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文武平等  作者: 風紙文
第一章
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現在までの観察結果

この傘は、壊す為にこうしているの。

頭の中からその言葉が離れなかった。

傘を壊す為、それが七ヶ橋が言った傘を持っている理由。

傘をささない理由。

地面をついている理由。

一番の疑問を解いたと思っていたら、また新たなる疑問が浮かんだだけだった。

雨が更に酷くなる中、それ以降の会話はなく、俺達は寮の前についた。

と言っても、ここは女子寮。男子寮はまだ少し先だ。

俺は傘から出て、鞄を頭の上に掲げた。

「傘に入れてくれてありがとな、おかげで濡れずにすんだよ、後は俺走ってくから…」

「……はい」

七ヶ橋は自らが持つ折り畳み傘をこちらに渡してきた。

「……使って」

「い、いいよ、後は走ればあまり濡れずにすむから」

「……これを使えば、全く濡れずにすむ」

そりゃそうだが。こんなほぼ見ず知らずのクラスメイトに傘を貸すか普通。

「……私はもうここだから」

ささない傘を寮に向ける。

「う……」

七ヶ橋はすぐに室内、俺はまだ少し外を進む。今の状況なら濡れる確率が高いのは俺だ。しかし、傘を借りるのは悪い気がするし……

等と考えている間に、俺は気付いた。傘をこちらに差し出す形になっている今の状況、七ヶ橋は傘の範囲外にいて髪や制服を現在進行形で雨が濡らしている。

一方の俺は傘の中、つまり俺が答えを出さずに考える状況が続くと、七ヶ橋がびしょ濡れになってしまうということだ。

それはまずい、せめて七ヶ橋が傘をつき付けるか投げつけるかして寮へ入って行ってくれれば選択肢が決まるんだが、だからといって断った所でそう簡単に七ヶ橋は折れないだろう。

なので……俺は傘の柄を持った。

「あ、ありがとな」

「……うん。じゃ、また明日」

そう言い残して、七ヶ橋は寮の中へと入っていった。

「明日! ちゃんと返すからな!」

聞こえたかは分からないが俺はそう叫んで、女子寮の前から歩き出した。

――――また明日、か……

男子寮は女子寮から徒歩で3分ぐらいの距離にある。その道を、借りた傘をさしたまま歩いている。

雨音だけが耳に聞こえる。その雨の降る曇り空を見た。

この天気じゃ、道場に行くの大変だな……て、今はそんなこと考えるな。

上を見ていた目は自然と、借りた傘を見た。女の子の物らしいかわいい物でなはく、柄の無い水色のシンプルな物だ。

借り物なのだから、明日しっかり返さないとな……

「……」

……現実逃避はやめよう。

先生には観察で良いと言われたが、更に一歩踏み出し、話しかけてみた。

結果が、コレだ。今の所、七ヶ橋がどんな奴なのかと分析してみると―――よく分からない。の答えが出ていた。

こんな見ず知らずに近いクラスメイトに名前の呼び捨てで呼ぶように言い。傘に入れてくれ、あまつさえ貸してくれるような人物が、何故クラスでは誰とも話さず一人でいるのか?

理由として今思い付くのは、2つ。

1つは七ヶ橋の性格。

なんだか話しかけ辛い雰囲気が、七ヶ橋にはある。その上にあの無口と無表情、大和先生が面白い事を言って皆が笑っている中、七ヶ橋だけはくすりともしていなかったのを思い出した。

2つ目は、あの傘だ。

まさか壊すために毎日持ち、毎日地面をついていたとは。そんな事をクラスメイトが知る筈も無く、ただ怒っているようにも見えていた。それだけでも話しかけづらい雰囲気の完成だ。

そんな理由が、七ヶ橋と他者との関係を断っていると考えるべきだろう。だが気兼ねなく俺に接したように、決して人を避けている訳では無いのだ。七ヶ橋から話しかけてくるのは無理だろうが、こちらから話しかけさえすれば応えてくれ、会話は成り立つ事は先ほど立証済みだ。

だからこちらから話せば、こちらから、仲間に入れて行けばいい。

とにかく明日は、朝一でこの傘を返す。そしてその流れで、何だっていい、話をする。

それだけでも充分、七ヶ橋は晴れてクラスの一員になれるだろう。

そんな事を考えながら、借りた傘を眺めながら寮へと歩いて行った。

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