パーティ
神から貰ったチート能力について説明する前に今の状況を説明しようと思う。
まず、神のおかげでこの世界の事はなんとなく頭に入っている。それはまるで、元から僕がこの世界に存在していたかのような錯覚をしてしまうほどだった。これは別に神がやたら丁寧に説明をしてくれたからというわけではなく、むしろ神のチート能力によって、無理やり情報を頭に入れられた、と言う方が正しいだろう。
この世界には元の世界とは違い、魔法なるものが自然に存在している。それはもはや理屈で説明できるものではなく、ただそこにあるからとしか言いようがないものだ。そしてこの世界に住む人々は当然それらを当たり前のように使用し、さらにそれらを生活の基盤としている。科学などというものは彼らにしてみれば魔法の劣化版に過ぎないようだ。そして僕らが科学を社会発展に、戦争に使っているように、彼らもまた魔法を同様に使っている。
しかし科学とは違って、魔法というものは才能に大きく左右される。つまり生まれた瞬間には既に使える魔法の種類が決まってしまうのだ。この世には様々な魔法が存在しているらしいが、自分の使える魔法によって職業も自然と決められるらしい。なんという自由度の少ない世界だろうか。もっとも自由度が少ないのは異世界転移前も大して変わってはいないのだからやはり世界とはそうなる運命にあるのだろうか。
次にレベルについてだ。これもまた魔法と同様になぜか存在しているものだ。このレベルは上げれば上げるほど身体能力が高くなっていく、ということになっている。もちろん個人差はあるのだがレベルを上げていけば最終的に強くなることに違いはない。しかしこれにはレベルの限界が存在しており、それはすべての人に共通なのだが、やはりそこに達すると個人差というものを気にせずにはいられないだろう。もっともレベルを限界まで上げた者などこの世には存在しないらしいのだからやはり個人差などは些細なものとなる。
そして問題の僕の能力についてだ。
先ほど説明したレベルについてはMAX。つまり限界に達している。これだけで実質世界最強。
しかし魔法に関しては少し面倒な性質を持っている。一つは電気を操る魔法だ。電気を操るといってもどの程度のものなのかはまだ分からないが、使いようによっては便利なものだと思える。
二つ目は、楽しい、などのポジティブな感情を得た時に魔法のレベルが上がるというものだ。これは魔法ではなくむしろ僕の性質と言えるだろう。そして実は魔法にもレベルが存在する。これにより威力が上がるなどのメリットが生ずるのだが、当然これにも限界が存在する。
ここまでならまだいい。一番面倒なのは最後。これは感情が昂ぶれば昂ぶるほど魔法の威力が上がり、かつ使いやすくなるというものだ。一見なんのデメリットもないように感じるが、これには感情が全く昂ぶっていない時には弱い威力の魔法しか使えなくなってしまうというデメリットが存在する。
自分というものがない僕にとってこれはなかなか厳しい制限であり、二つ目も同様の理由で僕にとっては制限となる。
本来魔法のレベルというものは魔法を使えば使うほど上がるものなのだが、僕のこの特殊な性質によってそれでは上がらなくなってしまっているのだ。これが偶然にしろ必然にしろ神には怒りを覚えざるを得ない。
ただ少なくとも今はやるべきことがある。それは食料と寝る場所の確保だ。それがたとえ今だけであったとしても、やるべきことがあるというだけで僕は今最高の気分だ。これには感謝しかない。
まずは町を探そう。頭に入っている情報だとすぐ近くに町があるはずだ。人目につかないように、という理由からか町の外にある木々の中に転移させられた僕はゆっくりと、そして僅かな期待を胸に進みだした。
「……おい。話聞いてんのかお前。」
「あっ、すみません!ちょっとよそ見をしてて…」
「ったく、しゃあねえな。もっぺん説明してやるからよく聞いとけよ?」
私はエリス、17歳です。魔法学校を去年卒業した私はついに、ついに念願の冒険者になることが出来ました!それでこの目の前にいるおじさんから色々と説明を受けてたんですけど、ついよそ見をしちゃっていきなり怒られてしまいました。ただ私は別に、よそ見をしてしまう癖とかがあるわけではありません。ただちょっと気になることがありまして…
「これで説明は終わりだ。それにしてもさっきは何を見てたんだ?この辺じゃ何も珍しいものなんてないだろうに。」
「その、ほらそこにボーッと立っている男の子がいるじゃないですか?それがなんか不自然というか、不思議に感じちゃいまして。」
「どうせお前みたいに冒険者になりに来た奴なんじゃねえのか?そんなに不自然には見えねえけどな。」
「うーん、何か、放っておけない感じがするんですけど…」
「それならお前がパーティにでも誘ってやればいいだろう。」
なるほど。それは妙案ですね。実はモンスターなどを狩って生活している冒険者にはパーティというものがあります。それはやはり1人だとこなせない仕事が多く存在するからです。
それにしても彼の纏うあの異様な雰囲気は何なのでしょう。おじさんは気づかなかったみたいだし、周りの人も大して気にしてはいないみたいですけど。私の考えすぎですかね。
「おーい、そこの坊主。なんか用か?」
そんなことを考えていると、おじさんが私のために彼を呼んでくれているようです。おじさんには感謝しないとですね。
「冒険者になりたいのですが、ここでなれますか?」
「おう、なれるぜ。なんなら俺がちょっくら説明してやろう。」
そう言ったおじさんは私の時と同じようにまた説明を始めました。冒険者にはランクがあって、仕事をこなせばこなすほどそれが上がっていって、できる仕事も増える、みたいな感じです。それと私がパーティに彼を入れたいと思っている、ということもついでに伝えてくれました。
「パーティですか。申し訳ないですが僕は1人で…」
「そんなこと言わずにやろうよー。別にパーティに入っても自由にやっていいからさ!そんな制限をかけるつもりもないし。」
「うーん…」
彼はかなり渋っていましたが、私の説得が功を奏し、無事入ってくれることになりました。
「よろしくね!私はエリス。一応魔法使いかな?あなたは?」
「僕は…。僕の事は好きに呼んでくれ。それにしても、なんで僕なんかをパーティに?」
「うん?うーん、実は君を一目見た時から気になっちゃってさ、それで誘ってみたの!」
…あれ?これってよく考えたら告白みたいじゃない?目の前の彼も困惑しているし…。そこまで考えた私は隣のおじさんがニヤニヤ笑っているのに気づき、
「とっ、とりあえず出よう!どこかに買い物に行こう!ね?」
「えっ、さっき僕のことは制限しないって…」
「そんなこと気にしない気にしない!ほら外に出れば美味しい食べ物とかいっぱいあるし!」
「よし、行こう。」
「即答だ!?」
食べ物をちらつかせた瞬間食いついた彼は、私よりも早くその場を後にしました。どんだけ食べ物好きなの…
「ちょ、ちょっと待ってー!」
自分の発言を少し後悔しながらも慌てて彼を追いかける私であった。