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人狼少女の奇妙な日常  作者: 夕月 陽奈
双子狐と人狼少女
12/12

第一話 人狼少女と騒がしい日

久々の投稿失礼します。


「ぎゃあぁぁぁぁあぁぁあぁ!!?」


休日の昼。信濃家に、凄まじい悲鳴が走った。その凄まじさは、鶏が長いロープで首を絞められているような悲鳴と言えば分かりやすく伝わるだろうか。とにかく、命の危険を感じた動物の叫びに似た悲鳴だった。


「うるっせぇぞ!! 人狼!!」

「ゴキ!!! ゴキブリが出たぁ!!」

「ゴキくらい自分で退治しろよ!! ただの黒い虫だぞ!?」

「無理無理無理!! 鳥肌立つ!! 生理的嫌悪がハンパじゃない!! つぅか、お前の荷物から出て来たんだけど!?」

「あ、マジで?」

「責任取って世界から死滅させろ!!」

「難易度高くねぇか?! それ!!」



奈々の家に、リュイが来た日から数日が経った。リュイの友人は未だ見つかっていない。 いい加減、生死不明なんじゃないかと奈々が問いかければ、「あいつが簡単に死ぬわけねぇよ」と真面目な顔で返された。失踪して一週間弱経ったというのに信じられるリュイは、どれだけその友人だという女性を信じているのだろうかと、奈々は思う。ついでに、その信じている優しさが、裏切られる隙を作るのではないのか、とも。


「おいコラ人狼。しっかり殺虫剤噴射して殺したから、屋根から降りてこい」

「嫌だよ。その危険生命体を絶滅させてからなら降りてやるよ。今すぐ全滅させてこい。世界から」

「不可能だな。つか、ゴキブリは危険生命体か?」


現在、信濃家の屋根に正座する奈々に、下から呼びかけるリュイ。奇妙な絵面が真昼間に晒されていて、他から見たら通報されかねない。


降りてこないと深夜お前の部屋にゴキブリの死体投げ入れるぞ、と脅されたので、仕方なく奈々は屋根から飛び降りた。

その行動に、リュイは一瞬驚いた様だったが、奈々が〝能力者〟だと言うことを思い出したようで、何事も無かったかのように家の中に戻って行った。


今、奈々達は学校の長期休暇を利用して、家の修理をしている。


数日前に機関銃を家でぶっ放した奴らの所為で、壁やら床やら天井やらに穴が空いたのだが、直すに直せない状況になっていた(専門の業者呼ぶのも金銭的にも優しくないし、あの穴の空き方は不自然だったから他の人に説明すら出来なかったからだ)。だが、そのままにするのもいかがなものか、というリュイの言葉で日頃の感謝も込めて自分達で修理をしているのだ。……その途中で例のゴキブリ出現事件が起きたわけだが。


街外れの森近くにある奈々の家だと、物資を持ってくるのすら一苦労(主にリュイが)だったが、家の離れに埃を被った畳や、板や、ガラスなどが、ある程度見つかったので、業者に頼むよりも、比較的安く家は綺麗になっていった。


「あ゛〜、綺麗になったぁ〜」


リュイが背中の骨を鳴らしながら呟く。長期休暇丸々つぎ込んでの修復作業だったので、かなり疲れたようだった。これぞ好機とばかりに、今まで疎かになっていた場所まで綺麗にしたから、それは仕方ないとは思う。

奈々自身もかなり肩が痛い。しかも金槌を使った時に出来たマメが潰れて酷く痛む。


裁縫などは得意な方で、何度でも出来て楽しめるが、家の修理は二度とごめんだ。まぁ、そんな何度も家が壊れてたまるかという話でもあるのだが。というか、そんな頻繁に壊れたら天国にいると思われる奈々の祖父母が卒倒する。


「うぇ、人狼。腹減ったぁ」


奈々が、靴を脱いで居間の襖を開けると、リュイが畳に寝っ転がりながら言った。

それと同時に、リュイのお腹がグウウウゥっと鳴る。

奈々は思わず苦笑しながら、早足で台所へ向かった。


今のところ、二人三脚の同居生活は順風満帆のようだ。


因みに今日のメニューは、鶏肉の唐揚げに、キャベツとトマト(トマトは全部リュイに食べさせた)のサラダ。そして、白米と味噌汁だった。


大喜びで食べるリュイに、奈々自身悪い気はしなかった。

一人で暮らしていた彼女には、ご飯を美味しいと食べてくれる人なんてほとんどいなかったのだ。


そんな中、来客を知らせる扉の開く音がした。


★☆★


「奈々姉? 彼氏なの? 彼氏なの?」

「アハハッ、そんなんじゃないってば」

「ななねーちゃんは、ぼくがおよめさんにするからね!!」


げっそりとした表情のリュイとは裏腹に、笑顔で対応する奈々。

現在、家に総勢十五名の客人が訪れていた。


その全てが、三郎の近縁のものであり、且つ奈々が幼い頃から知っている子供達も多いため、家の中はリュイが来てから見たことがないほど、盛り上がっていた。と言っても、リュイがそこまで長い間信濃家に滞在していたわけではないのだが。


「奈々ちゃんの嫁の貰い手が出来たわけではなかったんかぁ?」

「はい。彼は、私の身内の方ですよ。祖母の妹の娘の友人の弟の子です」


息をするように嘘を並べる奈々に、リュイは一種の尊敬をする。


(……身内…? ……友人?)


果たして、祖母の妹の娘の友人の弟の子を身内と呼ぶのだろうか……、とリュイは熟考する。だが、まぁ良いかという一言で片付けてしまった。

そんな熟考するリュイに目もくれず、この家の中で一番の年長者である三郎は、酷く残念そうに赤飯のおにぎりを口に入れる。


「それは……、残念だぁ」

「いったでしょ! じーちゃん! ななねーちゃんは、ぼくがおよめさんにするの!!」

「マセガキは黙ってろ! お前みたいなお子様より、小学生の俺の方が奈々姉にはお似合いに決まってんだろ!」

「うそだぁ!!」


三郎の孫である二人の男の言い争いに(片や幼稚園児、片や小学生)、奈々は苦笑しながらまぁまぁと収めようとする。

だが、そんな困った様子の想い人に目もくれず、幼い少年同士は火花を散らす。『愛に歳など関係ない』というオーラが部屋中に満ちている。

そんなオーラに溢れる部屋で、小さな呟きが聞こえた。


「ハッ、容姿がガキならガキにモテモテっつうわけだな」


リュイの姿が、轟音と共に消えた。


★☆★


「つっかれたぁ〜」


いつものように土産を持ってきてくれた三郎が、リュイの姿を見て複雑な勘違いをし、家族を呼ぶということが起き、元から他者との交流が少なかったリュイは、家の修理が終わった時以上に疲弊していた。人付き合いが苦手な性格なのだろう。というか、苦手ではないのなら、友人がこの国に一人という(しかも行方不明)ボッチな状況にはならないであろう。


「つか腰いてぇ……」


奈々に殴り飛ばされた際打ち付けた腰を撫で付けて、リュイは奈々を睨みつける。

睨みつけられた奈々は、そんな視線を少しも気にせず、三郎が土産に持ってきた温泉まんじゅうを口に入れた。

今回は、県内の秘湯とやらに行ったようだ。日帰りだったらしく、特に畑の手入れも任されなかったので、奈々は今回の三郎の訪問に気がつけなかったのだ。お陰であの悲劇である。


「元気な爺さんと餓鬼だったな」

「そうだね。元気で私を気にかけてくれる優しい人達だよ」

「そーかそーか」


リュイは嬉しそうに微笑む奈々をチラリと見ると、すぐに目をそらして小さく呟いた。


「人狼。お前は、そんな周りと関わってて大丈夫なのかよ」

「え?」


何処か気まずそうに視線をあちらこちらに泳がせながら、リュイは己と机を挟んで向き合う奈々に諭すように続ける。


「お前は今、その〝能力〟の強さで狙われてんだ。自覚は、あるか? ……それで、下手したら自分の友人とか、あの騒がしい爺さんと餓鬼達を、巻き込んじまうかもしれねえ状況下にいるんだぞ」

「……突然、どうしたの?」


奈々がリュイの様子のおかしさに、目の前の水を飲みながら問いかけた。

リュイは、奈々と目を合わしたりはせず、俯きながらポツポツと呟き始めた。


「あん時は……、俺と人狼が会って話した時には省いたけど、な」

「……? うん」

「……俺と、俺たちと関わって、死んだヤツがいたんだよ」

「……そう」


リュイはこう言いたいらしい。『自身の存在は周りに危害を加える』と。

奈々の家に沢山の人々が訪れた際に、どこかでリュイのトラウマスイッチに触れたのだろう。


「だから、周りと関わるのは……、やめろとは言わねぇ。でも、好ましくない」


リュイは、手に持つ温泉まんじゅうを、まんじゅうを包んでいた紙の上におき、机に額を当てた。

そこから数分動かないあたり、かなり心の方が弱っているらしい。

奈々は、そんなリュイを見つめた。


「私には、さ。分かんないな。難しいこと」

「……そーか」

「うん。私、勉強苦手だから」

「……あ、そ」


奈々は、ずっと机に額を当てているリュイの頭をソッと撫でた。

リュイはビクリと肩を震わせるが、その撫で方が昔母に同じことをされた時と酷く似ていて、その手を払いのけられずにいた。


「難しいことは分かんないよ。でもさ、分かんないんだったら、私は自分の力で守るよ」

「守る……」

「うん。守る。私には折角狙われるくらいの力があるんだからさ、その力で、自分の手が届く分、全員守ろうと思うよ」

「そーか……」


奈々は眠たげに呟くリュイに、「うん」と一言返したのち、黙り込んだ。

奈々が窓に目を向けると、既に日は沈み始めていた。


「こんな時間に寝たら、夜眠れなくなるよ」

「分かってる」


のどかな時間は、少しずつ過ぎていった。

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