第九話 人狼少女と奇妙な同居人
友達とは。
勤務、学校あるいは志などを共にしていて、同等の相手として交わっている人。友人。
「なんでだ!?」
「いや、だから同居に必要な関係性を求めてるんだよ? ちょうど良いのは友人と言う関係。だからこその友人になろうっていう提案」
「あ……、そうか……、いや!! そこじゃねぇよ!? 俺は、お前を殺そうとして!!」
「あー、私はそんなのもう気にしてないよ。私の心、太平洋より広いから」
「嘘つけ」
男は座ったまま、奈々を異常なものでも見るような目で見ている。だが、そう見られてしまうのもしょうがないだろう。彼女自身、一応自覚はある。
「はっきり言って、あんたはそのまま野垂れ死ぬでしょ」
「だろうな。……いや。生きるわ」
「その未来しか見れない。残念だけど。金の使い方分からない。職業も真っ黒。唯一の友人も行方知らず。はっきり言ってそんな死にそうな奴を、外に出すなんてこっちの気分が悪いの。夜もおちおち寝れやしない」
「でも……」
「『人は助け合う生き物だ。』これは、私の友人が言った言葉。すっごく困ってて、苦しくて、死にそうになった時、手を差し伸べてそう言ってくれたの。それに、日本にはこんなことわざがあるの。『情けは人の為ならず』ってね。これは、誤解する人が多いけど、本当の意味は、情けは他人の為ではなく、巡り巡って自分のところに返ってくるってことなの。だから、あんたへの提案は、あんただけじゃなくて、私の為でもあるの」
男は、静かに奈々を見て話を聞いていた。出会ったばかりではあったが、今まで一度も見たことが無いくらい、静かな表情をしていた。
人が、こんな顔を出来ることを、奈々は知らなかった。
ただ、純粋に、美しいな……と思った。
「昔、俺に初対面の女がいた。俺の友人の女だ。その当時は、友人じゃなかったけど……。「お前は阿呆か? 人は助け合ってなんぼやろ。お前何人なん? いや、産まれなんて関係ない。なに言われて育ったん? 困った時はお互い様っていうやんか。あては恩を売りつけてるだけ。それ以上でもそれ以下でもない」そう言って、俺の傷の手当てをしてくれた。……お人好しだ」
男は、拳を握りしめ、静かに語る。その目は、奈々ではなく、どこか遠くを見つめている。
「その時、こうとも言った「お前みたいなのは人生損してる。いつか人生を心底楽しんで生きて、ほして一日一日無駄なく過ごしてる奴とと出会って学べ。ほんで、得しかない人生を送れ。お前と言う人間の人生はいっぺんしかない。お前よりちびっと長く生きたあてからのアドバイスや」って。……多分、お前がその〝一日一日無駄なく過ごしてる奴〟何だろうな」
静かに、男は笑った。
「……また、俺の友人に会える時まででいい、ここにいても良いか? 本当に」
「私に二言はない!」
「……そうか」
奈々は立ち上がり、男の隣に立った。男は、奈々のいる方へ向きを変え、奈々を見つめてくる。その目には、当初あった闇は無く、太陽のような光が広がっている。
「私は信濃奈々。信じるに濃い。神奈川の奈に記号で々書く」
「……俺は、リュイ」
「そう。よろしくね。リュイ」
「おう。よろしくな。信濃」
こうして、〝能力者〟である信濃奈々の家にリュイと言う名の奇妙な同居人が出来たのだった。
「それじゃ、ご飯食べちゃって」
「うわぁ。五日ぶりの飯なのに、胃に悪そうだな」
「文句言うなら食うな」
「食わないとは言ってない」
奇妙な同居人と食べたご飯は、今まで食べた中で、奈々にとって一番優しい味がした気がした。
2017/05/07改稿しました。