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初めての疑問

庭への散歩は、共に正室の藜も同行した。


女三人で広間を出ると、阿利乃は満面の笑みを浮かべて振り向く。


「今日は来てくれてありがとう。父から高野瀬様に妾と年の近い娘がいると聞いてから、ずっと会いたかったの!」


先ほどとは違い砕けた口調で話しかけられ、鼓子花は思わず目を丸くする。


「あ、あの。鼓子花は阿利乃姫様の事は昨日聞いたの。だから何も知らなくて――。ごめんなさい」


ここは嘘でも、私もですと言うべきだったかもしれないが、鼓子花は良くも悪くも嘘がつけない性分だった。


阿利乃は声をあげて笑う。


「あははっ。鼓子花様はとても正直なのね!ねぇ、あっちに行ってみない?庭を散歩って言われたけど、正直あまり楽しくないの。あっち側には大きな池があって、鯉や亀がいるのよ」


「……」


こんなに積極的な人は初めてな為、どう言えばいいかわからずに固まってしまう。


すると後ろを歩いていた阿利乃の母が、そっと嗜める。


「そんな一方的にお話をなさいませんように。鼓子花様が驚いてしまっておられますよ」


「えっ?あ、ごめんなさい。兄様達がいつもこんな調子だからついつい……。鼓子花様、嫌だった?」


心配そうに問われ、慌てて首を振る。


「い、嫌なんかじゃなかったわ。ただその、こんな風に元気な方は近くにいないから」


伊兵衛は決して声を上げて笑ったり、怒ったりはしない。その伊兵衛に躾られた侍女や腰元も同じく、皆穏やかで大人しい人ばかりだ。


その為、彼女のように溌剌とした人とはどう接していいかわからないのだ。


「申し訳ありません鼓子花様。何せこの子は男ばかりに囲まれて育った為か、やんちゃな性格になってしまって。鼓子花様の様にお淑やかな女性になって貰いたかったのですが、これでは嫁の貰い手がないやもしれませぬ」


「もう、母様ったら!またそんな意地悪を言うんだから。妾は大丈夫よ。嫁ぐ時はちゃんと大人しくしてるもの」


「あら、どうでしょうね。普段からお淑やかにしていないと、ボロを出してしまうことにもなりかねませんよ」


二人のやりとりを、鼓子花は複雑な心境で眺めていた。


鼓子花には物心がついた頃から母親がいない。


理由は、今まで聞いた事がない為わからない。


鼓子花の生活の中では母親がいないのは当たり前で、母代わりは伊兵衛や腰元達だった為、疑問を抱いた事さえなかった。


だがこうして初めて母と娘のやりとりを目にすると、どうして自分には母がいないのだろうと疑問を抱いた。


人は皆、鼓子花を見ると『若い頃の日和様に似ている』『日和様に瓜二つだ』と言う。


恐らく『日和』とは、自分の母の名前なのだろう。


(鼓子花の母様の名前は『日和』。母様は一体どこに行ったのだろう)


目の前で無邪気に戯れる母娘を見ながら、鼓子花は初めて母親を恋しいという感情を抱いた。


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