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文武平等  作者: 風紙文
第二章
37/281

そういえば

登校の途中、前を行く三夜子を見つけて駆け寄った。

「おはよう、三夜子」

「ん……おはよう」

すっかり名前呼びに慣れ、周りに同じように登校する生徒がいる中でも難なく朝の挨拶をした俺達は並んで歩き出した。

足の音と共に、


カッ カッ カッ カッ カッ カッ カッ


一定感覚で鳴る音、三夜子が持つ傘を突いている音だ。

ちなみに、天気は晴れ。今日雨の心配は無いでしょう、という天気予報がテレビで流れていた、と思い出した。

でも、傘。まぁ手放す事の出来ないものだからな。

ただ、コレがなければ三夜子は普通の高校生として、学校生活が遅れたのかもしれな…


「創矢ぁぁぁぁぁぁ!」


…うわぁ。

後ろから聞こえた声に思わず立ち止まってしまったが……振り返りたくない。

しかし振り返りらないと何をしでかすか分からない。おそるおそる振り返り、半分ぐらい向いたところで背中に痛みを感じた。

対したそれでは無い、ただ駆け寄ってきた月乃が俺の背を叩いただけだ。

「まずはおはよう、そして入部しなさい」

朝っぱらからかよ……

「お、おはよう……」

「今日はいい天気ね、入部日和だと思わない?」

入部に天気は関係ない筈だ。

「いや、別に……」

「ああ大丈夫よ、ちょうどこんな所に入部届けが」

鞄の中から入部届けが取り出された。

「用意周到なのは良いことだな……」

「いいから書きなさいよ、ほらほら」

同じく鞄から取り出したペンと共にこちらに突き出してくる。

こ、これは。いつもと違って無理強いしながらも口調がいつもと違うから妙な気分になって思わず書いてしまう、パターンのヤツだ。

主に朝方か帰り際に使われる、もとい、使えない手段だ。

それは何故か、理由は、

「……うぐ」

そろそろだな。

「……………ぶはぁ! あーダメ! 朝っぱらから疲れる気を使うなんてムリ!」

やっぱりか。

「全く、朝も早くから元気だな、月野宮は」

「っ!? それで呼ぶんじゃないわよ!」

ふぅ……コレが唯一月乃を怯ませる方法だな。だからといって連呼すると、さっきの何倍も威力がある平手打ちが飛んでくるのは実証済みだ。

ちなみに、やったのは俺ではなく、友達の浜樫だ。

「み、雅さーん」

町田の声、振り返るとこちらに駆け寄ってきている。

あ、コレはチャンスかもしれない。

俺が月乃をどうにかして離せば、昨日大和先生に言われた三夜子と町田を仲良くさせる作戦を決行出来る。

「なぁ、三夜…」

バシンッ!

「痛って!?」

背中に痛み、月乃の平手打ちが背中に炸裂したらしい。

「な、何を…」

月乃の方を見ると、

「あ、あ……あ……」

小刻みに震えていた。そして何故か、顔が赤い。

「あ、アンタね! 百歩譲ってあの月野宮を我慢してあげてんのよ! な、なのに呼び捨てなんて良い度胸じゃない!」

ビシッ! と指をさされる。

いや、俺は三夜子を……て、あぁ。そういえばこの二人どっちも、みや、だったな。

「雅さんご無事ですか!?」

震える月乃に辿りついた町田が尋ねる。

「平気よ、ちょっと虚をつかれただけだから」

虚をつかれた? 今の月乃は赤い顔で少し息を切らしている。さっきの作戦と今の聞き間違いで疲れているみたいだ。

これは、チャンスだ!

「三夜子、後は頑張れ!」

一息に言って、俺は走った。

「あ! 待ちなさい創矢!」

少し遅れて月乃が追ってくる音が聞こえる。

よし、これであの場には三夜子と町田だけになったな。昨日見る限り、町田は三夜子に対して声をかける事に抵抗は無さそうだったし。


後は……俺が月乃から逃げ切れれば大丈夫だな。





学校にたどり着き、素早く上履きに履き替えた俺は、まだ追われていた。

「逃がすもんですかー!」

月乃も俺に一拍遅れながらもたどり着いて履き替え、俺を追い続けている。

教室に入ってはダメだ、逃げ場を失う。だから毎回校内を走り回って、始業のチャイムを待つのが数月前の日課になっていた。

何だか久しぶりだな……とか耽っていると月乃の声で現実に引き戻される。

携帯を開き、時間を確認。始業まで残り二十分、チャイムまでは残り十分だ。

それまで逃げ切れれば…

「こっちだ」

ふいに、腕を引っ張られた。

「!?」

予想外に強い力で引かれ、俺はされるがままに引き込まれる。

「お、お前は…」

「静かに、来るぞ」

「アイツこんなに足早かったのね、それでこそ勧誘のしがいがあるわ」

俺からは見えている月乃はそのままを走り抜けていってしまった。

角を曲がり、見えなくなると。

「……行ったぞ」

「そうか……良かった…」

さすがに息切れしていた所だ。月乃の言葉じゃないが、アイツこんなに足速かったんだな。

と、助けてくれたお礼をいってなかった。

「助かったよ、早山」

「……あぁ」

俺を引っ張ったのは、早山 仁史。寡黙で背の高い男子生徒で、月乃と同様、一年の時に同じクラスだった元クラスメイトだ。

「しかし……ここは考えたことなかったな」

「いくら追ってこようと、月乃も女子だ。ここへは入ってこれまい」

俺達がいる場所は男子トイレだった。

「本当に助かった。ありがとな」

「……礼には及ばない、俺としてはまた矛先がそちらに向いて助かっているのだからな」

矛先?

「もしかしてだが」

早山は頷いた。

「前にな、野球部のボールが女子生徒に当たりそうだったところを助けてな、そこを月乃に見られ、当たりそうになった女子共々部活に勧誘してきたのだ」

おそらく当たりそうになった女子は町田だ。

「俺はすでに部活に入っていると断ったのだが……兼任すればいいと引き下がらなくてな、思わず逃げた」

「早山も大変だな」

「それ以来クラスで会う度に迫られ、断り続ける日々時には逃げ、こうして隠れていたのだが……次はまたお前みたいだな、武川」

「どうやらそうらしい」

なるほど、しばらく来なかったのは早山を追っていたのもあるらしい。

その時、チャイムが鳴った。

「さすがに月乃も諦めただろう。始業だ、行くか」


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