目覚め
「!!」
目を覚ました鼓子花は、呼吸を乱しながら天井を見つめた。
あれは夢だ。
そう気付くまで、暫くその場から動けなかった。
喉がからからに渇いている為か、呼吸をする度にひきつり、噎せ返りそうになる。
飛び起き、辺りを見回す。
段々と意識がはっきりし、どこなのかわかってきた。
見慣れた障子に見慣れた壁。
ここは鼓子花の部屋だ。
寝汗をかいたらしく、髪は首筋に絡み付き、寝具も湿っぽい。
「もしかして、夢?どうしてあんな夢を……」
呟いた時、思い出した。
静景と訪れた寺。
そこで見たものの事を。
「あっ……あ、あぁっ……」
涙が溢れ、頬を濡らす。
あの時目にしたのは、間違いなく河内の人間だ。
それを目にし、気絶してしまった。
恐らく、静景がここに運んでくれたのだろう。
「どうして、どうして……父様……!」
寝具に爪を立てる。
呼吸をしたいのに、体のどこかに穴が空いている様に、上手く取り込めない。
激しく咳き込み、喘いでいると、物音を聞き付けた侍女が部屋に飛び込んで来た。
「姫様!」
背中を擦られ、口元に水をあてがわれる。それを勢い良く飲み干すと、深呼吸を繰り返した。
「姫様、どうかお気を確かに」
「はぁっ、はぁ、はぁ……」
深く息を吸い込むうちに、段々と落ち着いてきた。
「鼓子花を、ここに運んでくれたのは、静景さんなの?」
「はい。姫様が突然気を失われたと……。大丈夫でございますか?」
「……」
大丈夫、とは言えなかった。
眉を寄せ、黙って胸元を強く握る。
「こんなに汗をかかれて。今召し変えを致します」
「いらないわ。まだ、休んでいたいの」
湿った衣服は気持ち悪いが、着替える気力はなかった。
しかし侍女は浮かない表情で首を振る。
「姫様の意識が戻られましたら、部屋にお呼びする様にと……武時様が」
「……」
恐らく、あの首の弁解をする為だろう。
正直今は、そんな気分ではない。
だが父の命は絶対なのだ。
「わかったわ。着物を変えて。父様に会いに行きます」