加勢/不安
side……『花正』
「伽行の子供……その者が持つ剣に皆が吹き飛ばされたのだな」
「はい……申し訳ありません。ワタクシがもう少し早く動いていれば、このようなことには……」
「いえ、アルクスさんのせいではありません」
「うむ、その通りだ。悪いのは皆を吹き飛ばしたという伽行の子供だ」
つまりは、戦うべき相手が伽行ともう1人増えたということだな。
「神父さんは休んでいるといい、代わりにわたしが参戦する」
「牧師ですよ……ですが、ありがとうございます」
「うむ! 任せておけ!」
「ボク達も、」
「お手伝いしますわ」
アルクスさんの隣に立っていた双子も、剣を握りしめてやる気を示した。
「よし、行くぞ!」
わたしと萩浦、双子の4人で、伽行達を中心とした部屋の中央へと向かった。
そこでは現在、伽行と戦う森人さんを中心としたグループと、伽行の子供と戦う音川さんを中心としたグループに別れている。
特に考えず、近くにいたのでわたし達は伽行の子供の方へ。
「加勢するぞ!」
「んー? また、人がふえた」
伽行の子供は、剣を持つ手を下げて立っている。あの状態ならば、そもそもわたしの剣ならば問題ない。
柄に手をかけて、鞘から引き抜く。
「はっ!」
てっきり守られる、しかしわたしの剣はそれを通り抜けて攻撃が当たる。そう思っていたが。
何故か相手は、守るどころか動きもせずに攻撃を受けたのだ。
そもそもこの者を見た時から思ったのだが、まるで戦う気配が見当たらない。このような者にアルクスさんは吹き飛ばされ…
「マズい。すぐさま後退しろ!」
音川さんの珍しい大声に反応していると、
「そーれ。ばくはつ、どーん!」
剣が振り上げられ、次の瞬間にはわたしは謎の衝撃に吹き飛ばされていた。
side……『武川』
元の棟は6階へは上がれないので、元の道を戻る途中で更にもう一つ隣の棟へと足を止めることなく走り続けた俺達は4階の扉へたどり着き、部屋の中へ入った。
するとそこには、知った顔が数人。
「早山、国守さん、それに……」
「……月乃?」
「武川、七ヶ橋」
「お二人共ご無事だったんですね」
何故か右腕に包帯を巻いている早山と、左腕に包帯を巻いている国守さん。縛られて身動きが取れなくされている誰かと、床で眠るように動かない月乃がいた。このメンバーということは、ここはC組の棟か。
俺達が近付き、現在の状況を説明すると、国守さんがここであったことを話してくれた。
「そういう訳で、私と早山くんは負傷。月乃さんはレベルMAXの影響で目を覚まさないんです」
「……さっきと、同じ」
「あぁ、階田と同じだ」
まさかこの建物の中で一気に2人も剣のレベルが上がっていたなんてな。
「そして、こうして剣狩りは行動不能にしたので、戦える蒼薙さん、萩浦くんは森人さん達を追って上へと上がりました」
「俺達も上がります。伽行の隠し玉に対抗する為にこの剣が必要らしいので」
全ての板が収まった剣を国守さん達に見せた。
「えぇ、情報屋の方より伺っています。何でもこちらの全滅があり得るとか……それだけは避けなくてはいけません。全てのレベル5を統べる力、伽行に見せつけて下さい」
そういえば、国守さんの持つ剣もレベル5の『収納』だ。
「森人さんをよろしくお願いします。私達も月乃さんの回復次第向かいます」
「……頼んだぞ、2人共」
国守さんと早山、そして倒れている月乃を見て、俺達は部屋出て階段を上がっていった。
この階段を上り切った先が5階、そしてその上が伽行と隠し玉のいるだろう6階。
……決戦の時が、確実に近付いている。
俺がやることは、この剣に収められたパズルを解いて、伽行の隠し玉を止めること。
その隠し玉がどんなものなのかホウさんは教えてくれなかったが、おそらく偽剣の類だとは思う。
……俺に、出来るのか?
今になって、不安がこみ上げて来た。
それはそうだ、こちらの全滅がかかっているほど重大な事だ。不安にならない方がどうかしてる。
「……」
気が付いたら、俺は足を止めていた。
「……創矢?」
「……」
今まで考えていなかったが、もしも俺達が全滅した場合はどうなるんだ?
伽行によって俺達全ての剣が狩られて、その後に、伽行の願いが叶えられるのだろうか?
「……創矢」
伽行の願いが何かは分からない、それが叶ったことで、その後に何が起こるのか……
「創矢!」
「!?」
ふと気付くと、目の前に三夜子の顔があった。
驚いて後ずさろうとしたが、両肩を押さえられていて出来なかった。
「ど、どうしたんだ?」
俺が足を止めていたからだが、つい聞いてしまった。すると三夜子は、
「……大丈夫、だから」
うっすらと、微笑んだ。
「……創矢が、不安なのは分かる。でも、大丈夫。私が必ず、守ってみせる」
「三夜子……」
「……だから、安心して?」
「……」
……そうだったな。三夜子だって、双海さんと意図せずに戦って、勝利している。
それにだ、今まで見てきた陽花、ルカ、階田、早山、月乃、他の剣を持つ人達も、しっかりと戦っていた。
次は、俺の番だ。
「サンキューな、三夜子。もう平気だ」
「ん……頑張って」
「あぁ、行こう!」
再び足を動かして階段を駆け上り、俺達は5階の扉を開いた。