表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛があれば何をしても許される  作者: 石月 ひさか
愛があれば許される
26/27

ただ、殺したい


「伊兵衛様亡き今、その命を継続する義務はなくなった。故にこれで終いだ」


突きつけられる言葉が容赦なく鼓子花を傷つける。


泣きながらも正気を保っていられたのは、まだどこかで嘘だという気持ちが残っている為だ。


だが静景は、そんな甘い考えを許してはくれない。


もはや用済みとなった人間には、僅かな情も希望すら与えてくれないのだ。


それに気付いた瞬間、何かが壊れてしまった気がした。


心の中の何かが、音を立てて崩れる。


「戯れの色恋擬きに、一喜一憂するな。今、武時様は酷く傷心しておられるだろう。仮にも血筋なのであれば、微力でも武時様の──」


「あはははっ」


我慢できず、声を上げて笑う。


可笑しい。馬鹿らしい。


全てを信じ、疑いもしなかった自分が。


「あぁ、良かった。やっぱり伊兵衛様の言う事は正しかったのね」


「なんだと?」


伊兵衛に関しては、ある種の信念を持って手にかけた。


だがあの後、ほんの僅かだが、戸惑いや後悔の念を抱いた。


愛する者を自らの手にかけるのが、本当に愛なのか。


自分はもしかして、とんでもない間違いを侵してしまったのではないかと。


だが今ここで、やっとそれが確証に変わった。


やはり、間違った事はしていなかった。


鼓子花は隠していた刀を握ると、ゆっくり立ち上がる。


これは以前、猫を殺めた時に使ったものだ。


あの後こっそり持ち帰り、自身の戒めの為に保管していた。


まさかこれを、また使う事になるなんて。


「よもや、それで自害でもするつもりか」


静景は眉を寄せ、刀を奪おうと手を伸ばす。


その瞬間、鼓子花は鞘から抜き取り、静景の腕を斬りつけた。


「っ……何のつもりだ」


こんな事になるとは予測していなかったのだろう。


あからさまに動揺しているのがわかる。


人を傷つけるのは平気なくせに、自分の傷には過剰に反応するなんて。


つくづく静景は自分勝手な人間だ。


だが、そんな人を愛してしまったのも事実だ。


そして今でもまだ、愛する気持ちを失う事はできない。


鼓子花は鞘を投げ捨てると、顔を上げて微笑んだ。


「伊兵衛様の言う事は本当だった。それに今なら、父様の気持ちも理解できるわ」


「何を言っている?気でも振れたか」


「静景さんには理解できないの?伊兵衛様のずっとそばにいたのに──」


刀を構え直す。


今、鼓子花が殺さねばならない人。


それは静景だ。


「伊兵衛様は鼓子花に教えてくれたの。愛しているからこそ、殺める必要もあるんだって。前は全く理解できなかったわ。だって愛する人には、生きてそばにいて欲しいと思っていたんだもの」


傷つけず、優しい言葉をかけてくれるのならば、生きてそばにいてほしかった。だが今の静景には望めない。


鼓子花を否定する。


鼓子花を容赦なく傷つける。


「──今度は静景さんを殺したい。死ねば鼓子花にひどい事なんか言わない。ずっと優しい静景さんのままだもの」


「今度は──だと?」


呟くと、眉を寄せて刀に手をかける。


「やはりお前が、伊兵衛様を手にかけたのか」


「そうよ」


隠すつもりなんて全くない。


伊兵衛を愛しているからこそ、苦痛から解放してあげたのだから。


あの時の猫の様に。


「己が何をしたのか理解しているのか!伊兵衛様を、自らの手にかけるなど──」


「伊兵衛様の事を愛しているからよ。そして静景さん。次はあなたの番」


刀を構え、襲いかかる。


静景は伊兵衛の様に弱ってはいない。


本気でいかなければ、わかって貰えないと思った。


案の定静景は自身の刀を抜くと、鼓子花の刀を受け止めて弾く。


「私を殺すだと?お前にその様な事ができると思うのか!」


「それでもするわ。ねぇ、鼓子花に殺させて」


もう、戸惑いも迷いもなにもない。


ただ、殺したい。


殺して、二度と悲しい言葉も傷付く言葉も口にできないようにさせたい。


それだけだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ