救急車内〜定められた『傍観者』
仕事に追われて、更新が遅くなりました。m(__)m 新たな惨劇が始まります。
救急車の中に、異様な緊張感が張り詰めている。患者は瀕死の重傷で、左側の肺は潰れ、右足の膝から下は半ば千切れかけている。 取り敢えず止血と酸素の供給をしつつ、常備している氷で足の切断面を包む。運が良ければ、何とか繋がるだろう…妙に鼓動だけがしっかりしているのが、逆に気に懸かる。
「助かるか…?」
仲間の一人が呟き、もう一人の仲間が答える。
「普通なら、とっくに圧死しているのに…よほど運がいいのか、逆に運悪く死ねなかったのか……」
確かに、あり得ない状態だった。あれで生きているのが、まず奇跡だ。だが…私は、隊長の言葉を思い出していた。
『鎖が…始まる――』
もしも、もしもだ。この『奇跡』が、“鎖”の始まりだとしたら――
根拠の無い不安に駆られながら、出血を見つけた私は、後部の奥にあるガーゼを取ろうと移動した。
『オマエヲ、傍観者ニ定メル。鎖ノ全てヲ見届ケヨ』
静かな、そして重い声が、私の耳に、いや、頭全体に響いた。直接に頭蓋骨に叩きつけられたようなその声は、私の動きを止めるには十分すぎた。その刹那…
『何ッ………!?』
激しい衝撃、宙に舞う身体。激し過ぎて、逆に耳に入らない轟音……そして、一瞬とも永遠ともつかない『無』が私を包みこむ。
『患者を、患者を守らなくては…患者は何処――』 そこで、私の意識は『無』に飲み込まれた――
どれ程の時間が流れたのだろうか…?様々な薬品の混じり合った異様な空気が視界を歪ませ、血の匂いと重なる死臭が鼻腔を刺す。(此処は……?)
記憶が戻るのに、時間はかからなかった。私は先ず、被害状況を確認しようと辺りを見回した。私以外の生存者は……?
「青木!神田!竹嶋!」
私は、乗っていた仲間の名前を呼んだ。…少し時を置いて、もう一度名前を呼ぶ……返事は無い。
助かったのは私だけか…そう思っていた私の耳に、微かな呻き声が聞こえた。空耳かと思い、もう一度耳を澄ますと、やはり呻き声がする。
私以外に生存者がいる!長くは保たないかもしれないが、今の私には、唯一残された希望だった。
「……何処だ?」
私は呻き声の出所を捜した。それは、意外にも私のすぐ近くだった。
そして、その生存者に気づいた瞬間に、私は背中に冷水をかけられたような錯覚を覚えた。
生存者は、瀕死のふちにある患者だった。所々にかすり傷を負っているものの、普通に横たわっている。
「大丈夫ですかっ!?」
声をかけた時、私はもう一つの『異変』に気付いた。脚が、千切れた脚が、繋がっていた――
恐怖に支配された私は、震えながら助けを待った。暫くして、何台かの救急車の音が近づいてきた。そこで、私の意識は再び薄れていった――
次はもっと早く書けるように頑張ります。お付き合い下さいました方々に感謝です。