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文武平等  作者: 風紙文
第一章
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変わり者、2人

「これ、ありがとな」

下校中、一人で歩いている七ヶ橋を見つけて、傘を返す事ができた。

「ん……」

七々橋ほぼ無言のまま受け取り、鞄の中へと入れてしまった。

「お陰で濡れずにすんだよ、本当にありがとな」

「……こちらこそ」

こちらこそ?

「俺、何かしたか?」

「……昼休み」

「あーあれか、あれは気にするな、自分でやった事だからな」

「……強いね」

「実家が道場でな、子供の頃から剣道やってたから、あんな事ができたんだよ」

それを言ったら七々橋のあの動きも凄かったけどな。とは、なんか聞きにくかった。たった数回話した程度で、まだまだ知らないことだらけだ。

「……」

「……」

沈黙が続く。そうだ、俺から話を振らないとな……えっと……

「……ねぇ」

「え?」

七ヶ橋から話しかけられた。

「……どうして、私に話かけてきたの?」

「あー……」

そりゃそうか。クラスで浮いている七ヶ橋、それに話しかけた俺。一体どうしてか、気になるに決まってる。

言ってしまえば、大和先生に言われたからだ……だが、

「まあ、仲良くしたかったから……かな」

そんなの、正直に言えるわけない。

「……仲良く?」

「あぁ、言い方は悪いかもしれないけど……七ヶ橋って、変わり者だろ? 壊す為の傘を持ってるなんて」

「……確かに」

俺の言葉を否定せず、七ヶ橋は頷いた。

「実は俺も、変わり者なんだ」

仲良くなる為に、七ヶ橋が傘の秘密を語ってくれたように。俺も一つの秘密を話すことにした。

「……どこが?」

「コレ、見てくれ」

俺は鞄のファスナーを開け、中身を七ヶ橋の方へ向けた。

「……」

中を見た七ヶ橋は何も言わず、変わらず無表情だ。

「な? 変わり者だろ?」

鞄の中には教科書や筆箱、そして……その数に勝る沢山の鉄製品。

さまざまな形をし、繋がっていたり重なっていたりする―――――知恵の輪の束だ。

キャストパズルと呼ばれる現代版の知恵の輪みたいなもの。それが鞄の中に沢山入っている。

「バカみたいに集めてさ、ここに入ってるのはまだ解けてないやつだけなんだが、寮の部屋にはこの倍はあるんだ……な? 変わり者だろ?」

「……そんな事、無い」

「なくないさ、出来もしない物を、こんなに集めちまうんだ……変わり者だよ、しかも、かなりのな」

「……」

しまった。少し語りすぎた。

「話が反れたな、だから変わり者同士、仲良く出来たらいいなって思ったんだ……それだけなんだ……じゃ」

「……」

そのまま七ヶ橋の方を見ずに、俺は真っ直ぐに走り出していた。





寮の自分の部屋。寮は基本二人部屋だが、こうして余り者が一人で使える事もある。故に俺はルームメイトがいない。

鞄を机に置き、ベッドに飛び込んだ。目線の先には天井がある。

結局、あのまま走って帰って来てしまった。

「……はぁ」

ため息をつき、頭の上にある物を見た。

そこには段ボール箱が一つ、中身は全てキャストパズルだ。実家の道場を手伝った駄賃という名の小遣いで買った物の集まりが入っている。

既に一度は解いた物だけがあの中には入っている。多分……十五はある。それと鞄の中には七つ程で、計二十二個、この部屋の中に存在していることになる。

……変わった趣味以前に、異様な数が変わり者の故の変わった行動だな。

キャストパズルは決して簡単ではない、箱の中身はパズルのみで、答えの描かれた紙も付属されていない自分で解くしか答えを見つける方法の無いパズル。それなのに、解けてもない物があるにも関わらず、新しい物を見つけたら買ってしまう。

……ああ、変わり者だな。かなり変わった変わり者だ。改めて思い知った。

……けど、七ヶ橋には、悪い事を言ってしまったな。

こんな変わり者、だが言いかえれば、ただのコレクターに過ぎない。七ヶ橋の壊そうとしている傘とは比べる次元が違う。一緒にしてもらいたくない筈だ。

明日会ったら、謝ろう。

しかし、七ヶ橋は否定しなかった。

それどころか、俺は変わり者では無いと言った。

「……」

明日会ったら、お礼を言おう。

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