剣を剣とする剣
―――剣が、姿を変えた。
今までも野山さんや音川さん、ここに来て三夜子と双海さんの剣が変化した所を見てきたが、俺の剣もまた、姿を変えた。
現れたのは鞘に収まった剣で、派手な装飾は無いが、鞘と鍔と柄、剣の全てが輝いている。
その時、頭の中に言葉が浮かんできた。最初に剣を手にした時に聞こえた物と同じ声のような言葉だ。
言葉が伝えてきたのは、この剣の名前と、その能力。
……なるほど、コレは、まさに隠し玉の対策になり得る。
「……創矢、これは?」
隣で見ていた三夜子が訊ねた。
「これは……この剣の名前は…」
伝説の剣と言われれば、最強とされる剣と言われれば、高確率で名前が出る最も有名な剣の名前。
……エクスカリバー
「かつての持ち主を常勝に導いたこの剣なら、レーヴァテインを止められる」
「……勝てるの?」
「あぁ、この剣は、剣を押さえられる」
俺は右手で柄を握り、左手で鞘を持ち、鞘から刃を抜く。
次の瞬間、刃から光が溢れ出した。
光は友也を中心とした輪に集まる人達の端にまで届いた。
ちょうどその時、友也がレーヴァテインを振り上げて何か能力を使おうとして、
「ばくはつ……どーーん!」
友也が唱え、レーヴァテインを中心に周りの人を吹き飛ばす衝撃が……起こらなかった。
「あれー? どーん! どーん!」
首を傾げてレーヴァテインを見た友也は、何度も何度も叫ぶが、能力は発動しない。
「んー? こわれちゃった?」
その姿を見て、花正や音川さん達も不思議に思いだした。
「何だ? 攻撃が来ないぞ?」
「まだ分からない。気を緩めないで」
「いえ、おそらくもう能力は来ません」
そこへ俺と三夜子は入っていった。
「む? どういう意味なのだ創矢」
「その剣。レベルアップの能力か」
「はい、この剣。エクスカリバーは…」
『五を統べる一』という名前を持つこの剣が、レベル5の板を全て収めてパズルを解いたことで表れたエクスカリバー。
その能力は……能力の使用禁止。
アルクスさんの持つエクゼキューショナーズソードの能力を無力化することに少し似ているが、コレは発動された能力を消すのではなく。能力そのものを使えなくしてしまう。
剣という存在を、能力の無い純粋な剣へと変えてしまう。最強とされるレベル5を統べたゆえの、全ての剣を統べた剣。
おそらくだが、この剣は特別な物だ。レベル5のどれかの対という物ではなく、レベル5はおろか全ての剣の能力の対であり得る。
そしてそれは、能力を作り出す偽剣のレーヴァテインも例外ではなかった。
「あれれー? どうしてー?」
レーヴァテインの異常に首を傾げている友也は、こちらのことは一切気にしていなかった。
「つまり。もう能力は使えないと?」
「レーヴァテインだけではなく、こちらの輪に居る人の剣全てですけどね」
剣を鞘から抜いた時に溢れ出した光、おそらくアレが発動の条件で、光に触れた人の剣だけが能力を消されるんだろう。
現に、伽行は今も竜顎を作り出して森人さんが盾の剣で防いでいる。
「なるほど。理解した。能力が無いのならば彼を捕まえる」
確かに、今までは能力で近付けなかったが、それが無くなれば押さえるのは簡単だ。
……だが、
「すみません、少し待ってくれませんか」
俺は1人、輪の真ん中に近付いた。
「……創矢?」
「何をする気なのだ? 創矢」
「ちょっとな、気になることがあるんだ」
「させない。勝手な個人行動は許さない」
やはりというか、音川さんに止められた。
けど、俺も引き下がらない。
「お願いします、少しだけ時間を下さい」
「何をするか。明確に伝えて」
「それは……」
言えば必ず、許されないことだろうな。
「……アイツと、戦いたいんです」
「それは。何故?」
何故、か。俺もついさっき思い付いたことでもあるんだが。
それをしっかりと、音川さんに伝えると、
「……分かった。やってみるといい」
音川さんは許可をくれた。
「ただし。リミットは5分」
5分か……説得に2分くらい使ったとして、残りは3分ぐらいか。
「ありがとうございます」
「……」
「創矢よ、本当にやるのか」
隣で何も言わずに見ていた三夜子と、花正を見て。
「大丈夫だよ。そう簡単には負けないさ」
俺は1人、友也へと近付いた。
右手には剣を、左手には鞘を持って近付くと、友也も俺に気付いた。
「ん? おにーさんはだれ?」
「俺の名前は、武川創矢。お前は?」
「伽行、友也です」
まずは挨拶、普通に出来て一安心。
よし、次だ。
「友也は、チャンバラって知ってるか?」
「うん、知ってるよー」
そうして友也はレーヴァテインをぶんぶんと振るった。知っているなら、話が早い。
「今から俺と、チャンバラしようぜ」
左手の鞘をどうしようか考え、床に置こうとしたら何故か腰の左側にくっ付いた。原理は全く分からないが、とりあえずそのままで、エクスカリバーの柄を両手で握って構えた。
対する友也の答えは、
「うん! いいよー!」
やる気満々で大きく頷き、レーヴァテインの柄を両手で持った。
よし、この形に持ち込むことが出来た。ここまでで、1分と少しくらいか。
「行くぜ……」
「いつでもいいよー!」
そして俺は、いつ来るのかと待ちわびている友也へと、剣を振るった。
友也はレーヴァテインを前に、エクスカリバーの攻撃を防いだ。
カチン!
片やエクスカリバー。
片やレーヴァテイン。
伝説の剣を使った、5分間のチャンバラが始まった。