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愛があれば何をしても許される  作者: 石月 ひさか
四・不安な気持ち
18/27

約束したこと


翌日。


今日は休みのはずなのに、朝餉の時間になっても、静景は中々姿を現さなかった。


(どうしたんだろう。もしかして忙しいのかな?)


目の前には、いつも通り二人分の膳が並んでいる。


初めは出来立てで湯気を立てていたのに、今ではすっかりご飯も汁も冷め始めている。


よく考えれば、毎日必ず一緒に食べると約束したわけではない。


いくら休みでも、静景には静景の予定もあるのだから、一緒に食べられない日もあるだろう。


これ以上無駄に待つよりは、先に食べてしまった方がいいだろうか。


そんな事を考えていると、廊下から足音が近付いてきた。


思わず、椀に伸ばしかけた手を引っ込める。


すると、がらりと障子が開け放たれ、息を切らせた静景が飛び込んできた。


「お、おはようございます。──大丈夫?」


よほど急いできたのだろう。


珍しく息を上げている。


「野暮用で遅くなった」


静景は息を整えると、足早に席に着く。


「大丈夫よ。そんなに急がなくても良かったのに」


「お前を待たせていたのだろう」


「うん。でも、待ってはいたけれど、約束していたわけではないし──」


来てくれたのはとても嬉しい。だがそれが静景の重荷になるのは本意ではない。


そう伝えたいのだが、どう言えば良いかわからなかった。


「何を言っている。朝餉と夕餉を共にすべきだと言ったのはお前だろう。私もそれには同意した筈だが」


確かに昨日、朝餉や夕餉──時間の共有の話しはした。それと共に、話し方についても。


確かに静景は、あの時わかったとは言ってくれた。


だがそれが食事に関しても同意したものだったとは。


「飯が冷めるぞ」


いつの間にか静景は箸を片手に食事を始めていた。


やはり彼は、他の人とは少し違った感性を持っているのかもしれない。


そんな事を考えながら、鼓子花もぬるくなった汁に口をつけた。


てっきり今日も、会話らしい会話もなく、ただ顔を突き合わせて飯を食うだけになるだろうと思っていた。


だが、何故か今日の静景は違った。


鼓子花が何か問う間もなく、今日の天候や気温などについて饒舌に語った。


どれも他愛もないものだったが、彼の口からそんな話題が出るのが意外だった。


唖然としながら見つめていると、不意に静景は空を眺め、目を細めた。


「良い天候だな。後程、共に城下へおもむくか」


思わず、手にしていた糠漬けを落としてしまいそうになった。


「今、なんて言ったの?」


「今日は暇を頂いている。後程、城下へおもむくかと言った」


「城下……」


鼓子花が住む土地には、そこそこ賑わいのある町がある。


訪れたのは小さな頃、恐らく祭か何かを行っている時に一度きりしかない。


記憶は定かではないが、とても華やかで楽しかった覚えがある。


そんな所へまた──しかも静景と一緒に行けるなんて。


「今日は、お祭りか何かがあるの?」


「政りだと?お前は政を好むのか」


「まつりごとって言うよりは……お祭り、かな?小さい頃に一度見たきりだけれど、とても素敵だった覚えがあるの。また、それを見られればいいのだけれど」


屋敷にこもりっぱなしの鼓子花は、華やかな行事とはほぼ無縁だった。


その為、以前の様に父について国を出るだけでも、大きな行事になるのだ。


「祭に関しては私は把握していない。だが、そのような様子は見受けられなかった。ならば、城下へおもむくのは控えるか」


「ううん。行きたいっ。絶対に行きますっ」


お祭りがなくても、せっかく静景と二人で城下へ行けるのだ。


これはきっとお祭りよりも貴重で、楽しい事に決まっている。


(まさか静景さんが誘ってくれるなんて。やっぱり伊兵衛様はすごい)


会話を楽しむ──というのとは少し違うかもしれないが、昨日のあの様子に比べると大きな前進には変わりない。


昨日はあんなに冷たくて悲しい時間を過ごしたのが嘘のようだ。


静景の機嫌も良く、穏やかな表情でこちらを見ている。


「早く飯を食え。時は待ってはくれぬぞ」


「はいっ」


鼓子花も終始上機嫌で、用意された朝餉をあっという間に平らげてしまった。

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