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文武平等  作者: 風紙文
第四章
95/281

短剣と二刀流と

現在 4人対4人。俺の前に現れたのは珀露だった。

何故ここに? と思って向こうを見ると紙風船を割られた押川と大和先生がいた。どうやら珀露1人で2人に勝ったらしい。

しかし、何かがおかしい。さっきまでは両手で握っていた柄を片手、しかも左手で握っている。それに、

「あれ? キミには気配が無いな、向こうの一人からは感じたのに」

口調がかなり変わっている。自我が強そうな、元の珀露からは想像もつかない口調だ。

改めてその姿を確認した時、体に妙な感覚を覚えた。今までどこに隠れていたんだと疑いたくなるような、大きな気配。相手を傷つける獲物のような、そんな感覚。俺はつい先日そんな気配を感じれるようになったばかりだが、この気配は、まさか……などと考えていたところに珀露が飛び込んできた。俺は慌てて思考を中断して迫りくる剣を防ぐ。

本来そこまで重さの無い剣での連撃が繰り出される。幸いなのは、狙われるのは頭の紙風船のみで、実際体を叩かれても痛くないし、他は守らなくてもなんとかなる事か。

とりあえず考えるのはやめておこう。まるで人が変わったようにって、月乃に聞いてなかったら混乱してただろうな。

豹変した珀露からの止まらない連続攻撃、その一瞬の隙をついて紙風船を狙った。

「おっと」

首を曲げて回避され、数秒前紙風船があった所へ剣が到着。そこから回避された方向へ振ると珀露は後退してそれを避けた

「ふーん、あの2人とは違うね。気配は無いのに」

何か呟いた後、珀露は再び前進。紙風船を狙って剣を振りかぶった。





――一方その頃。

「うへぇ、さすがに強いですね」

「剣道の有段者だからな」

「……こういうのは慣れてる」

三夜子、早山組の対戦が佳境を迎えていた。

すでに相手の一人は脱落、残る緑羽も息が乱れてきている。しかし相方がやられてから数分、緑羽は2人の猛攻を防ぎながらも攻めていた。その辺りは場数を踏んだ経験値の差だろうか。

だが周りを見る余裕など無く、背を向けている旗の前で繰り広げられている珀露の豹変と武川との戦闘については全く気付いていなかった。

「……七ヶ橋」

「ん……分かってる」

一方武川と珀露の対戦を見た2人は豹変したような珀露の動きと武川の防戦を見て、早く助けに行く、その為に、前の緑羽を素早く倒す、と決めた。

早山が右、三夜子が左から緑羽へ迫る。先についたのは早山が短刀を紙風船へ向けて突く。

「くっ!」

緑羽はそれを右手の刀でいなすと、三夜子が左側から剣の片方を振るった。

「うわ!」

驚きながらも左手の刀で防いで三夜子へ攻撃するも、あっさりと避けられてしまう。

緑羽の二刀流は三夜子のそれとは使い方が異なっており、両手の剣で攻撃する三夜子とは違い、片方で攻撃と防御、もう片方では防ぐだけという剣と盾の要領で持っている。

つまり、片方は攻撃が上手く出来ないのだ。

「たぁーー!」

その両手に持つ刀を左右に無造作にふるって早山と三夜子を間合いから遠ざけた。

「……七ヶ橋、いいか」

「……了解」

一瞬のアイコンタクト。それで三夜子は何をするのか理解し、前進。緑羽へ剣を振った、一回防がれ、そこから連撃。

「うわ、た、たた!」

緑羽は後退しながらも紙風船を死守する。と、急に三夜子の攻撃がぴたりと止んだ。

「隙あり!」

それを見た緑羽が三夜子へ攻撃を仕掛けるが、

「こっちを、忘れてないか?」

緑羽の後方から早山の声、緑羽が振り向いた瞬間。

「はっ!」

早山は剣を投げつけた。狙いはもちろん、緑羽の頭上の紙風船だ。

「なんの!」

緑羽は剣三夜子の攻撃に気を付けながらも投げられた剣を避けた。標的を失った剣はむなしく地面に落ちる。

まずは、あっちだ!

緑羽は無手となった早山に狙いをつけて、剣を振るう。

「剣以外じゃ防御は出来ないよ! いつまで避けられるかな!」

「……いいや、もう終わりだ」

「へ?」

次の瞬間、何かを感じた緑羽の顔の横を何かが通過していった。

「……」

それは三夜子が投げた、双剣の片方。

「危な! 気付いて良かっ…」

緑羽は再び気付いた。なぜ三夜子が剣を投げたか、投げられた軌道が頭上のい紙風船ではなく顔の横か。

その理由は、

「ナイスだ、七ヶ橋」

三夜子の投げた剣を、早山が取る為であった。

「……これで」

「終わりだ」

早山と三夜子、両側から同時に、緑羽の紙風船を狙い……


パァン!


「わぁ!?」

2人がほぼ同時に紙風船を割った。

「や、やられた〜」

負けはしたが、そこまで悔しくなさそうに緑羽は地面へ膝をついた。

「悪いな」

早山は緑羽へ一言かけると三夜子を見た。

三夜子の目は旗の向こう、武川と珀露の戦いを見ている。

「……七ヶ橋」

それを見た早山は理解し、持っていた剣を投げた。

「俺は剣を拾って旗に行く。お前は、好きなようにするといい」

「……分かった」

早山が投げた剣を取り、再び二刀流になった三夜子は武川達に向かって走り出した。





パシン!

互いの剣が交錯、乾いた音が響いた。

最初に交錯してから数分は経っただろうか、紙風船が割れたような音は聞こえたが、誰のまでは把握出来ていない。そんなことしていたらやられてしまいそうだったからだ。

「ん?」

その時、珀露の真後ろから剣が現れた。そんな死角からの攻撃にも関わらず珀露はあっさりと避け、剣を振った人物が俺と珀露の間に降り立った。

「三夜子!」

「……大丈夫?」

そうか、緑羽達に勝ったんだな。

「あぁ、けど、アイツはかなり強いぞ」

「……」

三夜子が珀露を見ると、珀露もまた、三夜子を見ていた。

「……キミもうっすらあるんだけど、今は持ってないということかな」

「……この気配は」

三夜子も気づいた。なら、ほぼ確定だ。

「三夜子、今はやるべきことをするぞ」

「ん……分かった」

俺達は剣を構える。珀露も対面で構えた。

「……行くぞ」

「……いつでも」

一陣の風が吹き抜ける。 山の木々を揺らす音が――





――止んだ。


瞬間、俺達は動き出し、


そして……




パァン!




長く続いた……と思っていたが、後で時間を確認すると一時間弱の間の出来事だった戦いに、決着がついた。

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