伝説の偽剣
side……『武川』
5階の扉を開けた先では、すでに戦いが行われていた。
部屋の周りには倒れた人やそれに肩を貸している人。
部屋の中央には唯一上へ繋がる階段があり、その周りで戦いが繰り広げられている。
戦いの輪は二つ、片方は森人さんを中心にした伽行を囲んでいるものだ。
もう一つは、音川さんを中心に誰かを囲んでいるみたいだが、アレはいったい誰だ?
レドナとリリィくらいの年だろうか、手に剣か偽剣を持っている少年だ。おそらく、伽行の隠し玉というものだろう。
つまりアレに対抗するために俺の剣に収められた板の力が必要ってことだが……ぱっと見た限り、恐怖を感じない。
もしかしたら違う可能性もあるよな。まずは、アレに近付いてみよう。
俺と三夜子は近かったこともあり、音川さんを中心とした輪の中に飛び込んだ。
「む? おぉ、創矢ではないか! 無事だったのだな!」
「武川さん! 七ヶ橋さんも!」
「2人共。無事でなにより」
その中で花正と萩浦を見つけた。音川さんも俺達に気付いたようだ。
そして、相手も、
「あれー? また増えたー?」
あの少年……もしかして、少し変わってるのか?
首を傾げていた少年は、手に持った物を振り上げて、
「ばくはつ……」
「させない。爆炎よ」
音川さんの剣が振られ、炎の塊が少年を目掛けて飛んでいき、爆発した。
かなりの一撃が避けもしない少年に直撃したが、煙が消えたそこには、
「あー、びっくりした」
その場から動きもしない少年の姿があった。
何だ? 剣の攻撃だから見た目に変化が無いのは分かるが。それ以前に全く攻撃が利いてないように見えるのは。
「やはり。利いてないか」
「え? それってどういう…」
「それについては、わたしが説明しよう」
隣に立つ花正が、剣の柄に手をかけながら語り出した。
「わたし達も創矢達が来る少し前から戦っているのだが、攻撃は当たっているにも関わらず一向に倒れる気配が無いのだ。まるで、攻撃が効いていないようにな」
「どういうことだ? 攻撃が効かないなら倒せないじゃないか」
「むぅ、それが分からないのだ。故に今に至るまで倒せずにいるのだ」
「それが、あの偽剣の能力ってことか」
答えたのは萩浦。
「だとは思うのですが、あの剣には僕達を吹き飛ばす能力もあるようなのです」
吹き飛ばす能力?
「ただ吹き飛ばさせるだけで、着地に失敗したり壁にぶつからなければ痛みは一切無いのですが、そのせいで迂闊に近づけないんです」
部屋の周りで倒れている人達はそういうことか。
しかしそれだと、吹き飛ばす能力と攻撃が効かない能力という2つの能力があるということになる。たったそれだけでこちらが全滅する程の隠し玉になるのか?
「あの剣について他に分かってる事は何かないのか?」
「それでしたら、」
「あの偽剣の名前はどうかな?」
花正達の反対側からの声に振り向くと、レドナとリリィが並んで立っていた。
「……アルクスさんは?」
いつもならその隣にいるであろうアルクスさんの姿がなく、三夜子が質問するとリリィから順に答えた。
「アルクスさんは……」
「……あの子とは戦えない、って、」
「剣を下ろしてしまい、」
「今は周りの人のサポートに回ってるよ」
戦えない。か……なるほど、アルクスさんらしい。
「それで、あの偽剣の名前だけど」
「先程言っていた言葉ならば、こう言っていました」
『レーヴァテイン。と』
「れ、レーヴァテインだと」
「……何だか、聞いたことある」
「はい、僕も聞いたことあります」
「うむ、なかなか有名な名前のようだな、創矢も知っているか?」
「あぁ、一応な」
もしもあの偽剣の名前がレーヴァテインだとしたら、聞いた話にも納得が行く。
「レーヴァテインは、その実体が分からない剣でもあるんだ」
今や様々な作品の中にその名前が出てくるレーヴァテイン。その多くが炎の剣や槍という形で表されることが多いが。
その実体に、一度もその姿を表すことの無かった正体不明の剣というものがある。
というのも、名前が初めて出てきた神話上において、レーヴァテインは使われるどころか、その姿さえ表れなかったのだ。
現物の出なかったレーヴァテインの特徴として書かれているのが、恐ろしく長いということ、それが槍として表現されている理由だ。
このように、本物の姿が無いレーヴァテインの偽剣が、どのような能力をどれだけ持っていたとしてもそれを間違いとは言えない。
「攻撃が効かない。相手を吹き飛ばす。もしかしたらそれ以外にも、考え方の数だけ能力があると考えてもいいかもしれない」
なるほど、この隠し玉なら確かに全滅の可能性があるな。
幸いなのは、レーヴァテインを持つあの子が普通と違う分、能力の連発が出来ていないことか。
「そういえば、アレは誰なんだ?」
「あの者は、伽行の息子で、伽行友也というらしい」
伽行の息子だったのか。
その時、友也がもう一度剣を振り上げた。
「ばくはつ……」
「させない。そう言った筈」
音川さんの行動の方が早く、再び爆発が起こった。
「創矢よ、何か手はないか?」
「実はあるんだ、この剣のパズルを解けばな」
「おぉ! ならば急いで頼むぞ」
「あぁ、少し待っててくれ」
俺は輪から外れ、剣に収められた板のパズルに手をかけた。
空いてる場所に板を動かして絵を完成させる物だが、元々の絵を知らない。こうではないか、という予想を合わせてみるしかない。
その絵を頭に浮かべながら、板を動かしていく。
縦に、横に、線の引かれた板を動かし。
そしてついに、思い描いた形まであと一枚を動かすだけになった。
「……コレは」
隣で見ていた三夜子も気づいたらしい。
「多分、コレで正解の筈だ」
パズルに描かれた線が、剣の形になっていた。
剣の中に剣を描く、まさに剣のパズル錠らしいじゃないか。
俺は最後の一枚に手を置き、
「コレで……どうだ!」
あるべき位置に、板を動かした。
すると、剣が光を帯び―――