるだけですよ」
「何を言って……こ、これは!」
リオルは何が起こったのかすぐに理解するために自身の体を見直した。すると、上着以外の衣服の汚れが無くなっていることに気付いた。更に傷ついて血と泥で汚れた手の汚れも無くなっている。ローグとミーラにも同じ変化が起こっていた。
「言っとくけど、これは魔法じゃなくて『魔術』だ。魔法よりも少ない魔力で済む」
「便利な生活必需品みたいなものですよ」
「……こんなことが……あれだけ残酷なことができる男に、こんなに女性のためにあるような芸ができるとは……」
「おい、芸じゃないぞ……」
「でも、女性のためにっていうのは分かるよ」
「ミーラ、お前まで……」
「なんか奇麗になり過ぎて新品の服をそのまま来てる感じになれるし」
「……なるほど(やり過ぎたか?)」
リオルはローグの魔術に少し感動(?)しているようだった。だが、今度はローグのほうに向きなおってこんなことを言いだした。
「こ、こんなことをしても! す、すぐに認められると思うなよ!」
「「は?」」
「お、お、恩に着るが! この程度で私の心は掴まれたりはしないぞ! 覚えておけえ!」
「はあ?」
「ええ!?」
リオルはそれだけ言うとそっぽを向いてしまった。もしかしたら顔が赤くなっているのかもしれない。ミーラが青い顔して震える隣でローグは呆れてしまう。
(何だ? この思い込みの激しいお姫様は? 何故ここでそんな反応をするんだよ、こういうのは流石に求めてないな~)
「はあ、もうとっとと戻ろう。一休みしたい……」
残念ながら、ローグが休めるのは長い話の後だった。




