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文武平等  作者: 風紙文
第四章
96/281

珀露の秘密

「さすがです……月乃先輩。あたし達の負けです」

「ふふん、まぁ一年くらいのブランクなら対したことないわね」

横矢率いる中学生とパズル部の勝負、結果は、パズル部の勝利だった。

月乃が横矢と戦ってる間に、俺と三夜子が2人がかりで珀露と戦ってる間に、早山が旗の風船を破壊しての勝利。いや、旗が割られる前にその二つの決着もついていたかのもしれない。何せその3つがほぼ同時に決着したせいでよく分からないというのが本当だ。

だが最後に残った紙風船を見る限り、そして旗を取ったという事実があるので勝者はパズル部のもので間違いないだろう。

「皆さん初めてとは思えない腕前でした。パズル部では、何か似たことをするのですか?」

そういうことは一切無い、ただ部員のほとんどが『剣の舞』という本物に近い剣を使っての真剣勝負をしているから、それで鍛えられているだけだ。なんて言えない。

「まぁ、アレよ、みんな昔にチャンバラの経験があるからよ」

「そうでしたか、皆さんさすがです」

月乃が分かりやすい嘘をついたが、横矢はそれに納得してくれた。

「そういえば、珀露はどこ行ったの?」

「え? 珀露ですか?」

横矢と緑羽以外の共に戦った中学生達はすでに帰宅したが、珀露の姿がどこにも見えなかった。他の皆と共に帰った、ということは弟の緑羽がいるのを見てあり得ないだろう。

「本当だ、ボクちょっと探してくるね」

「皆さん、この後のご予定は?」

緑羽は林の方へと珀露を探しに行き、横矢の質問には大和先生が答えた。

「そうだな、一度宿に帰るか。汗も流したいしな」

「では、片付けはあたし達に任せて下さい。あ、皆さんの道案内を…」

「大丈夫よ緋鳴、アタシが道分かるわ」

「すみません月乃先輩。珀露を見つけて、片付けてからお礼に伺いますので」

「そんなに焦らなくてもいいわよ、まだ午前中だし」

「ありがとうございます。それでは皆さん、また後ほど」

丁寧に頭を下げると、横矢は緑羽が向かった方向へと珀露探しに向かい、

「それじゃ、行きましょ」

パズル部は月乃案内の元、宿へと歩き出した。




……side 珀露


……やってしまった。

ならないよう注意していたのに……しかも、なってほしくなかった方に、なってしまった。

結果として、僕も負けたしパズル部の皆さんが勝ったけど、その間の言葉とか、紙風船の割り方とかが絶対に皆さんに不快な思いをさせてしまったと思う……

「はぁ……」

そんな気持ちのせいでか、僕は一人、皆が集まっているところから離れた山の中へと来てしまった。

結構奥に来てしまったから、すぐには見つからな…

「いた〜!」

…見つかった。

「どうしたのお兄ちゃん? 月乃先輩達行っちゃったよ?」

「うん……」

「あ、もしかして……なっちゃった?」

「……うん」

僕は、多重人格者というやつだ。

二重ではなく、多重、先ほどなった以外にもう一人、僕の中には僕がいるんだ。

コレを知っているのは、最初に変化した所に一緒にいた緑羽と緋鳴だけ、月乃先輩や他の人、両親でさえ知らない秘密だ。

「仕方ないよお兄ちゃん、押さえ方がよく分かってないんだから」

「そうだけど、それで皆さんに迷惑を……」

「大丈夫だよ、みんなそんなこと思わないって」

「そんなわけ……」

「珀露、こんな所にいたのね」

緋鳴もやって来た。結構奥まで来たつもりなんだけど、思ったより遠くへは来てなかったのかな。

「珀露……アンタまさか、またなったのね?」

「分かる?」

「この状況見て、なってない訳ないでしょ?」

「あはは……だよね」

「しかも、今回は厄介なほうね」

「え? そこまで分かるの?」

「当たり前よ……そ、それだけ珀露のこと見てるんだから……」

急に緋鳴の声量が下がって後の方が聞き取れなかった。

「何だって?」

「な、なんでもないわよ! とにかく早く片付けて先輩方にお礼言いに行くわよ!」

急に怒鳴った緋鳴は足早に来た道を戻って行ってしまった。

「前から薄々思ってたけどさ、お兄ちゃんって重要なことは聞き逃すよね」

謎の言葉を残して、緑羽もその後を追って行ってしまった。

「?」

重要なこと、だったのかな。





宿に戻ってきたパズル部のメンバーは男女部屋に別れて休憩することになった。現在女子達は風呂に向かって汗を流している。

そして男子組は、部屋で先ほどの戦いを振り返っていた。お互いの感想を話した後、俺は思っていた疑問を大和先生に訊いてみた。すると、大和先生と早山も気付いていたらしい。

「珀露のあの変化、二重人格ってのに似てるが……それだけじゃ説明出来ないのがあったよな」

「はい……剣の気配がありました」

やはり、珀露から感じたアレは剣の気配だったのか。

「ひょっとしたら大発見かもしれないな、ちょっと電話連絡していいか?」

俺達が頷くと、大和先生は携帯でどこかに電話をかけ始めた。

「なぁ早山、剣を持って性格が変わるのって」

「あぁ、大和先生の剣、レベル5『布縫』にもあるな」

逆に言えば、性格が変わるような力はレベル5の剣にあるということだ。

「はい、何ですかホウさん? 出番? 何を訳の分からないこと言ってるんですか。ホウさんの出番はあの時たこ焼きで終わりという情報があったじゃないですか。はい、それには従わないと。いや結局声だけなんですから、はい、それでは、情報ありがとうございました。お土産、期待していて下さい」

大和先生は携帯を切った、電話の相手はホウさんだったらしい。

「大体分かったぞ、コレは三夜子と……月乃にも伝えないとな」

「ですが、上手く伝えられるでしょうか」

2人に収集をかければ、必然的に押川はついてくる。それをどうにか出来る術がなければ2人だけに伝えるということは難しい。

「方法は考えてある」

大和先生がにやりと笑い、なぜか俺を指差した。

「俺、ですか?」

俺に何が?

「いいか、まず……」





日の落ちた夜、街に比べて電灯が少ないからか暗く感じ、その分、月や星がよく見えた。

俺は一人、宿から少し離れた林の中に来ていた。その理由は、

「……創矢」

三夜子に伝言をする為である。

大和先生の考えとは、こうだ。まず三夜子と押川を一緒にさせている内に月乃に珀露のことを伝える。その後、俺が三夜子を呼び出して伝えるというものだ……いやなぜ月乃に使った方法を三夜子にも使わないのか、というかメールで良かったんじゃないか? という疑問はそのタイミングで女子達が風呂から戻ってきたために言うことが出来なかった。

まぁ三夜子はうっすら気づいてたみたいだから、伝えるのは簡単だろう。

「悪いな、呼び出して」

「ん……別に平気」

現れた三夜子は傘を、持っていなかった。珍しいこともあるな。

「……それで?」

「あぁ、三夜子も気づいてたとは思うが、珀露が剣を持っているらしい」

「……やっぱり」

「しかも、レベル5の可能性があるみたいなんだ」

「……それは、兄さんと同じ?」

「あくまで可能性なんだが、あの性格変化は他の剣では説明出来ないらしい。それで明日、珀露に剣を剣守会へ渡すように言うそうだ」

「……そう」

「それとな」

俺は一拍置いた。これから言うのは、結構厄介な言葉だからだ。

「……?」

「明日、珀露と戦うことになった。チャンバラじゃなくて『剣の舞』でだ」

「……誰が?」

「俺と、三夜子がだ」

月乃は相手が珀露となれば戦い憎いだろうし、剣守会に渡れば早山と大和先生はすぐに戦える。なのでそれに含まれない俺達が、明日、珀露と戦うことになったのだ。

「……なるほど」

「レベル5だとしたら、加えてあの性格になったら勝てるか分からない。ただ大和先生は負けるのも必要だって言ってたから、気楽にやれってさ」

「……創矢」

「ん?」

「……明日、頑張ろう」

「……あぁ」

きっと三夜子は、必ず勝つつもりでいるな。もちろん俺だって、手を抜くつもりはない。

「さて、話も終わったし、戻るか」

宿の方、三夜子が背にしている方向を指差すと、

「……」

三夜子は一度を下を向いたと思ったら、空を見上げた。

「どうした?」

「……もう少し、居たい」

「え? あぁ、まぁいいけど」

多分空の星に見とれてるんだろう、街じゃ全然見えないからな。

それから少しの間、俺と三夜子は何も言わずに星空を眺めてから宿へと戻った。

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