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文武平等  作者: 風紙文
第一章
32/281

これからも

飯田は剣を振り上げつつ、

「剣を……渡せぇぇぇ!」

戦っている七ヶ橋達の方へ向かっていった。

「七ヶ橋!」

とっさに呼び掛ける、だが2人は戦っていてこちらの声に気付かない。

一旦2人が離れた。原良が突きの体制を、七ヶ橋も剣を交差に構えた。互いに能力を使う気だ。

2人の視界にはお互いのみ、そこへ飯田が迫るのが見えていないようだった。

コツン

走っている飯田が足元の小石を蹴った。その音が合図に、2人は動いた。

七ヶ橋が剣の交差を解き、風の刃を飛ばす。

原良が剣を前に突きだし、刃が伸びる。

風と刃では互いに相殺はしない、このままなら互いの攻撃が互いに当たるが。

そこへ飯田が迫った、狙いは……七ヶ橋だ。

俺は駆け出した、しかし距離的に間に合わない。

「三夜子!」

俺は再び、今度は名前で呼び掛けた。

「……?」

今度は気づいてくれた、そして前に迫る飯田に気付いた。

「うわぁぁぁ!」

奇声を発したままの飯田が距離を詰めていき、七ヶ橋に向かって剣が振り下ろされ、


ドスッ!


「……え?」

なかった。

飯田の胸、ちょうど心臓がある位置に刃が刺さっていた。

原良が伸ばした、カトラスの一方が。

「あ……う……ぼ、く……は……」

飯田が呻く。それと同時に互いに放った攻撃が相手に到達した。

「くっ!」

「……」

一本だけ伸びてきた剣を七ヶ橋は避けた。

一方の原良は、防御の術が無く、風の刃をくらった。

「へ、やるじゃねぇか」

伸ばされた刃を引き戻し、刃が抜かれた瞬間に飯田は倒れ。刀身の長さが戻った瞬間、原良が膝をついた。

そこへようやく俺がたどり着く。

「何で、あんな事を」

剣を二本共真っ直ぐに伸ばしていたら、刃を回転させる事に意識を向けてなければ、風の刃を避ける事も出来た筈だ。

「言っただろ? 俺の今の狙いは、コイツの剣だって」

原良は剣を知恵の輪の形に戻し。立ち上がって飯田の元へ。

「何が僕の側につく、だ。ハナからそんな気は無ぇっての、お前の剣を取る絶好のチャンスを伺ってただけだってのによ」

飯田の側に落ちていた剣を拾った。

「ま、レベルこそ低いが剣は剣だ。これも回収の対象には代わりない」

剣についたパズルを弄り、パズル錠の形に戻そうと動かす。

「何だコレ? どうなってんだ?」

「……」

本当に、何なんだこの人は。敵かと思えばそうでもない、だが味方という訳でもない。

中立、という立ち位置だとしても違和感がある。

言うなれば、第三者の第三者。状況に応じて対応を変える人物を見て対応を変えるみたいな感じ……自分でも何を言ってるか分からない。

「……あなたは何者?」

七ヶ橋も気になっていたんだろう、原良に聞いていた。

「俺か? 剣狩りの使者さ。それ以上もそれ以下も無いただの剣狩り、そして願いを叶えたい人間さ」

剣を持つ者は願いを叶えたいと思う事が必要なんだ、だったらこの男にあってもおかしくない。

「……願いって?」

七ヶ橋が更に問う。

「それは人に言うもんじゃねぇだろ。だがな、願いもなくただ恩返しの為に剣を狙う奴は許せねぇな」

飯田の事を言ったのだろう、確かに飯田のそれはただの恩返し、願いではない。

質問をはぐらかされてしまったと気づいたのは後になってからだった。

「さてと、じゃあ俺は行くとするよ。決着はまた今度何処かであったらやろうぜ、武川もな」

「……次は勝つ」

剣の切っ先を原良に向け、七ヶ橋が宣言する。

「あぁ、楽しみにしといてやるよ」

結局パズルは解けず、剣のまま持って原良は行ってしまった。

「……」

「……」

少し、分かった事がある。

あの原良という人……本当に剣狩りのメンバーなのだろうか?

違う気がするな。確信は無いが、言葉の端々にどうもおかしなところがあった。

まるで誰かの命令で、悪役を演じているような……

「ふむ、これはどう言えばいいんだろうな」

帽子の男が俺達に近づいてきた。あ、この人の事忘れてた。

「……まだ居たの?」

おいおい七ヶ橋、いくら何でもそりゃヒドイだろ。

「うぅ……さすがにそれは言い過ぎではないか」

めちゃくちゃ落ち込んでるし。

「ま、それはともかく」

しかしあっさりと復活。この人もこの人で謎の多い、いや、謎しかない人だ。

「君たちも、剣を手にしたからには叶えたい願いがあるのだよな?」

「……」

七ヶ橋は頷いた。

「ほぅ、それはなん…」

「……教えない」

言い切る前に言葉を切った。そりゃもうバッサリと。

「まだ言ってないのに……」

再び落ち込む帽子の男、しかしまたすぐに復活した。

「では、君はどうだ」

俺の方を向いて、同じ質問をしてくる。

「少年の願いは?」

「えと……」

七ヶ橋の願いを叶えたい。

そんな事を、本人が横にいる中で言える訳ないだろ。

マズイ……表情こそ無いが、七ヶ橋がこちらを見ている明らかに目で訴えている。願いを教えろー、と。

「そ、そういう貴方の願いは何なんですか!?」

話題を変えさせる為に帽子の男に聞いてみた。

「俺か? 平穏な生活」

「は?」

平穏な生活?

「何だその顔は? 平穏な生活こそ誰しも一度は望む全世界の願いだろう」

そう言われればそうかもしれないけど、今の状況じゃただの冗談にしか聞こえない。

「まぁいいさ、あの男じゃないが願いなんてのは言っても叶わないからな、そっと心に閉まっておけ、そしてたまに開いて眺め…」

「……ウザい」

その言い方は無いんじゃないかい七ヶ橋!?

「うぅ……いいもん、願いは自分で叶えるもん……」

今までにないいじけようだった。だが回復も早かった。

「『剣の舞』も終わってしまったしな、俺も立ち去るとしよう。ではな少年少女、また何処かで会える日を楽しみにしているぞ!」

そう言い残して、帽子の男は走り去っていってしまった、

……また何処かで会える日を楽しみにか。

あの男も剣を持つ者、願いを叶えたい者だ。

俺達が剣を持っている以上、いずれ戦う為に、また出会うのは必然だろう。

さて、こうして河川敷には俺と七ヶ橋、そして、倒れている飯田が残った。

「えっと……どうすればいいんだ?」

『剣の舞』の結果だけで見れば、飯田を倒した原良が一勝を上げた。

ただ、それだけだ。

俺も七ヶ橋も、勝ち星も負け星もついていない。倒れている飯田はいずれ目が覚めるから放っておくとして、

「……帰ればいいかも」

それしかないか。

「そうだな、帰るか」

「……」

七ヶ橋は頷き、剣を傘に戻した。俺もパズルを動かして剣を縮小させる

「……創矢」

ふいに、名前を呼ばれた。

「何だ?」

「……あの時」

「あの時?」

「……名前で呼んでた」

あの時か、迫る飯田に気づかせる為に呼び掛けた時だ。

「それがどうしたんだ?」「……嬉しかった」

「え……?」

「……私が言わなくても、名前で呼んでくれた」

「……」

アレは、無意識というか……いつも言われているからだと言うか……最初名字で反応しなかった時、ふと、あの言葉が頭に過った。

……三夜子でいい。

そして、名前が出た。

「アレは、その…」

「……これからも」

「え?」

「……これからも呼んでいい、何処でも」

何処でも? 確かに今までは他に誰かがいたりしたら名字で、二人きりになったとたんに名前呼びを強制してきた。

でも今確かに、何処でも名前で呼んでいいからと言ったが。

「何で急に……」

「……仲間だから」

仲間だから。

あの時に言われた、七ヶ橋と俺は仲間だと。

「だから名前、なのか?」

「……」

こくりと頷く。

「分かった、じゃあ俺の事も名前で…」

「……もう呼んでる」

「そうだったな」

あはは、と俺は笑う。

「……うん」

すると、分かりづらいが、七ヶ橋も笑っているようだ。

「……これからもよろしく」

傘を持たない右手を前に出したので、

「あぁ、こちらこそ」

俺達は握手を交わした。

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