七々橋の友達
今の時刻、始業にはまだ早いが、登校する生徒は決して少なくなかった。
理由は様々、クラスで友達と話したい、日直による仕事の為、走る者は部活の朝練に遅れたか何かだろう。
俺もその中に混じり登校していると、
「おっす、武川」
後ろから肩を叩かれた。振り返り見ると、そこには大和先生がいた。
「おはようございます」
まず挨拶をして、疑問を投げた。
「この時間で良いんですか? 先生はもっと早い者だと思ってましたけど」
「大丈夫さ、朝の会議にはまだ間に合うから」
「はあ……」
だとしても、そんなにのんびりしているのはどうだろうか?
「で、どうだ?」
先生が小声で聞いてきた。多分、七ヶ橋の事だろう。
「話しかけてみました」
「おぉ! やるなー武川」
予想外に驚かれたな。
「会話は繋がりました」
「それで?」
「まぁ……それだけですが」
「そうかそうか、いやいや充分な一歩だぞそれは」
「あ、ありがとうございます」
「そうかー、三夜子に会話が成り立ったかー、それは高校では実質2人目かもしれないな」
「2人目……ですか?」
俺の前に七々橋に話しかけた人が一人いるのか。
「前に言ったよな? 会話は前のクラスで友達だった奴がやってくれているって。だから武川は2人目だ」
そういえばそうだった、七ヶ橋にも友達がいたんだよな。
などと話している間に学校へと到着、大和先生と別れて自分のクラス、2年C組に向かう。
自分のクラスに入り、鞄を自分の席に置きに行くより前に、七ヶ橋を探した。
しかし、七ヶ橋の席は空だった。
傘は無いが鞄はある。どうやらどこかに行っているみたいだ。多分先生が言っていた友達の所だろう。
仕方ない、朝は諦めるか。次の休み時間にでも傘を返して、そのまま話題を振って他愛ない会話を繰り広げられれば良いな。
……だが、休み時間の度に七ヶ橋を訪ねようとしたが、休み時間になる度に、彼女は訪れて来た。
休み時間が始まって数分後、ガラガラと音を立てて扉が開かれ、
「やっほー!」
明るく元気な声で教室内に聞こえるよう挨拶した。そんな彼女は挨拶を終えて教室に入るなり目的の下へと向かい。その人物の前の席をお借りして背もたれを前にして座り、
「あのね~、みゃーさん」
七ヶ橋に話をふり始めるのだった。
彼女の名前は押川李々子。先生が言っていた七ヶ橋の友達とは彼女のことだ。
今までも姿を見たことはあったが、今日改めて彼女を見ている限り、大分変わり者だと思った。
まず女子なのに自らを、
「うんとね、ボクとしては」
ボク、と呼び。今日のようにほぼ毎休み時間の度に七ヶ橋を訪ねてくる。
そして最も変わっている事、それはやはり七ヶ橋の友達だという所だ。
無口で無表情の七ヶ橋と、おしゃべりで表情がコロコロ変わる押川。性格は正に真逆の2人がどうして友達どうしなんだろうか。いったい一年生の時に何があったのか。
しかし、七ヶ橋本人も押川の止まる事無い言葉に頷いたり首を横に振ったり、極稀に言葉で返答しながらも、嫌ではなさそうだった。会話は成り立っていないが。
ただ……そういうこともあり、休み時間も七ヶ橋に話しかけられなかった。
そんなこんなで、昼休みになった。
いい加減七ヶ橋に傘を返さなくてはと思い、押川と話していようが関係無く机に近づこうとした。いやむしろ押川が居た方がにぎやかになって良いんじゃないか? と気づくのが遅かったのはスル―してくれ。
意を決して席を見ると、七ヶ橋はいなかった。
クラスを見回しても見当たらない、押川もいないな。
「どうした? 創矢」
いつものように昼飯を手にやって来た浜樫が聞いてくる。
「いや、何でも無い。悪いけど飯は一人で食ってくれ」
俺は席を立ち、教室を出てあるところに向かった。押川は確かA組だ。恐らく、七ヶ橋もそこにいるだろう。
2年A組を訊ねてみると、押川はいたが、七ヶ橋はいなかった。
居場所を知っているかもしれないと、クラスにいた押川に尋ねてみると、
「みゃーさん? 今日はまだ来てないよ。いつもならお昼はここで食べるんだけど」
「そうか、ありがとな」
「まさか……みゃーさんに何かあったの?」
「え? いやそうじゃないんだが」
「ボクも手伝うよ!」
「あ、あぁ、ありがとな」
こうして、俺達は七ヶ橋探しが始まった。