1冊目 ~座敷猫わらしベルの もらいごはん~
それは いつ生まれたのか 誰も知らないけれど、誰もがみんな知っている。
その村で ベル を知らない子供は、いない。
子供達が遊ぶところ、いつも ベル が一緒になって遊んでいる。
ベル は、妖怪と人間のハーフの幼女で、猫耳と尻尾がある以外、普通の子供と見た目は変わらない。
ただ、成長することは なかった。 いつまでも幼女であった。
その日も最後まで遊んだ子供について、その子の家まで行った。
夕ごはんをごちそうになり、子供といっしょに寝る。
そんなふうに、村のあちこちの家を 泊まりまわっていた。
だがどこの家も ベル を邪険にしなかった。
どこの家も ベル を迷惑とは思っていなかった。
なぜならその子の親も そのまた親も、小さいとき、ベル と一緒に遊んだのだから。
そんな平和な村に問題が起こった。
「おなかすいたにゃ。」
「どうしてだれも ごはんをくれなくなったにゃ?」
日照りである。
日照りが続いて、手塩にかけて育てた稲たちが、枯れる寸前になっていた。
「あめ? あめがふれば、いいにゃ?」
ベル は 妖怪を訪ねることにした。
森の隙間は別の世界につながっている。
妖怪たちの世界である。
人間は行くことが出来ないが、妖怪人間の ベル なら行ける。
そこの妖怪 あめふらし を訪ねた。
「むらに あめ をふらせてほしいにゃ。」
「おまえ、わかっているのか? 妖怪にたのみごとをしたら、魂ごと食われてしまうぞ?」
「いいにゃ。 むらのみんながこまっているにゃ。 いままでずっと べる にごはんをくれたにゃ。」
「よかろう。 おまえの覚悟をみせてもらった。」
あめふらしは雲を吐いて、雨を降らせた。
「これで村は大丈夫じゃろう。 早く帰るがよい。」
「べる をたべないにゃ?」
「食べるのは人間だけじゃ。 おまえは妖怪人間じゃから まずいんじゃ。」
「にゃにゃ?」
「(べる が まずいだなんて、しつれいな ようかいにゃ。 べる は たべたら むちゃくちゃ おいしいにゃ。)」
こうして村に雨が降り、旱魃をまぬがれた。
村に帰ったベルは、その後、みんなから末永く かわいがられましたとさ。
めでたしめでたし。