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帰りの事

暫くし、馬車が停車した。


やっと解放された鼓子花は、伊兵衛に次いで居り、深呼吸をする。


「はぁ。やっぱり、ずっと馬車に乗っているのは酔いそうになっちゃう」


あれからずっと話をしていたため、いくらかは紛らわせたが、やはり慣れない為か長く馬車に揺られるのはなかなか辛い。


どこかで水を飲めないかと辺りを見回していると、違う馬車から下りてくる小場竹静景の姿を見つけた。


(小場竹さんも一緒に来ていたんだ)


違う馬車だったから気づかなかった。


だが、よく考えれば父が招かれたのだから、その側近の静景が同行していてもおかしくはない。


静景は凛とした佇まいで、目の前の城を睨む様に見据えている。


その横顔を見て、鼓子花は無意識に顔を赤らめて目を伏せた。


(やっぱり綺麗……)


父の部下である小場竹静景とは、基本的に顔を合わせる事もなければ会話をする機会もない。


屋敷にこもりっぱなしの鼓子花にとって、関わり合いがあるのは屋敷の侍女たちと伊兵衛くらいだ。


だが、最近は少しずつ外出する様になり、静景の姿を見る機会も増えてきた。


性格上なのか立場上なのかは不明だが、静景は鼓子花に話しかける事はない。


だが何度か姿を見かけるうちに、伊兵衛とは違う雰囲気が気になる様になり、無意識に目で追う様になっていた。


静景は身長が高く、線も細い。


いつだったか月の光を浴びながら佇む彼の姿を見て、美しいと感じた。


それからというもの、静景を美しい人と認識し、視界に入ると見ずにはいられなくなっていたのだ。


(小場竹さんも一緒なら、同じ馬車に乗ってくれれば良かったのに。そうしたらきっと、お話する機会も――。帰りは一緒になれないか、伊兵衛様に頼んでみようかな)


きっと静景も、伊兵衛の命にならば逆らう事はないだろう。


長い時間閉鎖的な空間にいれば会話もできるし、仲良くなれるかもしれない。


まだ来たばかりだというのに、帰りの事を楽しみに思ってしまう。


「鼓子花」


いつの間にか皆は城へ向かって歩き出していたらしく、伊兵衛に呼びかけられた。


慌てて顔をあげると、そこにはもう誰の姿もなく、皆前方に固まっていた。


「今行きます」


駆け寄りながら、静景もこちらを見ている事に気付いた。


目があった様な気がし、恥ずかしくて反らしてしまう。


静景は伊兵衛の少し前を歩く武時の左側に立っていた為、敢えてその逆側につく。


「どうしたんだ、ぼんやりしていたね」


「ううん、なんでもないの」


静景に見惚れており、帰りの事を考えていたとは言えない。


ぎゅっと伊兵衛の右腕をつかむと、皆に次いで城へと入っていった。

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