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文武平等  作者: 風紙文
第十一章
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虹を描く

side……『花正』


国守さんの策を聞いたわたしと月乃は、祢々切丸の剣へと向かう。

わたしは剣を、鞘を通過させて取り出した。剣の先に人がいないのならば通り抜けてしまうのはこちらの不利につながるからだ。

こうして能力を使った剣で、正面から飛び込んでいく。

まずは一振り、剣がぶつかり鍔迫り合いの状態になった。

「むむ……持ち手がいないのに力があるな」

わたしも力をかけることで動かないが、あちらの剣も押してきている。

従来の剣道ならば、ここから動きを読み合うのだが、今は相手がいない。

それに、こうして動きを止めることが目的なのだ。

「今だ!」

そこに月乃の三日月が現れ、剣を線で縛り上げた。

「おぉ! 上手くいったな!」

「まだよ!」

縛り上げられた剣が急に暴れ出した。拘束から外れようとしているのだろう。

「そうはいかないぞ!」

わたしは縛られている剣を上から叩きつける。しかし床には落ちず少し下がっただけでその場に止まり暴れまくった。

「あまり長くは持ちそうにないわね……」

「そのようだな。2人とも、頼んだぞ!」

ここで剣を抑えている間に、国守さんと萩浦は剣の持ち主である寧々の元へ向かっていた。

「覚悟してください!」

国守さんが目を閉じている寧々に向けて剣を振るった。

見えていなければ避けられるわけない。と思ったのだが、

「甘いですね」

寧々は目を閉じたまま攻撃を避けてしまった。

「視覚ぐらいなくとも来る気配で分かります」

その後も国守さんは剣を振るい、少し離れた場所から萩浦が衝撃波で援護するも、寧々はその全てを目を閉じたまま回避してしまう。

「なら、コレでどうですか!」

国守さんは剣に付けられた戸を開き、中から取り出したものは、

「新たな剣ですか」

見えていない筈の寧々が当てた、銀色の細い剣だった。

「ここへ来られない仲間から預かった物です。この手数でも避けられますか!?」

右手に短剣、左手に細い剣を持ち二刀流での攻撃が繰り出される。

「これはさすがに困難ですね」

言葉で言ったように、攻撃が所々当たりそうになっていく。

そしてそこに、萩浦の援護攻撃が飛んでいった。

「この数は回避不能ですね」

それにしては冷静な声を発した寧々は、

「仕方ありません」

右手を真っ直ぐと、前に向けた。

次の瞬間、抑えていた剣がするりと拘束から外れてしまった。

「え!?」

「なに!?」

驚くわたし達を無視するように剣は持ち主である寧々の方へと戻っていく。

寧々の前には国守さんが背を向けた状態で立っている。その光景を見てわたしは思った。

よし! 作戦通りだ! と。

国守さんの策は、寧々が避けられない程の攻撃を行い、剣を引き戻させることが目的なのだ。

こうして予定通りに剣が寧々の元へと戻されて行き、その前に背を向ける国守さん。

「そうは、行きませんよ」

身体を反転させて迫る剣を見つけた国守さんは、剣の開いた戸を突き付ける。

真っ直ぐに戻る剣を国守さんの剣の中に入れてしまうことで、攻撃手段を奪ってしまうという策は……





side……『月乃』


寧々の剣が戸の中に入る寸前、国守さんの手は力が抜けたように剣を手放して床に落ちた。

「なっ!? ど、どうしたというのだ!?」

「惜しかったですね」

寧々の声にそちらを見ると、その手には銀色の光る物が……さっき取り外した刃が握られ、国守さんの右手を切りつけていた。

「ま、まさか……バレていたのですか」

「そこより剣を取り出した時点で剣を入れられると予想出来ました」

「つっ……迂闊、でした」

国守さんはその場に膝を付いてしまう。

「国守さん!」

「近付かないで下さい」

駆け寄ろうとした萩浦を、手に戻った剣をそちらへ向けて目を開いた。

「一歩でも動けばもう一太刀当てます」

そう言って振り上げたのは剣ではなく、本物の刃の方。

「剣を狩らせていただきます」

「そんなこと……させるわけないでしょう!」

国守さんは落ちている剣の戸に手を入れて何かを取り出し、寧々へ向けて投げつけた。

「ムダです」

寧々はそれを剣で弾いてしまうが、その隙に国守さんは剣を拾ってこちらへと走ってきた。

「だ、大丈夫なのか?」

「あの刃を忘れてました、傷は深くないですが、剣を振るうのは難しいですね」

右手には真っ直ぐに切られた後が残り、血が滲んでいる。

「本当にすみません……」

「大丈夫です。ここからはアタシ達でどうにかしますから」

とは言うものの、何をどうすれば良いのか分からない。

自分だけで動く剣に、目を閉じいても攻撃を避ける持ち主、そして本当に傷つける本物の刃。

せめて、どれか一つでも封じることが出来れば……

「月乃、どうすれば良いのだ?」

花正が訊いてくる。

「大丈夫ですか、国守さん」

萩浦がこちらへと戻ってきて国守さんの隣へしゃがみ込む。

「平気です。この中に治療セットがありますので、すぐに」

「お手伝いします」

2人は治療を初める。

「……月乃」

そこに早山がやって来る

「早山、怪我は大丈夫なの?」

「振るうのは難しいが、使い方次第では力になれる」

「そう……」

出来ることは限られている。

そしてコレだけでどうにか出来るとは……思えない。

せめて、後一つ……何か……勝つために必要な、力を……



その時、アタシの剣が輝きだした。



「えっ!?」

「なっ!? 急にどうしたのだ!?」

「その光は、野山さんや音川さんと同じ……」

「ということは……」

光が消えると、アタシの手にあった剣が、形を変えていた。

片刃なのは変わっていないけど、柄の先に三日月の刃は無く、刃の色が少しずつが変化している。例えるなら、虹色に輝いていた。

「おぉ、それはまさかレベルアップなのではないか?」

「……」

「月乃、さん?」

頭の中に、剣の説明が流れ込んで来る。

「ガラドボルグ……変わった名前ね」

名前に続いて、能力の説明を聞いて、

「……なんてタイミングなのよ」

絶妙過ぎる剣のレベルアップに呆れるけど、それ以上に。

「コレがあれば、行けるかもしれないわ」

「そうなのか?」

「えぇ、多分だけど、上手く行けば…」

「お話しは終わりましたか」

今まで仕掛けて来なかった寧々は、どうやらさっき国守さんが投げた物を取りに行っていたらしい。

「まさかこちらの剣まで入っているとは」

剣の形をしているが、それは剣狩りの創った偽物の方だった。

それを投げ捨てると、目を閉じて剣を宙に浮かせた。

「次はその中身ごと狩らせていただきます」

右手が前に出されると、剣は一直線にこちらへと飛んできた。言葉からして、狙いは国守さんか。

アタシは4人の前に立った。

「何をするつもりなのだ月乃!」

「アタシ達が勝つために……相手の攻撃を奪うわ」

レベルアップした剣を構える。

この剣になったのは、多分偶然じゃない。今この状況で新しい力を求めたこと、そしてアタシのこれまでの剣の使い方が、この剣になった理由だと思う。

「虹を描け、ガラドボルグ!」

アタシは剣を横に振るった。

まだ寧々の剣は到着していないから、剣は空を切ったが。

その軌道上に、虹が描かれた。

そこに寧々の剣が迫る、恐らく狙いは奥に座る国守さんだが、

ストッ!

「へぇ、こうなるのね」

寧々の剣は、虹に突き刺さって動かなくなった。

「その程度で止めたつもりでしたら先程と同じ……?」

ここで初めて、寧々の一辺倒な言葉使いが崩れた。

「コレは……いったいどういうことです」

どうやら動かせないみたいね。

「月乃、これは何をしたんだ?」

「この剣はね、多分花正の剣に対するレベルアップよ」

「わたしの剣にか?」

ガラドボルグの能力は、相手の剣を抑える虹を描けるというもの。そして虹に刃が触れると、能力も使用出来なくなるらしい。

「だから今も」

通過する花正の剣も捕まえてしまう虹で、寧々の剣を捕まえることに成功した。さっき縛った時とは違い、全く動かない。

「これで相手の剣は封じたわ。後は、国守さん」

「分かりました」

治療はまだ終わっていないが、国守さんは切られていない方の手で剣を掴み、動かない祢々切丸の先を戸の中に入れ。

「これで、終わりです」

アタシが虹を消した瞬間、祢々切丸は中に吸い込まれて戸が閉められた。

「……」

その光景を、寧々は目を開いてしっかりと見ていた

「これで貴女の剣はもう使えません。大人しく降参してください」

「……」

寧々はゆっくり目を閉じ、手に持っていた本物の刃を床に落とした。

「頃合いかもしれませんね」

両手をゆっくりと上げ、

「降伏いたします」

自らの負けを、認めたのだった。

「お……おぉ! やった! わたし達が勝ったのだな!」

「えぇ、どうやらそうみたいね。アタシ達の…」

そこまで言った所で、急に声が出なくなった。

あ……れ……?

「? どうかしたのか、月乃?」

「月乃さん?」

皆の姿がだんだんぼやけて行き、そして、



アタシは、そのまま仰向けに倒れていった。



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