事故現場:始まりの惨劇
大変に間が空きました。構想に苦労して、ようやく踏み出しました。はい、前の作品をご存知の方には、この始まりは唐突ではないかと思います。遅筆になりそうですが、お付き合いしていただければ嬉しいです。
「トラックに挟まれた!?おいおい、生きてるのかよ、そいつ!?」
全く、とんでもないな…今日は異常としか言い様が無い。朝から変なメールはくるし、『厄日』というやつなのかな…?
「…で、場所は?」
――北二丁目交差点?何か記憶にあるが…思い出せないな……?
「おい、早くしろ!かなりヤバいみたいだぞ!!」
同僚に促され、慌てて救急車に乗り込む。現場には、数分後には着く筈だ。
「ヤバいどころじゃないぞ…急げ!!」
隊長が叫ぶ。現場は確かにひどいモノだった。交差点の真ん中で、二台のトラックに挟まれた人が、弱々しく手を動かしている。生きているのが奇跡としか言い様が無い。
「くそっ、何とかコイツが動けば…!」
隊長がそう叫んで、トラックの運転席のドアをこじ開ける。運転手は軽傷だが、気を失っていた。
「おい、誰か手を貸してくれ!」
直ぐに一人の隊員が隊長の手助けに入る。 ぐったりしている大柄な男性が引きずり出され、隊長がトラックを下げようとエンジンをかけた。その刹那――
…ドオオオン!!
隊長の乗ったトラックは爆音と共に爆炎に包まれた。その光景は――
「メールの画像と同じじゃないか……」
――そう、今朝受信した薄気味悪いメールの添付画像そのものだった……
茫然自失しかけたが、そこはやはり仕事柄、直ぐに被害状況を確認する。
トラックは、『一台だけが丸焦げ』だった…もう一台と、挟まれた人には、全く炎どころか、爆風すら触れていないようだった――まるで、隊長だけを狙っていたかのように――
「隊長、隊長…!?」
ムダだとはわかっていた。だけど、そう簡単に感情は抑えられない。助かっていて欲しい……今ほど、『奇跡』というものに期待した事は無かった――
「う……」
微かな、本当に微かな呻き声が聞こえた。そう、『奇跡』が、起きた――!
「おいっ、まだ隊長が…」
だが、救援を呼ぶ私の声は隊長の手によって遮られた。
「………。」
隊長が何かを言っている――繰り返し、繰り返し…何だろう?
「隊長、何ですか?しっかりして下さい!」
隊長の口が微かに動き、小さな声が、耳に届いた。そして、隊長は息絶えた… 私の後ろでは、挟まれた患者の救出が続いている。直ぐにでも、手助けに行くべきなのだろう、だが、私の心は、隊長の最期の言葉に支配され、身体は硬直してしまった。隊長の最期の言葉、それは――
「鎖が、始まる……」
鎖?一体、隊長は何を言いたかったのだろう…?
半ば茫然自失していた私の耳に、仲間の声が届いた。
「…隊長は?おい、隊長はどうなんだ!?」
私はその声で我に返った…急いで隊長の死亡を確認する。やはり、もうこと切れていた…
「……だめだ。もう…」
仲間も、それは判っていたようだった。無言で頷き合った後、隊長の亡骸を運び出す。後の処理は警察の仕事だ。私たちは、先に生存者を搬送する為に、救急車に乗り込んだ。急がねばならない。私は頭の中からあの言葉を消し、患者の応急措置を始めた――
過去の作品をご存知の方には、もうお分かりかと……そうです。『彼女』がまた動き始めました。これが最後の物語になる予定です。どれ程の惨劇になるか、私にも分かりません(笑)今暫くのお付き合い、宜しくお願いいたします。